第6話 ロイス・コレートは二度死ぬ/蘇る
気がつけばオレは酒場の裏でシーフに脅されていた。
(やっぱり戻ってこられた)
熱さを覚えて腹部に触れる。
キズはないようだが刺された痛みだけは残っていた。
ステータスを確認する。
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【ロイス・コレート】
●冒険者ランク:ゴールド
●クラス:デュラハン(Lv2) ファイター(Lv30)
●能力値:【体力51】【反射37】【知覚31】【理知21】【幸運1】
●ユニークスキル:【死因回避】
●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】
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(むっ? デュラハンのレベルが2に上がって能力値も上がってるぞ)
【刺突耐性】が増えたのは想定通りだが、職業レベルも上がっていた。
考えられる理由はひとつ。一度死んだことでレベルが上がったのだ。
(だけど厄介だな……)
蘇りは可能だが、体の痛みは残るってことか。
そう考えたら急に体温が上がった気がした。
やけに喉が渇くのも、溶岩の炎で焼け死んだことを体が覚えているからかもしれない。
(それに強烈な不快感がある。気持ちが悪い……)
死の間際も感じたが、やはり自ら死を望むのは避けた方がいい。
いまさらだがお試し感覚で自殺するなんて、正気とは思えない。
(蘇りを受け入れている時点で正気じゃないか……)
「おい、聞いてんのかゴラァ!」
「ああ、すまない。酒場の裏はキミの憩いの場だったんだな」
シーフに恫喝されたオレは思考を現実に戻す。
両腕を広げると無防備なままシーフに迫った。
「な、何だっ! やるってのか!?」
「ああ。これをやろう」
両腕を広げたのは、武器を隠し持っていないことを示すためだ。
オレは懐から小袋を取り出すと、銀貨を数枚シーフに握らせた。
「邪魔をして悪かったな、子猫ちゃん。これで美味いものでも食べてくれ」
「キュン……」
銀貨を受け取ったシーフは何故かそこで頬を赤らめる。
そして照れくさそうに指で鼻を擦った。
「へっ、話がわかる兄ちゃんじゃねぇか。しかたねぇな。今日はこれくらいで勘弁してやるよ」
「そうしてくれると助かる。良い夜を!」
「おう! 兄ちゃんにも月の女神の加護を! ひゃっほーい!」
シーフは超ご機嫌になると、とびきりの笑顔で手を振って去って行った。
これでアイツがウザ絡みをしてくることはないだろう。
些細なことでも死亡フラグは回避していかないとな。
「ふっ。また善行を積んでしまったな。さすがはオレ……」
経緯はどうあれ、人の笑顔を見るのはいいものだ。
盾技スキルや回復魔法を覚えられるパラディンを目指したのも、人々の笑顔を護りたかったからだ。
施しを与えることでプライドを踏みにじられたと怒り出す連中もいるが、シーフは現金な性格のようだった。
ある意味、厳しい現実を生き抜くための術を心得ている。
(オレも最初は怒り出すタイプだった……)
実家を出て冒険者に成り立ての頃、親切にしてくれた先輩冒険者にたてついたことがあった。
オレは一人でもやれる。オレを舐めるな。オレの実家は金持ちなんだぞ! と。
だが、現実は厳しい。
一歩社会に出れば、誰もオレを認識しない。頭を下げない。
一人ではまともなクエストを受けられず、途方に暮れていたところに……。
「大丈夫、ロイス……?」
「ユウキ……」
シーフを見送って状況を整理していると、酒場の裏口からユウキが姿を現した。
ユウキは手に水の入ったグラスを持っている。
「はいこれ。酒場のマスターに頼んで水を分けてもらったんだ」
「ありがとう」
オレはユウキから水を受け取り、グイっと飲み干した。
「戻ってこないから心配したよ」
「心配かけたな。外の空気を吸って気分も良くなった」
――――ズキリ。
「うっ……!」
そこで腹部と胸部のキズが痛み出す。それに体も熱い。
正確には前世で受けた古傷だ。
腹部はわかるが胸部の痛みはどういうことだろう……?
「本当に大丈夫? まだ酔ってるの? 部屋で休む?」
ユウキはオレの肩をそっと支えながら、酒場の二階を指差す。
「酒場の二階が宿にもなってるんだ。ちょっとだけ休憩していこうか。大丈夫、おかしなことはしないよ。さきっちょだけだから」
「そうだな。ちょっと休みたい気分だ……」
蘇りの後遺症か、それとも幻痛の影響か。本当に気分が悪くなってきた。
オレはユウキに支えられながら、酒場の二階に向かった。
◇◇◇◇
――――チュンチュン。
「んぁ……?」
窓の外から聞こえてくる小鳥のさえずりで目が覚める。
気がつけばオレは半裸のままベッドに寝ていた。
見知らぬ天井……ではない。ここは酒場の二階にある寝室だ。
「いたた……」
ズキリと頭が痛む。二日酔いだろう。
飲んだ覚えはあまりなかったが……。
(古傷の痛みは消えたか……)
腹部と胸部を触って確かめる。
(あれ……? なんだこの痣は)
上半身裸だから気がついた。
オレの胸に、鳥の羽を広げたような黒い痣が広がっていた。
「ふんふふ~ん♪」
可憐な鼻歌が聞こえて部屋の奥に視線を向ける。
白いシャツに下着姿という半裸の女の子が鏡台の前に座り、金色の髪を櫛で梳かしていた。
「キミは……」
「あ……っ!」
オレが起きているとは思わなかったのだろう。
女の子は驚いた声をあげて椅子から飛び退くと、大きな布で体を包み隠した。
絹のように白い肌と薄布では隠しきれないほどの大きな乳房。
すらりと伸びた脚はまるで芸術品のように美しかった。
見たこともない美少女――ではない。
金髪碧眼のその顔には見覚えがあった。
「ユウキ、おまえ女の子だったのか!?」
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