使われているのは、黄ばんでいるとはいかないまでも、年月を経た質感をしている紙だった。古紙を捨てる際にするような括り方で封をしている糸は、私が用意したものよりも太く、かといって毛糸ほど太くもない、まるで、あやとりに使うような、毛羽立った赤い糸。

「何、これ……」

 思わず、声に出る。なぜ、ぬいぐるみの中にこんなものが―――、

「……っ!」

 息を呑んだ。


 〝三鶴子へ 信人〟


 表面に、そう書かれている。三鶴子みつこというのは母の名前で、信人のぶひとというのは、亡くなった父の名前だ。

 これは……生前に、父が母に宛てたもの?

 でも、なぜ、このぬいぐるみの中に……。

 背筋に、ひやりと冷たいものが走った。見てはいけないものを、見てしまったかのような……。

 どうする?どうすればいい?

 母に、渡すべきだろうか?いや、当然、そうだろう。父が母に宛てたものなのだから。でも、この紙の包みは、何とも嫌な手触りをしていて、言い様の無い不気味なものが、中でざわざわと蠢いているような気がして……でも……。

 気が付くと、私は指先で赤い糸の結び目を解いていた。

 耐えられなかった。抑えられなかった。中を見てみたいという、邪な好奇心を。

 封をしていた糸を取り去り、幾重にも折り畳まれた紙を開いていく。まるで、折り紙を元に戻していくかのように。

 そして、とうとう、皴と折り目だらけの紙が、一枚に広がった――だけだった。

 包みだと思っていたのに、中には何も入っていなかったのだ。

 だが……その代わりと言っていいのか、包みに使われていた紙には、何やら文章が書き連ねられていた。

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