第40話 偽魔竜ジャヴァウォック



「勝利を確信したな。おまえの負けフラグは立った!」



 オレは不落の大盾をかまえて、光の魔石を活性化させた。

 大技を放つための魔力は、すでに溜めてある。

 最初の戦闘で神官たちの魔法攻撃を大盾で防ぎ、魔力を吸収している!



「【ホライゾンバースト】!」



 クリスタルゴーレムが放った極太の光線魔法を発動。



 ――――ズォォォォンッ!!



「ギャアアア!!!」



 灰は灰に。死者の軍団は一瞬でちりと化した。

 たとえ不死でも、本体ごと消し炭にさせられたら復活はできない。

 死に戻りでもしない限りは!



 ――――シャィィィン!



 まばゆい光は暗闇も照らし出す。

【シャドウゲート】で生み出した闇を打ち払い、メイメイの姿を丸裸にした。



「そんな……っ!!」



 光に飲まれて動きを止めるメイメイ。

 一瞬の隙を、あの天剣が見逃すはずもない。



「――――【壱ノ太刀イチノタチ】!」



 コジロウは俊足の踏み込みでメイメイに肉薄。



 ――――ザンッ!



 クリスタルソードで羽を切り飛ばし、脇差しの峰打ちでメイメイの腹部を殴打した。



「がは……っ!」



 非殺傷の峰打ちとはいえ、鍛え抜かれた剣士の一撃だ。

 メイメイは避けることもできず、白目を剥いてその場で気を失った。



「命までは取らぬよ。そのようなことすれば、拙者はまた道を誤ることになる」



 コジロウは剣と刀を下ろす。

 それから地面に倒れ伏しているユウキの体を抱え上げた。



「コジロウ……!」


「安心してくだされ。ユウキ殿はご無事でござる」


「違う! !」


「……っ!」



 ――――シュオォォッ!



 コジロウの死角から聖槍が飛んでくる。



「間に合えっ!」



 オレは全速力で駆け出し、盾技スキルを繰り出した。



「――――【カバーリング】ッ!!」



 ――――ガギン!



 間一髪。聖槍による即死の一撃は大盾に弾かれた。



「かたじけない。拙者はまた……!」


「いいってことさ。仲間を護るのが騎士の本分だからな」



 オレはコジロウと背中合わせになり、周囲を警戒する。

 この状況でユウキを抱えて逃げるわけもいかない。

 なぜなら――――



 ――――ズシャン!



 オレ達を取り囲む伏兵――壁で朽ち果てていたはずの魔女の人形が槍をかまえていたからだ。

 総勢で8体の裸体の人形がゆっくりとこちらに近づいてくる。



「同調完了」



 そのうちの1体が、パクパクと口を動かして人語を口にした。



「ユウキちゃんの魔力を奪って正解だったわ。少しガタがきてるけど、魔女の魔力は人形の体とよく馴染む」


「中にいるのはメイメイか……!」


「ご名答。ロイスくんが仲良しごっこをしている間に魂を分けておいたの。最初からヒトの肉体は捨てるつもりだったからね」



 メイメイの魂を宿した人形は感触を確かめるように、右手を開閉させる。



「このカラダは素晴らしいわ。老いも飢えもない。完璧な存在よ。人形に魂を入れ替え続ければ、永遠の命を手に入れるのと一緒。アタシはホンモノの魔女になったの!」


「メイメイ。ヒトを辞めてまでおまえは何を望むんだ?」



 チカラを求めれば、いずれコジロウのように鬼と化す。

 名声や地位のある教会のニンゲンも、永遠を求めて闇に堕ちた。


 だが、不老長寿になっても友や家族を失い、孤独に生きることになる。

 不死がロクでもないことは、オレが身をもって体験している。


 オレの問いかけに、朽ちかけた人形はキョトンと首をかしげた。



「さあ……? アタシ、どうしてココにいるんだっけ?」


「メイメイ。おまえ……」


「アタシは誰だったかしら。ねえ、アナタわかる?」



 人形は隣の人形に問いかける。

 だが、その人形も首をかしげた。



「しらないわ。そんなことどうでもいいじゃない。みんな、アタシちゃんになれば孤独も感じない。だって、アタシで世界があふれるんだもの」


「そうね。そうだわ! そうしましょう。ミンナでいっしょに溶け合いましょう」


「うふ、うふふ。うふふふ……!」



 人形たちは狂ったようにケタケタと笑い出す。

 オレたちのことなんて無視して、手を取り合って踊り出す。

 腹部の死印が妖しく輝き、そして――。



 ――――



 自分たちの体を引っ張り合い、潰し合った。

 元々朽ちかけていた人形の体は一瞬にして瓦解。

 誰が誰で、どこがどれで、何がメイメイだったのかわからなくなる。



 ――――カタカタカタ!



 崩れた人形のパーツが独りでに動き出す。

 地面に描かれた魔法陣が光ったかと思ったら、空中に死印が浮かび上がった。



 ――――ヴゥィン!



 浮かんだ死印を中心に、パーツが組み合わさる。

 それだけではない。不死の騎士の鎧や神官達の肉片、岩や血だまり、その他ありとあらゆる不浄のモノが合体して――。




「GAAAAAAAAAAAA!!!!!」



 黒いウロコを持つ、巨大な一匹の竜に変身した!

 巨体によって封印の間が破壊される。



「崩れるぞ!」



 オレとコジロウはユウキを連れて、急いで外に脱出した。

 溶岩の間を伝う天然の陸橋を渡って、できるだけ距離を取る。



「GRUAAAAAAAA!!!」



 竜は大扉も破壊して、外に這い出てきた。

 大きな口から腐臭を漂わせ、赤黒い闇のオーラを身にまとう。



「あれは魔竜なのか?」


「そうだ」



 オレ問いかけに答える声があった。



。それがあの怪物の名前だ」


「ユウキ……! 目を覚ましたのか」



 気がつけばユウキが目を覚ましていた。

 コジロウがユウキを介抱して起き上がらせる。

 オレは大盾をかまえながら、背後にいるユウキに声をかける。



「動いて平気なのか?」


「メイメイが気を失った瞬間に魔力が戻ったんだ。とはいえ、かなり持っていかれたけどね。魔装具を召喚できるのも一度きりかな」


「メイメイ殿はいったい……?」


「魂を分けて自我が薄れたところに、人形に元から宿ってる魔女マリアの記憶とも混ざり合って精神が崩壊したんだ。ボクのように人形に魂を安定させるには時間が必要だ。付け焼き刃で操れるほど死印の呪いは甘くない」



 ユウキはそこでコジロウに対して首を振る。



「ごめん。もっと早く伝えるべきだったね。吸血鬼に堕ちた時点でメイメイは戻れなくなっていたんだ」


「左様でござったか……。拙者のように戻れるやもしれぬと甘い期待をしておったが」


「コジロウさんの鬼人化は妖刀によるものだ。けど、メイメイは死印研究の末に自らの魂を闇に染めてしまった」



 ユウキはオレの隣に立つと魔装具を召喚。魔女服に身を包んだ。

 それからプリズムワンドを手にして、目の前の魔竜を睨みつけた。



「ねえ、ロイス。ボクのワガママ聞いてくれる?」




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