第9話 重い話をしてるけどイチャイチャしてるだけ


 ユウキは【ダークビーム】(弱)を放った!

 だが、効果はない。代わりに着ていた服や外套が破けた!



「なんでっ!?」



 全裸になったユウキは慌てて両腕で胸を隠す。



「おぉ……ビューティフォー……」



 オレは思わず拍手を送った。見事な手品だ。目の保養になる。



「喜んでないであっち向いてて!」



 ◇◇◇◇



 しばらくして、ユウキは白いシャツの上に薄布をかぶって涙目になっていた。

 シャツの下は裸のようで、ほどよく胸や太ももが露出していて実にそそる。



「ロイスのえっち……。昨日、散々見たくせにまだ見たいの?」


「見たいかと訊かれれば見たいが今はそれよりも、だ」



 オレはできるだけユウキから視線を逸らしつつ、話を進める。

 床に散らばっていたはずの黒衣はいつの間にか跡形もなく消えていた。



「どうして服が破けたんだ?」


「魔力の暴走だね。使えない【ダークビーム】を放とうとしたら負荷に耐えられずに服が破けたんだ。ボクが着ていた服は魔力で編んだものだから」


「だから一瞬で着替えられたのか」


「そういうこと。だけど魔力が足りなくてビームは不発。ステータスを見たら、そもそも【ダークビーム】を覚えていなかった。脱ぎ損だよ」


「オレは嬉しかったが」


「そ、そう……。見たければいつでも見せてあげるけど……」


「お、おう……」


「あっ! 今はダメだよ。明るいところだと恥ずかしい」


「大丈夫だ。さすがに状況はわきまえてる」



 甘い雰囲気になってしまい、オレとユウキはそろって顔を紅くしてしまう。

 一晩を共にしているはずだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。



「おかしいな。全盛期のボクなら【ダークエンチャント】だけじゃなくて【ダークビーム】や【ダークスラッシュ】も使えたはずなのに」


「死印を持つ人間に自分の力を分けたと言っただろ? オレ一人の死印だけだと力が足りないんじゃないか?」


「あり得るね。ボクが封印されてから数千年以上の時が経っている。死印の継承者が増えたことでボクの力も分散したのかも」


「死印は代々継承されるものなのか?」


「そうだよ。呪いというのは末代までたたるものだ。場合によっては一族郎党ろうとうみんな呪われるかも。それがユニークスキルを手にする代償さ」



 ユウキはそこで窓の外を眺めて遠い目をした。



「ボクもこの力の重さは知っている。だからボクが選んだ相手にしか死印を与えなかった」


「そうか……」


「今度はボクから質問だ。ロイスはどうして死印を隠してたの? ロイスがこっち側だとわかっていたらもっと早く告白して夫婦になってたよ。子供は3人がいい」


「夫婦……!?」


「ああ、ごめんごめん。今のは重かったね。聞き流して」



 ユウキは苦笑を浮かべて紅茶を飲む。

 オレが話しやすいように、場の空気を軽くしてくれたのかもしれない。

 話すか迷ったが、ユウキ以上に事情がわかっている人物に心当たりがない。



「隠していたわけじゃないんだ。実は……」



 オレはユウキにこれまでの経緯を説明した。

 ユウキは話の途中で紅茶を飲むのを止め、驚きで目を丸くしていた。



「驚いた。偶発的に死印に目覚めるなんて。しかも死ぬたびにスキルを覚えるのか。名前も【死因回避】って。死因と死印をかけたギャグかな?」


「人のユニークスキルをバカにするな。冗談だと疑ってるのか?」


「信じるよ。キミがボクを信じてくれたようにね」



 ユウキは真剣な表情で首を横に振る。



「死印の呪いは常軌を逸している。キミも聞いたことないかい? ユニークスキルは『世の理を覆す』って」


「確かにそんな噂を聞いたことがあるな……」


「あの話はユニークスキルに覚醒したことによる副作用、つまりは死印の呪いについて述べてるんだ。不老のボクと不死のキミみたいにね」



 ユウキは満面の笑みを浮かべると、オレの手をぎゅっと握ってきた。



「ボクらは二人揃って世の理から反してる存在だ。おそろいだね。ペアのシャツでも買う?」


「いらない。恥ずかしい。これからもそれぞれの個性を生かした服を着る」


「ぶーぶーー!」



 俺が首を横に振ると、ユウキは頬を膨らませた。怒る顔も可愛かった。



「オレに死印が宿った理由はわかるか?」


「これは想像だけど、ボクに殺されたことが覚醒のトリガーになったんじゃないかな」


「え? そうなのか?」


「だってキミ、完全覚醒したボクに【ダークスラッシュ】で斬られたでしょ。胸の辺りをバサーっと」


「ああ。手も足も出なかった」


「【ダークビーム】や【ダークスラッシュ】は、魔属性の攻撃を与えるのと同時に呪いの効果も与える。普通は猛毒とか石化とか、直接的な呪いをかけて即死させるんだけど……」



 ユウキは頬杖をついてオレを見つめた。



「やっぱりボク、ロイスが好きだったんだなぁ」


「な……っ」


「前世のボクはキミを殺す前に願ったんだよ。キミがボクと同じような存在になれば、もう一度一緒に冒険できるって」


「……そうか」


「ごめんね。ボクのせいでキミの人生を狂わせちゃった。一緒にいたいから呪うなんて重いよね……」


「…………」


「ボクはもういいんだ。こうしてお話しできるだけでも十分幸せ。それだけでなく愛してくれて……。これ以上を望んだら罰が当たるよね。魔女が何を言ってるんだって話だけど。あはは……」



 ユウキは涙目になってオレから視線を外す。



「ユウキ!」



 オレは顔を上げてユウキの手を握った。



「オレのパートナーになってくれ!」




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