第8話 傾国の魔女
「紅茶だ」
朝日が差し込む宿の一室にて、オレは窓際のテーブルに座るユウキに紅茶を差し出した。
昨晩のウチにルームサービス代も支払っていたようで、紅茶用の茶葉とクッキーが部屋に用意されていた。
「ありがと」
ユウキはオレが煎れた紅茶を受け取り、にこにこと微笑む。
魔女の服に変身したユウキはカップを傾けて、長く伸びた金髪を風に揺らした。
「えへへ♪ 恋人と夜明けの紅茶を飲むの憧れてたんだ。夢が叶っちゃったよ」
「恋人……」
あどけなさが残るユウキの笑顔に、思わず目を奪われる。
だがオレは、ユウキの無邪気な物言いにまだ戸惑いを覚えていた。
◇◇◇◇
ユウキは紅茶を飲みながら、ポツポツと自分の生い立ちを語った。
けれど戸惑い気味に。
「ボクも生い立ちはあまり覚えてない……というか知らないんだよね。気がついたら暗い洞窟にいたんだ」
ユウキが言うには、目が覚めたら裸で手足を鎖で拘束されていたらしい。
けれど鎖は簡単に壊れて、裸足のまま洞窟の外に出た。
道中、たまたま見つけたプリーストの死体をあさり、装備や肩書きを拝借したそうだ。
「近くの村まで降りたときに気がついたよ。ここは未来の世界なんだって」
ユウキの記憶では、世界はまだ混沌としていて毎日のように争いが繰り広げられていた。
けれど、今の時代は平穏そのもの。
魔物の驚異は残っているが、人間同士で争っている様子はない。
また、ユウキが封印されていた場所には祭壇があり、古代の遺産の他にも魔術書や文献などが転がっていた。それらの資料で記憶を補った結果……。
「どうやらボクは数千年以上前の戦乱を生きていた古代人らしい。ボクは傾国の魔女と呼ばれ、洞窟に封印されていたんだ」
「数千年前って……。だけどおまえは見た目は普通の人間だろ?」
この世界にはエルフなどの亜人種がおり、彼らは長寿だ。
平均寿命が1000歳を超える。
けれど、ユウキは人間だ。オレより年下に見える。
「ボクは不老の呪いを受けてるんだよ。長寿でもないし不死でもないから、寿命で死ぬんだけどね」
「なら、どうやって暗い洞窟の奥で生き延びたんだ?」
「不老の呪いを応用して自分に冬眠魔法をかけたんだよ。コールドスリープってヤツだね。魔法で肉体と精神を半永久的に眠らせたのさ。だけどその後遺症で記憶がかなり飛んじゃったみたい。自分が何者かも曖昧なままだ」
そう言ってユウキは肩をすくめる。
「ボクを封印した連中は洞窟の奥で朽ち果てるのを待ってたみたい。だけど、あいにくとボクは生き延びた。数千年レベルの我慢比べに勝利して、晴れて自由の身になったってわけ」
「途方もない話だな……」
「信じられない?」
「信じるよ。ユウキが女の子だったことに比べたら驚きも半分だ」
「あはは。よほど衝撃的だったんだね」
ユウキは紅茶を飲みながら呑気に笑う。
見た目も話し方も、本当にただの女の子にしか見えない。
本当にこの子が『傾国の魔女』とやらなんだろうか?
「傾国の魔女っていったい何者なんだ? そんな二つ名聞いたことないんだが……」
「なにせ古い話だからね。教会も関連する書物ごと封印して、ボクの存在を消したがってたみたい」
「ユウキを封印したのは教会の連中なのか」
「傾国の魔女は教会が定めた
「ユウキの力って……?」
「死印のことさ」
ユウキはそう言って、空中に鳥の翼の文様を浮かび上がらせた。
「ボクは選んだ相手に死印を与えることができる……みたいだよ」
「みたいって。さっきからそればかりだな」
「記憶が曖昧なんだからしかたないだろ。どうしてボクが【死印付与】というスキルを持っているのか、その理由を思い出せないんだ」
ユウキは子供っぽく頬を膨らませると、空中に描いてた模様をかき消した。
「死印を得た人間はユニークスキルを覚える。けれど代償として呪いを受けるんだ」
「呪い……?」
「効果はランダムなんだけど、たいていはロクでもないよ。ボクみたいに不老になったり……」
「死んでも蘇る不死の騎士になる……とか?」
「そうだね」
オレの問いかけにユウキは重く頷く。
「ロイスのステータスは見させてもらった。キミは不死の騎士デュラハンになった。その胸に刻まれた死印が何よりの証拠だ」
ユウキは紅茶のお供に出したクッキーを手にする。
「ボクは洞窟に閉じ込められた際に、力のすべてを封じられそうになった。けどその前に仕掛けを施してね。死印を宿した人間にボクの力を分けたんだ」
そう言ってユウキはクッキーを二つに砕いた。
「死印を持つ者同士は惹かれ合う。いつか誰かがボクを助けにきてくれる……。そう信じて眠りについたんだけど、結局は自力で外に出ちゃった」
二つに分けたクッキーを口に入れて咀嚼するユウキ。
「封印の洞窟から出たあとは冒険者として生計を立てていた。魔物退治のやり方は今も昔も変わってなかったからね。すぐに馴染めたよ。まあ、力を封じられたせいで無能呼ばわりされたけど……」
ユウキはそこでオレの顔を見つめてくる。
「でも、やっぱり運命ってあるんだね。まさかロイスが死印を持っていたなんて。おかげでボクは力を取り戻せた」
「力を取り戻す条件ってまさか……」
「死印を持つ相手と想いを重ねて愛し合うことだよ。だからロイスに抱きしめてもらったのさ」
「なるほど。それでオレを酔わせて押し倒したわけか」
ユウキがやけに積極的だった理由はこれか。
オレが内心で納得していると、ユウキは慌てたように手を振った。
「体が目的で押し倒したわけじゃないからねっ。ロイスのことは前からその……ごにょごにょ」
「え? なんだって?」
「なんでもないっ。ニュアンスでわかるでしょ。恥ずかしいからこれ以上はダメっ」
ユウキは本気で恥ずかしがっているのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
オレを襲ったくせに、ストレートに気持ちを伝えるのは恥ずかしいようだ。
「とにかく、ロイスが愛してくれたおかげでボクは力を取り戻せたんだ」
ユウキは空中にステータスを表示させる。
――――――――――――――――
【ユウキ・マリアドール】
●冒険者ランク:ブロンズ
●クラス:ダークプリースト(Lv19)
●能力値:【体力171】【反射285】【知覚228】【理知330】【幸運8】
●ユニークスキル:【死印付与】
●所持スキル:【ダークエンチャント】【闇の寵愛】【魔法属性付与/上級】【武具強化/上級】【回復魔法/上級】【感知魔法/上級】
――――――――――――――――
「これは……」
「どうだいすごいだろう! ボクは傾国の魔女と呼ばれてたくらいだからね。本当はチート能力で無双できるほどの実力の持ち主だったのさ!」
「お、おう……」
ユウキは鼻を高くして自分の能力を自慢する。
だが、オレは知っている。
オレを襲った闇落ちしたユウキの能力値はもっと高かったはずだ。
もちろん、今のステータスでも十分強いと思うんだが……。
「その目は信じてないね。いいよ、今からボクの力を見せてあげる」
ユウキは椅子から立ち上がると、人差し指をビシッと伸ばしてオレを指差した。
「【ダークビーム!(弱)】」
――――ビビビっ!
ユウキの指の先から黒い光線が放たれる!
「あれ?」
と思ったのはユウキだけで、実際には何も起こらなかった。
いや――――
――――ビリビリっ!
「きゃああっ!?」
ユウキが着ていた服や外套が破けた。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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半妖の少年退魔師。登録者数=霊力のチート能力に覚醒して最強配信者として鬼バズる。~モンスターを式神にしてダンジョンマスターに成り上がります~
◇ジャンル:現代ファンタジー
◇タグ:ダンジョン/配信/男主人公/最強/高校生/ハーレム/成り上がり/カクヨムオンリー
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