魔竜の洞窟編

第31話 魔法の装備でフルパワーアップ


 カーラと別れを告げてから、1週間が経過した。

 鍛冶師に鋳造を依頼した武器が完成したと連絡が入り、オレとユウキは工房へ向かった。



「来たか。依頼の品は完成してるぜ」



 ガタイのいい角刈りのオッサンがハンマー片手に奥から現れ、弟子に指示を送って武器を運ばせる。

 運ばれてきたのは、水晶の剣と水晶の杖だった。



「ご注文のクリスタルソードとプリズムワンドだ。できあがりを確かめてくれ」



 鍛冶師に促され、オレはクリスタルソードを手に取った。

 ユウキもプリズムワンドを手に取り、目を輝かせる。



「すごい。手にしただけでわかるよ。これはイイモノだ~」


「軽いな。刀身を水晶にしてあるのか」


「おうさ。ご注文通り、剣の強度より魔法付与の効果を向上させた。お連れさんの杖も同じ仕様だぜ」



 剣を軽く振って感触を確かめる。

 軸は鋼にしてあるが刀身はすべて水晶で出来ていた。光にかざすと刀身が虹色に輝く。



「扱いには注意しろよ。アンタらの武器は特殊だ。魔法付与の多重バフには耐えられるが、素の状態での耐久力は低い。特にワンドはメイスとは使い勝手がまったく違う。殴る相手は選べよ」


「わかった。普段の戦闘はロイスとコジロウさんの剣に頼ることにするよ」


「ユウキは元々後方支援メンバーだ。コジロウも戻ってくる。戦闘はオレたちに任せろ」



 ウチのパーティーはユウキの魔法援護が要だ。

 弱点を補うより長所を伸ばしていきたい。

 クリスタルゴーレムを倒して手に入れた魔石は、魔法吸収効果を持つ。

 その特性を装備にも反映させて、魔法バフ効果の向上を重点に置いた。



「んで。コイツが大本命。賢者さまから貰った発注書を元に造った、特注の大盾だ」



 鍛冶師は大盾を覆っていた白い布をはがして、オレの前にその全容を公開した。



「おお、これは……」



 鉄で出来た大盾の表面は、白銀に輝く水晶で覆われていた。

 盾の中心部には黒い真珠のような巨大な魔石がはめ込まれている。



「大盾の基本素材は、大地と金の精霊の加護が宿った特殊な鉄鋼板だ。こいつは賢者さまから素材を譲ってもらった。硬度はメタルドラゴンのウロコ以上。並の剣じゃ歯が立たない。まさに鉄壁だな」



 鍛冶師は盾の説明をしながら、表面の水晶と中心部にはめ込まれた黒い魔石を順番に指差していく。



「表面の水晶部分は光の魔石だ。こいつで光と聖属性の魔法攻撃を防ぐ。そして、中心にある魔石の効果で闇と魔属性の魔法攻撃を吸収する」



 光の魔石は、クリスタルゴーレムを倒した際に手に入れたものだ。

 闇の魔石はダークポイズンスライムの巣穴から見つかったもので、オレが気絶したあとユウキが拾っていたらしい。

 大盾を造る際に必要だとカーラが言うので、鍛冶師に渡していたのだ。



「こいつはマジですげぇぞ。光と闇、聖と魔。相反する属性の魔法効果を宿すと、普通なら武具が壊れる。だが、そこはさすがは賢者さまだな。中立存在である精霊の加護を盾に宿すことでチカラのバランスを保っているんだ」


「魔法力学の応用だってカーラが言っていたよ。ロイスの戦いっぷりを見て閃いたんだって」


「オレの?」


「魔装具状態の盾で、クリスタルゴーレムの光線魔法を防いでたでしょ。ロイスは自然と使いこなしてたけど、アレってものすごい技術がいるんだよ。鍛冶師さんが言うように聖と魔。相反する属性の魔力を制御してたんだから」


「そうなのか? 無意識にやってたから気がつかなかった」


「がはは! さすがは勇者さんだ。言うことが違うねぇ」


「勇者?」



 鍛冶師の言葉にオレは首を傾ける。



「だってそうだろう。禁域と呼ばれた水晶の洞窟から古代の魔石を手に入れてきたんだ。しかもあの賢者さまの知り合いで、これから魔竜の洞窟に挑もうとしている。そんなおヒトを勇者と呼ばずに何て呼べばいいんだい?」



 鍛冶師は惚れ惚れとした表情を浮かべて、オレを見つめてくる。



「ああ、本当にすごいぜ……」


「そ、そうか?」



 なんだか久しぶりだな、この感覚……。

 不落のロイスと呼ばれていた時代が懐かしい。

 今もそう呼ばれているが、相棒のユウキの実力と正体が凄すぎて霞んでいた。

 オレは元々やればできるタイプの冒険者だったはずだ。実際、オレはすごいはず。

 そうしてオレが自信を取り戻していると。



「見てくれ! しかもこの大盾は変形機能付きなんだ!」



 鍛冶師は恍惚とした表情を浮かべて大盾を撫でた。

 すると、巨大な大盾が瞬時に小型のラウンドシールドに変形した。



「小さくすれば持ち運びも楽々。狭いダンジョンでも持って行ける。いやぁ~、我ながら最高の仕上がりになった。賢者さまには感謝してもしきれないぜ。アンタもこの【不落】の大盾に負けないくらいの活躍をしてくれよな」


「【不落】……?」


「そうさ。アンタにふさわしい名前だろ? 不落の勇者ロイスさん」


「ありがとう。大切にするよ」



 どうやら鍛冶師は自分の作品に熱い視線を送っていたようだ。

 オレは苦笑を浮かべて【不落】を受け取る。



「どうしたの勇者さま? まさか自分が褒められたと思った?」


「うるさい」


「まあまあ。実際、ロイスはよくやってると思うよ。勇者はさすがにおだて過ぎだと思うけどね」


「どこから目線でモノを言ってるんだ。このへっぽこプリーストめ」


「それは昔の話でしょ。レベルアップもして武器も強くした。もう足手まといなんて言わせないんだから」


「がはは。仲の良い勇者さまご一行だな。景気づけだ。他の装備もそろえていきな。金なら賢者さまから貰ってるからよ」


「ありがとう!」




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