第24話 たまには星空でも見上げて
カーラのナビゲートに従い、オレたちは二日ほどかけて水晶の洞窟へ向かった。
道中、行商人の馬車を襲うコボルトの群れと遭遇したが、オレとユウキの敵ではない。難なく追い払った。
「ありがとねぇ。よかったらコレ持って行って。この辺りで採れる薬草だよ」
女性の行商人はお礼を述べると、オレにレッドハーブを渡してきた。
話を聞くと、この地方の名産であるレッドハーブの収穫が激減。
行商人も商品の入荷できずに困っているらしい。
「そんな貴重な品をわざわざ?」
「命の恩人だから当たり前だよぉ。その薬草、魔力のついでに精力も回復するからよ。ま、せいぜい励みなさいな」
「わぁ、おばさんありがとう! ボク、頑張るね!」
ユウキは行商人のおばさんに笑顔で手を振って見送った。
顔見知りや他の冒険者がいないとき、ユウキは女の子であることを隠さずにいる。
服装こそプリーストの装備だが、さらしで胸を締めずに自由にさせていた。
「日が暮れてきたね。そろそろ野営の準備をしよう」
ユウキは薬草を手にしながら、暮れゆく西の空を眺める。
「夕飯はユウキに任せていいか?」
「任された。今日はレッドハーブを使ったシチューにしようか」
「シチューか! ユウキが作る料理はどれも美味いからな。期待してるぞ」
「えへへ。ありがと~」
それからオレとユウキは適当な岩陰を見つけ、簡易的なテントを張った。
木に紐をくくりつけ、雨風を防ぐための布を張っただけ。
寝具は獣の皮を剥いで作った毛布だ。
「【ファイアエンチャント】かーらーのー【ファイアエンチャント】!」
ユウキは枯れ木に炎属性の魔法付与スキルを連続で使用。
枯れ木は魔法の負荷に耐えられずに炎上した。
「よいしょっと」
具材を投入したシチュー用の鍋を、たき火の炎にかける。
それからユウキにバトンタッチ。
ユウキは火加減を調整しながら、シチューを煮込みはじめた。
「ふんふふ~ん。美味しくな~れ」
「その歌も何かの魔法バフか?」
「ただの鼻歌だよ。料理は愛情って言うでしょ? ラブをこめてるんだ」
「お、おう……」
本当にユウキはストレートだな。
けど、最近はこの素直さが心地良い。こっちも素直になれる。
「しかし、エンチャント魔法で火を
「ロイスが壺の中にいた間、カーラにやり方を教わったんだよ。魔法応用学? みたいなジャンルがあるらしくて」
「くふふ。ユウキはよい学生であったぞ」
ユウキの胸元に隠れていたカーラの人形が顔を出した。
小さな体が大きな谷間にスッポリと挟まっている。
念話によるタイムラグもないようで、意思疎通を図るには問題なさそうだ。
「ユウキが得意とする付与魔法や強化魔法は、魔法応用学との相性がいい。工夫しだいで様々な効果を発揮できる」
「魔法付与を重ねがけすると負荷に耐えられず武器が壊れることがあるでしょ? この現象を
「枯れ木に火を付けたのは
「枯れ木を武器に見立てて破壊した、ってわけか」
「ユウキは二種類以上のバフ効果を武具にかけられるじゃろ? 普段はお行儀良く力を制御しておるが、わざとバランスを崩させたのじゃ。これを相手の武器に使えば……」
「遠距離から武器を破壊できる」
オレの呟きにカーラ人形が頷く。
「さらに精進すれば、武器を破壊した上で属性魔法の効果を相手に与えられるじゃろう。剣が高温で熱せられれば持ち手が火傷する。鎧に氷属性を付与すれば凍傷で苦しむことになる」
カーラの説明にユウキは得意げな笑みを浮かべる。
「そう。ただの強化スキルが、嫌がらせや攻撃スキルに早変わりってわけさ」
「やっぱりユウキはすごいな。あっという間にパーティーの主力じゃないか。サポートだけでなく攻撃もできるなんて」
「ロイスの方がすごいでしょ。状態異常耐性をたくさん覚えて」
ユウキは煮込み終わったシチューを腕によそうと、オレに手渡してきた。
「修行大変だったよね。毒虫の海を泳げなんてボクなら死んでもごめんだな……。あ、食べながらする話でもないか」
「あはは。それはそうだな」
オレはシチューを受け取りながら苦笑を浮かべる。
ユウキも自分の分をよそい、正面ではなくオレの隣に腰掛けた。
「よいしょっと」
「あまり近くに寄られるとシチューが食べづらいんだが」
「これくらいいいでしょ。カーラに夜のお楽しみは禁止されてるんだから」
ユウキは頬を膨らませながらシチューを食べる。
「うん! 我ながら会心の出来だ。レッドハーブの辛みがいいアクセントになってる。ロイスも食べなよ」
「いただきます」
オレは心の中でユウキと神に感謝してからシチューを食べた。
体はデュラハンになったが、これでも元パラディンだ。信仰心は捨てていない。
「おっ、本当に美味いなこれ。おかわり」
「あはは。いい食べっぷりだね。作った甲斐があるよ」
それからオレとユウキは和やかなムードで食事を終えた。
気を利かせたのだろうか。いつの間にかカーラ人形は動きを止めていた。
「こんなにもゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりだな……」
ここまで駆け足だった。
いまはクエストの途中だが、それでも星空を見上げる余裕はあった。
そうやってオレが夜空を眺めていると、防寒用の毛布に身を包んだユウキがじっとこちらを見つめてきた。
「ロイス……。キミ、本当に人が変わったよね」
「そうか?」
「ひたすら前へ進もうとする男らしいキミも好きだったけど、ボクは今のキミも好きだな。落ち着きがある分、頼りがいがあるというか」
「そ、そうか。ありがとな」
「ふふっ。そうやって隙を見せるところも可愛いよね」
ユウキは柔らかく微笑むと。
「今までのキミは態度こそ紳士ではあったけど、自分の才能を鼻にかけてたところがあったでしょ? 人を気遣うフリをして他人を見下してた。足手まといは置いていくぞって」
「うっ……。やっぱりそんな感じだったか」
ストレートな悪口にオレは肩を落とす。自覚はあったけどな……。
「あっ、ごめんっ。さすがに言い過ぎたかな」
「いいさ。オレとユウキの仲だ。指摘してくれて助かったよ。こういうのは言われないとわからないからな」
実際、過去のオレはユウキを見棄てた。
その結果がパーティーの全滅だ。だけど……。
「これからもユウキの言葉でオレをいさめてくれ。至らないところがあったら直す。オレ、本気でおまえと一緒にいたいからさ」
「うん。ありがとう」
ユウキは安心したように頷くと、そっとオレの肩に身を寄せてきた。
それからかぶっていた毛布を広げて、オレを誘ってきた。
「エッチなことはできないけど、せめて体を温め合おうよ」
「わかったよ。けど、本当に手を出すなよ。クエスト前に体力を減らしたくない」
「わかってるってば。ほら、こっち来いよ(イケボイス)」
「立場が逆なんだよなぁ」
オレはため息をつきながら、ユウキと同じ毛布にくるまって一夜を過ごした。
たまにはこうして、まったりとした時間を過ごすもいい。
ユウキが望む冒険の旅。その願いを叶えるためにオレはここにいるのだから。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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半妖の少年退魔師。登録者数=霊力のチート能力に覚醒して最強配信者として鬼バズる。~モンスターを式神にしてダンジョンマスターに成り上がります~
◇ジャンル:現代ファンタジー
◇タグ:ダンジョン/配信/男主人公/最強/高校生/ハーレム/成り上がり/カクヨムオンリー
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