第26話 即死トラップを攻略せよ


【シールドバッシュ】の二連撃で、通路を塞いでいたロックゴーレムを撃破した。



「よし! これで通路を確保できたぞ」


「すごいやロイス! 一人でロックゴーレムを倒しちゃうなんて」



 ユウキの賛辞にカーラ人形も感心したように頷く。



「ロックゴーレムの脅威度はボストロール並み。シルバーランクの冒険者が束になってようやく倒せる相手じゃ。『不落』の二つ名は伊達ではないな」


「自分でも驚いてる。いつもよりパワーがみなぎってる気がするんだ」


「シチューに入れたレッドハーブのおかげかもね。商人のおばちゃんに感謝しないと」


「回復魔法は効かないけど薬草の類いは効果あるんだな」


「天然由来の合法ハーブだからじゃない? いまのロイスは聖属性が苦手なだけなんだと思う」


「なるほど。回復用に薬草を常備しておくのも手か」


「うーん。ボクとしてはロイスを【ダークヒール】漬けにして、ボクなしでは生きられない体にしたいんだけど」


「さらっと怖いことを言うな」


「おしゃべりはそこまでにせい。試験中じゃぞ」



 ユウキの胸元にいるカーラ人形が、ため息をつくジェスチャーを取る。



「ロイスの実力は証明されたが、そもそもこれはユウキの昇格試験じゃ。本気を出さぬと彼氏に愛想を尽かされるぞ」


「それは大変だ! ロイス、ボク頑張るね!」


「期待してるぞ」



 オレとユウキは警戒を続けながら洞窟の最深部まで向かった。

 洞窟内にはロックゴーレムの他にも、ジャイアントスラッグ巨大ナメクジ、魔石を収集する癖のあるホブゴブリンなど小物のモンスターがいた。



「ジャイアントスラッグは鎧や魔石を溶かして食べるんだよな。裸にされた冒険者は謎の粘液まみれになるらしい」


「うえー。エロトラップダンジョンじゃん。汚物は消毒だ~!」



 ジャイアントスラッグの巣穴は、炎属性魔法を付与した剣とメイスで焼き払った。

 魔力を消耗したが、脱出時に襲われたら面倒なので巣ごと焼き払うのがベストだ。



(岩の精霊であるゴーレムは魔石を原動力にすると聞く。魔石を食べるナメクジに、魔石を集める小鬼か……)



 なぜか魔石関連のモンスターばかり登場する。

 水晶の洞窟そのものに何か秘密があるのだろうか?



「見てロイス。通路の先に大きな扉がある」



 オレが考え事をしていると、ユウキが前方にある鉄の扉を指し示した。

 すると、ユウキの胸元にいたカーラ人形が満足げに頷いた。



「ここまでは見事であった。魔物の奇襲や張り巡らされた罠も見事に避け、大きな怪我もなく最深部まで到達した」


「ロイスの虫の息のおかげだね!」


「虫の息じゃなくて【虫の知らせ】な」



 罠の位置は危険感知スキルで『なんとなく』わかった。

 おかげで罠解除スキルがないオレたちでも対処(叩いて壊す)できた。

 ある意味、死亡フラグを回避しまくったと言えるだろう。



(けど、やっぱり気持ち悪さが拭えないな……)



 洞窟に入ってから体が重い気がする。

 背中の痒いところに手が届かない。そんな苛立たしさも覚えていた。

 これも【虫の知らせ】の効果か。



「本番はここからだ。油断せずいこう」


「うん!」



 オレは頬を叩いて気合いを入れ直す。

 警戒しながら鉄の扉を押し開き、中に入ると――――。



 ――――ミ””ッ!



 扉の隙間から目映い光が溢れ、オレは1000℃の光線魔法で焼き殺された。



 ――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ―――――――――

 ―――――



「来るとわかってたけど対処できなかった!」


「えっ!?」



 扉に手を置いたところで、オレは叫んだ。

 ユウキの視点ではオレがいきなり発狂したように見えるだろう。

 目を見開いて驚いていた。



「中に罠があったの?」


「ああ。扉を開いたら光線魔法で焼かれた」


「本当だ。ロイスのステータスに【光魔法耐性】が増えてるよ」



 ――――――――――――――――


【ロイス・コレート】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:デュラハン(Lv16) ファイター(Lv30)


 ●能力値:【体力87】【反射59】【知覚51】【理知37】【幸運1】


 ●ユニークスキル:【死因回避】

 ●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】【水中呼吸】【水泳/中級】【電撃耐性】【聖属性耐性】【頑強】【苦痛軽減/体】【苦痛軽減/心】【毒耐性/上級】【病毒耐性】【麻痺耐性/上級】【石化耐性】【催眠魔法耐性】【睡眠魔法耐性】【虫の知らせ】【



 ――――――――――――――――



「ここもオレに任せてくれ。ユウキは光属性の魔法を盾に付与してくれるか? 武具強化も頼む」


「了解」



 ユウキはオレの持つ盾に手をかざして、強化魔法をかける。



「【ライトエンチャント】&【シールドエンハンス】!」


「これでよし」



 光線魔法は熱によるダメージも当ててくる。

 強化された盾に加えて、オレ自身の【光魔法耐性】+【炎耐性】+【頑強】+【苦痛軽減/体】があれば攻撃に耐えられるだろう。



「ダメ押しだ! 魔装具召喚!」



 オレは首輪に宿ったユウキの魔力を使い、鎧と盾に魔力を付与。

【闇の寵愛】の効果で能力値を底上げした。



「いくぞ」



 黒く染まった盾を構え、もう一度大扉を開く。



 ギィィィ…………。



――――ミ”ッ!!!!



 扉を開いた途端、奥から光線が放たれた。

 強化魔法マシマシの盾で光線攻撃を受ける。



 ――――ジュゥゥゥ!!



 盾が音を立てて溶け始めた。

 だが、強化魔法をかけているので全壊せずに済んだ。



「もってくれよオレの盾ッ!」



 盾だけの問題ではない。超高温の光線を浴びせられて持ち手が熱を持つ。

【炎耐性】+【頑強】スキルがなければ、根を上げて手を離していただろう。



 シュン…………。



 体感にして数分。実際には数感秒の攻防。

 スイッチが止まるような音と共に、光線攻撃が止まった。



「予想通りだ」



 人を一瞬にして消し炭にするほどの威力だ。

 それだけの熱量を放出し続けられるわけないと思った。


 オレは盾を構えたまま、部屋の内部に突入する。

 部屋の内部は大広間になっており、虹色に輝くクリスタルで覆われていた。



「PiPiPi……」



 部屋の中央には、ひときわ巨大なクリスタルが宙に浮いていた。

 クリスタルは魔力を帯びた小さな紫電をまとっている。


 他にモンスターらしき姿はない。

 おそらく、あのクリスタルが光線攻撃を放ったのだろう。



「中に入っていいぞ」



 オレは盾を構えながら扉の外にいるユウキに呼びかける。

 ユウキは警戒をしながら部屋の中に入ってきた。



「わっ、大きなクリスタル」


「よくぞ最後のトラップを乗り越えた。ほぼチカラワザじゃがな」



 ユウキの声に反応してカーラ人形が肩をすくめる。



「あのクリスタルは周囲の地脈から魔力を吸い上げて内側に溜め込んでおる。おかげで特産品の収穫が滞るようになってな。ギルドにクレームがきておったのじゃ」


「特産品ってレッドハーブのこと?」


「昇格試験を利用してクレーム処理させる気だな!?」


「よそ見をしておる暇はないぞ。ボスのお出ましじゃ」



 カーラ人形がニヤリと微笑む。




 ――――パリィィン!




 次の瞬間、目映い光と共にクリスタルが砕け散り――




「マ”アァァァァァァァァァ!!!!」




 砕けたはずのクリスタルが自己修復。

 元の塊には戻らず、巨大な水晶のゴーレムに変身した!



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