第36話 奈落堕ち


「でも、残念。詰んでるのはそっちよ」



 ―――



 足下に広がっていた封印の魔法陣が光り始めた……!

 途端に体からチカラが抜けて、オレもユウキも片膝をついてしまう。



「がっ……!?」


「あぐ……っ! ち、チカラが……」



 オレとユウキの魔力が魔法陣に吸われている……!?



「あははは! ざまぁないわね! やっぱりロイスくんは何も変わっていない。チカラに溺れて足下が見えていなかったようね」



 メイメイは魔法陣の外側から、地面に膝を突くオレとユウキを見下ろしてくる。



「地下を流れる溶岩。そこに宿る炎の精霊の力を使い、死印を制御する術式がこの封印の間には張り巡らされているの。その術式を利用すれば……」



 パチン、とメイメイが指を鳴らす。



 ――――シュゥゥン!



 魔法陣が黒く輝き、魔法陣が吸収していた魔力がメイメイに注ぎ込まれた!



「ああ、流れ込んでくるわ。ユウキちゃんがこれまで溜めてきた上質の魔力が!」


「くっ……。魔装具が……!」



 メイメイに魔力を奪われて、魔装具状態が解除されてしまう。

 それだけではない。ユウキは体力まで失って、その場に倒れてしまった。



「うっ……。ダメだ。意識が……」


「ユウキ……!」


「ユウキちゃんは魔力で動くお人形さんだものね。命を吸われているのと一緒よ」



 メイメイはそこでステータスを表示する。



 ――――――――――――――――


【メイメイ・ライラック】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:ヴァンパイアクイーン(Lv72)


 ●能力値:

  【体力415】【反射611】【知覚888】【理知1278】【幸運15】


 ●所持スキル:

  【ダークエンチャント】【ダークビーム】【シャドウゲート】【ネクロマンシー】【ブラッドクロー】【闇の寵愛】【属性魔法/神話級】【補助魔法/神話級】【状態異常魔法/上級】【感知魔法/上級】【身体強化/上級】【吸血】【魔魅了チャーム】【飛行】


 ――――――――――――――――



「ああ、素晴らしいわ! たぎる。たぎるわ……。もう我慢できない。アナタの体に眠る魔石を食べれば、アタシはもっと強くなれる」



 メイメイは興奮したように自らの胸を揉むと、魔法陣の結界を解いてユウキに近づいた。



「魔女の名はアタシが引き継ぐから安心して。いっしょになりましょう、ユウキちゃん」


「待て……っ!」



 オレは意識をもうろうとさせながら、それでも体を起き上がらせてユウキとメイメイの間に入る。

 結界で封じるのは死印のチカラだけだ。オレはまだやれる……!



「ユウキはやらせない。コイツはオレのオンナだ!」


「……なにそれ。しらけるわ。おままごとを続けるつもりなのね」



 メイメイは血のように真っ赤な爪を長く伸ばすと、オレの顔に向けてきた。



「これが最後よ。命乞いしなさい。アタシの靴を舐めるなら許してあげる」


「誰が……っ」


「そう……。本当に残念ね。アタシ、言うこと聞かない悪い子は嫌いなの」



 メイメイは長く伸びた爪をかまえて。



「出番よ。アナタの強さを証明なさい」



 オレの背後にある影、そこに潜む伏兵に呼びかけた。

 影から姿を現したのは――――。



「【闇ノ太刀ダークスラッシュ】」


「な……っ!?」



 ――――ズシュリ。



 影から現れたコジロウに、刀で背中を刺された。



「コジ、ロウ…………っ」


「これが拙者の答えでござる」



 強烈な痛み、それ以上に耐えがたいほどの熱が背部を襲い、オレはその場に倒れた。



「あははは! 悔しい? いまどんな気持ち? 前ばかり見てるからそうなるのよ」


「ロイス……っ!」



 地面に倒れているユウキが、必死の形相で手を差し伸べてくる。



「ユウ、キ…………」



 ユウキと手を繋ごうとするが……。



「ごほっ……!」



 口から溢れるのは鉄臭い血の塊。



(まずいなこれは……)



 本能で悟る。

 結界で死印のチカラを封じられた今、死に戻りスキルは発動しない。

 伸ばした指の先から冷たくなっていく……。



(どこで間違えたんだろう……)



 迫る死の瞬間を前に、オレの頭には後悔ばかりが浮かんだ。

 いまさら後悔しても遅い。そんなことはわかっている。


 けれど、もし人生をやり直させるなら。

 そのときは――




 ――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ―――――――――

 ―――――



『以上が、おまえが歩むことになるひとつの未来だ』



 ―――――

 ―――――――――

 ――――――――――――

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 深い深い闇の中、椅子に座った独りの男

 ―――――は、オレにそう語った。

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