第28話 最終試験


 ――――ピカッ!



 地面に散らばっていた水晶の破片が輝く。

 それだけではない。天井や床、壁、部屋にあるあらゆるモノが輝いた。



「伏せろユウキ! このダンジョンそのものが敵だ!」


「……っ!?」



 オレはユウキの元へ駆け寄り、漆黒の盾を頭上に向けてかまえた。



「【ワイドカバー】!」



 盾技スキル【ワイドカバー】は、対象を庇う【カバーリング】の上位スキルだ。

 盾を天に向けてかまえることで、半円形に防御の加護が発動。

 矢の雨や落石攻撃、毒性のある雨などから盾の下にいる人間を護る。



 ――――シュゴゴゴゴッ!!!



 四方八方から降り注ぐ光の雨。


 あらじめ盾に魔法バフをかけておいて助かった。

【ライトエンチャント】と【シールドエンハンス】に加えて、オレ自身の【光魔法耐性】が盾技スキルにも影響を与えている。

 水晶の乱反射を利用した、全方位からの光線魔法を防ぎきることができた。



「はぁはぁ……! ユウキ、怪我はないか?」


「うん。ロイスが護ってくれたおかげだよ」


「周囲に散らばってる水晶だけじゃない。部屋の壁や天井、床もすべて魔石だ」


「ご名答」



 オレの忠告に、宙を漂っていたカーラ人形が笑う。



「この水晶の洞窟は魔石の炭鉱じゃ。長い年月を経て洞窟そのものが意思をもち、魔物と化した。クリスタルゴーレムは心臓部に入り込んだ害虫を駆除する、自動防御装置にすぎん」



 カーラ人形は、ふわりと宙に浮かんで部屋の中心に向かう。

 人形の動きに呼応するかのように、周囲に散らばったクリスタルゴーレムの欠片も宙に浮かんだ。



「ゴーレムを倒してもクエストは終わらぬぞ。魔物の動力源となる魔石は洞窟そのものじゃからな」



 パチン! とカーラ人形が短い指を鳴らす。



「マ”アアアアアアアアア!!!!」



 たったそれだけで、砕けた破片は元のクリスタルゴーレムの姿に戻った。



「無限復活するボスなんてチートだろ!」


「おぬしが言うと冗談にしか聞こえぬが……。これは試験じゃ。ユウキ、おぬしのチカラを試すためのな」



 カーラ人形はクリスタルゴーレムの肩に腰掛けると、ユウキを見下ろした。



「単純なチカラ比べはおぬしの勝ちじゃ。ここからは知恵比べといこう。ワシが課す最終問題を見事解いてみせよ!」


「マ”アアアアアアアアア!!!!」



 ――――ピカッ!



 クリスタルゴーレムが再び光線を放った。

 だが、狙いはオレたちではない。



 ――――キンキンキンキン!



 天井に向けて放たれた光線が跳ね返り、床や壁、ゴーレムの体に当たって乱反射を繰り返す。



「それでも!」



 光線魔法はすでに対処ができている。

 オレは咄嗟に盾をかまえるが。



 ――――シュゥゥ……。



 漆黒に色塗られていた盾の表面が剥がれ、元の聖騎士の盾に戻ってしまった。



「くっ……! 魔力切れか……!」



 レッドハーブや首輪のブーストがあっても、連続でのスキルの使用は負荷が大きい。熱線を受け続けて盾も使い物にならなくなっている。

 それだけでなく……。



「はぁはぁ……っ。チカラが抜ける……」



 がくり、とオレは膝を突いてしまった。

 洞窟のあらゆる場所に広がる魔石に、体内の魔力を吸われている。

 【虫の知らせ】で感じていた不快感の正体はコレか……!



 ――――シュパンッ!



「がっ!」



 体勢が崩れたところで、死角から光線を撃たれてしまった。

 肩の装甲が一瞬で溶けて、肩に大やけどを負う。



「ロイスっ!」



 ユウキが慌てて駆け寄ってきた。

 血を流しているオレの肩に手を添えて魔力を込める。



「【ダークヒール】!」


「すまない。ヒロインを護るナイト役がこんなザマで」


「ううん。ロイスは格好いいよ。ボク、ずっとキミに護られてばかりだったよね。次はボクがキミを護る番だ」



 ユウキは首を横に振ると、オレを庇うように一歩前に出た。



「かかってこいカーラ! そんなに見たいなら見せてあげるよ。傾国の魔女の本気を!」


「くふふ。よいぞ! それでこそワシが憧れた魔女さまじゃ!」



 カーラ人形は歓喜の声をあげると、自らの魔力をクリスタルゴーレムに注ぎ込んだ。



「古の契約に従い、我が呼び声に応えよ。光の精霊、ウィル・オ・ウィスプ! 大地の精霊、ノーム! 二大精霊のチカラをもって目の前の敵をほふれ!」



 カーラのユニークスキル【精霊使役】が発動。

 同時にユウキも両手を前に掲げ、魔力を集中させた。



「もっとだ! もっとチカラを!」



 ユウキが魔力をチャージする。

 ユウキの背中に黒い光の翼が浮かび上がった。



「あの翼は……」



 覚えている。前世のオレが殺されたときに見た漆黒の翼だ。

 あの時、ユウキは黒い剣に魔力を込めた。今回は――



「【ダークネスブロークン】は使わせぬぞ!」



 カーラの号令により、クリスタルゴーレムから極光の魔法光線が放たれる!



「【ホライゾンバースト】!!!!」



 朝焼けのような赤光が、フロアすべてを一瞬で飲み込んだ。

 超光熱の熱波が周囲を包みこみ、鎧の護りを貫いてオレの全身を焼く。



(オレは【炎耐性】と【頑強】があるから耐えられる。だがユウキは……!)



 慌ててユウキの様子を窺うと。




「それを待っていた!」



 ユウキは身を焦がしながら、魔力を込めた両手で光線を受け止めた。



「【闇の寵愛】!」



「……っ!? 光魔法が魔属性に変換されたじゃと!?」



 予想外だったのか、カーラが驚いた声をあげる。

 ユウキの反撃はそれだけでは終わらない。



「かーらーのー!」



 ユウキは床に両手を突くと、魔属性に転換した膨大な魔力を一気に放出した。



×



 魔力を吸収する特性を持つ魔石に、魔属性の魔力が注ぎ込まれる。

 すると、次の瞬間――。



 ――――パリィィィンッ!



 フロアを覆っていた水晶がすべて砕け散った。


 それだけではない。

 洞窟の魔石を動力炉にしていたクリスタルゴーレムもまた、膨大な魔力を注ぎ込まれて――。



「グオォォォォ…………」



 クリスタルゴーレムは断末魔の叫びをあげながら粉々になった。

 砕けた水晶の破片は負荷に耐えられずに、チリとなって消えていく。



「やったぁ……」



 力を使い果たしたユウキがその場に倒れ込む。

 魔装具は消失。元のプリーストの姿に戻ってしまった。



「ユウキ!」



 オレは駆け寄り、ユウキの体を抱きかかえた。



「大丈夫か?」


「えへへ。張り切りすぎて全部のチカラ使っちゃった……」


「お見事」



 ふわり、と宙に浮いたカーラ人形がオレたちの元にやってくる。



「【魔力吸収】を逆手に取り、【ダークエンチャント】でオーバーロード過負荷現象を起こさせたか。注ぎ込まれた魔力を御しきれず、洞窟中の魔石が連鎖崩壊しおった」


「与えたのは魔属性の魔力だからね。聖属性や光の魔法を使うモンスターにとっては、毒を食べさせられるようなものだよ」


「その痛さは身にしみてわかる……」



 オレも【ヒール】を食らって悶絶死したことがある。

 ゴーレムに痛覚があるのかわからないが、負荷に耐えられずに内側から崩壊したようだ。



「おっとそうだ。魔石の回収がクエスト達成条件だったな」



 オレは消えかけていた魔石のかけらを回収して、ユウキの手に握らせた。



「落とすなよ」


「ありがとう」


「くふふ。忘れてなかったか。よかろう。試験は合格じゃ!」

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