第32話 パーティー再結成。我らがフラグを立てろ


 それからオレとユウキは、鍛冶師の元で装備を一新させた。


 オレは武器として、クリスタルソード。防具として不落の大盾。

 それと重量軽減の常時バフがかかった魔法の鎧【フェザーメイル】を装備した。

 防具の質を落とさず、できるだけ身軽になるように調整した。



「えへへ。体が軽~い♪」



 大通りを歩きながら、ユウキはウキウキとした表情を浮かべている。


 ユウキも軽量方向に装備を整えた。

 手にはプリズムワンド。肩にはレッドハーブやポーションが詰まったポシェットを下げている。

 上着は白いノースリーブのサマーセーターで、下はミニスカートだ。

 戦闘時は魔装具を召喚することも多いため、防御力は無視してデザイン性と機動性を重視したらしい。

 冒険に出る際はこの上に魔法防御効果のあるマントを羽織るが、今は街中なので脱いでいる。



「本当にかなり軽量になったな。そんなに肌を露出して平気なのか?」


「これから溶岩がポコポコ湧き出てる魔竜の洞窟に挑むからね。暑さで倒れないようにしないと。それに……」



 ユウキはウインクを浮かべて、オレに笑顔を送ってくる。



「いざという時はロイスが護ってくれるでしょ? だから軽装でも平気だよ」


「それはそうかもだが……」


「それともロイスは彼女の肌を他の人に見られたくないタイプ? それならガチガチに固めるけど」


「いやまあ。あまり見せたくないが、それだとオレも目の保養ができなくなるからな」


「おや~? ロイスくんも素直になりましたねぇ」



 ユウキはニヤニヤと笑うと、オレのそばに近づいてきてサーマーセーター越しに大きな胸を押し当ててきた。



「ふふふ。いいよ。そんなに見たいなら宿で見せてあげる」


「ばーか。昼間からやめろ」



 オレはユウキの肩を抱き寄せると、マントを手渡した。



「やっぱり普段はマントを着てくれ。これからクエストだっていうのに、おかしな気分になる」


「あ、うん……。わかった」


「どうした? 急に顔を赤くして」


「いやぁ……そんな風にガチ目な反応されると思わなくて。ボクのこと意識してくれてるんだね」


「当たり前だろ」



 そう口にして自分でも驚く。

 そうだ。オレはいつの間にか、当たり前にユウキを好きになっていて。



「何が当たり前なのかな?」


「やっぱり何でもない……」


「えええ~!? そこでやめたら余計気になるじゃない。男らしくスパっと言ってよ」


「ダメだ。せめて洞窟から帰ってきてからだ。そうしたら時間を作るから」


「じゃあ約束だね。ロイスの告白をご褒美にクエスト頑張るよ」


「おまえ、それほぼ答えみたいなもんだぞ……」


「えへへ。でも、こういうのはロイス自身の口から伝えてもらわないと」


「わかったよ」



 嬉しそうにマントを羽織り、はにかむユウキ。

 オレは苦笑を浮かべて並んで歩く。


 お互い、もう答えはわかっている。けど、今はまだ答えを出したくなかった。

 クエスト前なのもあるが、もうしばらくユウキとの甘い時間を過ごしたくて。



「そういえば、死印を通じてカーラに魔力を分けてもらったと言ったよな。まさか裸で抱き合ったのか?」


「ふふ~ん? 気になる~?」


「それなりには……」


「安心して。カーラが描いた魔法陣と精霊の加護、それと地脈を通じて魔力を譲ってもらったの。他者に魔力のパスを開くには精神的な繋がり、つまり心の交流が必要になるんだけど……」


「???」


「簡単に言えば、カーラとの友情が芽生えたことで魔力の受け渡しに成功したってわけ」


「なるほどわかりやすい」


「愛情や忠誠心でも魔力の受け渡しは可能だよ。あとは相手を屈服させたりね」


「死印持ちを倒してチカラを奪うことも可能なんだな」


「そうそう。ロイスを押し倒したときみたいにね」


「オレはユウキに屈服したわけじゃないぞ。どちらかといえば……」


「どちらかと言えば?」


「なんでもない」


「またそれ~」



 オレが言葉を濁すと、ユウキは不満そうに頬を膨らませた。

 オレの気持ちはクエスト後に伝えると約束したんだ。今は黙っておこう。



「ロイス殿、ユウキ殿っ」



 オレとユウキが仲良く通りを歩いていると、人混みの中からコジロウが現れた。



「遅れてすみませぬ」


「大丈夫。魔竜の洞窟に向かうのは明日だ。それよりすまなかったな。修行中に呼び出して」


「滅相もない。むしろこの時を待っていたでござるよ。旅の途中で拙者なりの答えを見つけました」



 コジロウはそう言うと、腰に差していた黒い鞘をオレたちに掲げて見せた。



「この刀の名は。握るだけで身体強化バフの恩恵を得られ、拙者の気合いに応じて鋭さが増す業物でござる。この名刀と共に鍛えた拙者のチカラ。存分にご覧に入れよう」


「そいつは頼もしい。な、ユウキ」


「そうだね。ボクらの武器みたいに強化魔法の多重バフにも耐えられそうだ。これで一気に戦力強化できるよ」


「ほほう。なるほどなるほど。お二人も相当の業物を手に入れたようでござるな」



 コジロウは値踏みするようにオレとユウキの装備を眺めたあと、「はて?」と首をかしげる。



「ユウキ殿もロイス殿もステータスがおかしくありませぬか? まるで成長していない」


「外を歩くときは本当の能力値を隠してあるんだよ。コジロウも戦って知ってるだろ? ユウキの実力を」


「左様にござるな。本気を出したユウキ殿は一騎当千。ゴールド……いや、その先のプラチナランクの冒険者にも引けを取らないチカラをお持ちであった」


「えへへ。コジロウさんにそうやって褒められると悪い気はしないなぁ」


「ユウキ殿を軽んじるような発言は二度とせぬよ。それで痛い目に遭ったでござるからな」


「わかる」



 オレはユウキを無能だと追い出して、コジロウはユウキに舐めプして仕返しをされた。

 同じ人物にリベンジされた仲間として、オレは勝手に親近感を抱いていた。



「英雄クラスの冒険者が街を歩いていたら騒ぎになるだろ? だからズルをしてステータスを隠してるんだ」


「コジロウさんには後で本当のステータスを見せるね。ロイス曰く。戦闘で生き残るためにもパーティーの実力を把握するのは大事だ。キリッ」


「おまえ馬鹿にしてるだろ……」


「お二人は今日も仲睦まじいでござるな」



 オレとユウキのやり取りを見て、コジロウはほっこりとした顔を浮かべる。

 コジロウとは数週間ぶりに顔を合わせたが、ユウキとも仲良く話をしている。

 これなら魔竜の洞窟の攻略もスムーズに進みそうだ。



「決起集会だ。今日はとことん飲むよ」


「拙者、これでもいける口でしてな。ユウキ殿、一戦お手合わせ願いたい」


「望むところだ!」


「明日は早いんだ。ほどほどにしておけよ」



 少し引っかかるが、せっかくのいい雰囲気だ。水を差すのも悪いだろう。

 能力値を底上げして魔法の装備も手に入れた。頼れる仲間とも合流した。

 ウチのパーティーの実力は申し分ない。





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 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 (ん……? なんかこの流れ、どこかで読んだな……)


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