七
使われているのは、黄ばんでいるとはいかないまでも、年月を経た質感をしている紙だった。古紙を捨てる際にするような括り方で封をしている糸は、私が用意したものよりも太く、かといって毛糸ほど太くもない、まるで、あやとりに使うような、毛羽立った赤い糸。
「何、これ……」
思わず、声に出る。なぜ、ぬいぐるみの中にこんなものが―――、
「……っ!」
息を呑んだ。
〝三鶴子へ 信人〟
表面に、そう書かれている。
これは……生前に、父が母に宛てたもの?
でも、なぜ、このぬいぐるみの中に……。
背筋に、ひやりと冷たいものが走った。見てはいけないものを、見てしまったかのような……。
どうする?どうすればいい?
母に、渡すべきだろうか?いや、当然、そうだろう。父が母に宛てたものなのだから。でも、この紙の包みは、何とも嫌な手触りをしていて、言い様の無い不気味なものが、中でざわざわと蠢いているような気がして……でも……。
気が付くと、私は指先で赤い糸の結び目を解いていた。
耐えられなかった。抑えられなかった。中を見てみたいという、邪な好奇心を。
封をしていた糸を取り去り、幾重にも折り畳まれた紙を開いていく。まるで、折り紙を元に戻していくかのように。
そして、とうとう、皴と折り目だらけの紙が、一枚に広がった――だけだった。
包みだと思っていたのに、中には何も入っていなかったのだ。
だが……その代わりと言っていいのか、包みに使われていた紙には、何やら文章が書き連ねられていた。
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