第26話 選んで決める権利あるよね
私は、綿貫さんとつき合ってる(つまり綿貫さんの彼女)クラスメイトのまリア充(安倍まりあ)に、綿貫さんのことを聞いてみることにした。
そういえば、まリア充から綿貫さんのことを聞かれたのはいつだったっけ。
先々週・・は中間テスト中だったから・・・てことは先週か。
あれから随分時間が経ったような気もするし、そうじゃない気もする。
まリア充から聞かれるまで、綿貫さんの身に何が起こったのか、それとも何も起こってないのかすら私は全然知らなかったし、今も全然分からないんだけど・・。
教室に着いた私は、真っ先にまリア充の席を見た。けど本人は座ってないし、教室にもいない。
「ねえちなっちゃん、まリア充知らない?」
「あぁ・・まリア充なら早退したよ」「え」
「カレシが突然転校したってニュースをカレシ本人からじゃなくてウワサ聞いて初めて知ったうえによー、カレシはすでにいないって事実まで加わってみろよ、そりゃカノジョとしては大ショック受けて当然じゃね?」
「あれ?白虎今、“転校した”って言ったよな?」「俺はそう聞いたぜ」
「え?私は退学したって聞いたけど」と言ったちなっちゃんに、私は「私もそう聞いた」と言った。
すると私たちの話を聞いてた(というか聞こえる距離の席の)なおくんが、「俺は“綿貫さん、カナダに突然留学した”って聞いたよ」と言った。
と思ったら、リュウが「アメリカだろ?」と言うし、かと思えばそうくんが「違うよ、イギリスでしょ?」と言い出す始末。
その一方でトトさまは、「私は“突然退学説”を聞いたよ」と言うんだから、やっぱりウワサってあてにならない・・・。
けど私は、綿貫さんのクラスメイトだったきよみ女史から直接聞いて、きよみ女史は担任の近江先生から聞いたんだ、信憑性は十分ある。
それに、1年特進の教室に今いる生徒の半数以上が「突然退学説」のウワサを聞いている。
「てことは、やっぱり“退学”が優勢だろうな」という界人の呟きに、私は小さくうなずいて同意した。
「それから“突然”も。みんな共通して言ってる」
「そうだな」
「どっちにしてもよ、可哀想なのはやっぱまりあだろ。カレシと突然音信不通になったからのー、突如学園去られるとか。そんな風にいきなりバッサリ関係断ち斬られたらよ、カノジョとしての立場ねえってーか。ぶっちゃけ、自分が役立たずだと思うじゃん」
「しかもこれじゃあ綿貫さんがまリア充と別れようとしてたのかどうかも分かんない、“宙ぶら”な状態だしね」
「そりゃカレシとして最悪の仕打ちだろ。ったくユーマさん、何やってんだよ。カノジョに悲しい思いさせて泣かせるような男じゃねえって、俺は信じてたんだけどなぁ」
「白虎がまリア充のことを思って憤ることもわかるし、言ってることだって筋が通ってると思う。私だってもし彼にそんな仕打ちされたら、自分の存在意義を疑うレベルの大ショック受けると思うし」
「よるカレシいんのか」
「私が言いたいことはそこがポイントじゃない!話題がすり変わっちゃうでしょ!私が言いたいのは、もしかしたら綿貫さんには、そうせざるを得ない何らかの事情があるのかもしれないよってこと。だってさ、綿貫さんってそういうことする人じゃないでしょう?」
「確かにキャラ違うよね」「想像つかない」
「それに本人の口から何も聞いてない現段階では、どのウワサが真実なのかを知ってる人は、誰もいない」「本人以外はな」
「雅希と界人の言うとおり、これこそが現段階の真実であり事実だ」とヨッシーが言ったとき、忍と真珠が教室に戻ってきたのを機に、界人と私も自分の席に戻った。
「でもこの諸説から推測はできる」「たとえば?」
「退学説。息子が高校退学することを、都知事選に出馬しようとしている父親が果たして許すかな。今のところこの説を聞いた人が一番多いけど、俺は怪しいと思う。何より、一番雄馬さんらしくない選択という点では、これが一番疑わしいウワサじゃね?」
「なるほど。“世間体”ってやつか」
「しかも“都知事選に出馬しようとしている”議員さんってところが重要なポイントだよね。ただの議員さんレベルだったら、そこまで世間体を気にする必要はないと思うし」
「なおくんの考えは確かにあり得る」
「俺もそこまでは考えてなかったな。やっぱなお天才だわ!」
「だったら“海外留学説”が一番有力じゃない?“体裁”保てるし」
「まぁ面目丸つぶれにはならねえな」
「それに綿貫さんらしい選択だと思う」
「でもこの時期に、何の前触れもなく突然留学っていうのはなんか・・おかしくない?」
「それにさ、海外でも留学するんだったら、まりあちゃんに話してもいいと思うけど」
「でも留学するってことは、離れ離れになっちゃうってことだよ」
「
「なのか、いいとこついてる!」
「となると、残ったのは転校説だけか・・・。転校でもお父さんの体裁は保てるし、都内近郊の名門高校なら“体裁保てる”に加えて“遠恋”になるわけでもない。まぁ会う機会は減るかもしれないけど」
「でもどの高校に転校したのかな」
「あ。高校名まではウワサ流れてない」
「慶葉と同レベルの名門校なら学校名出ても良くね?」
「実は雄馬さんって最近学力が下がってて、それが悩みの種だった、とか・・・」
「ていうか、退学・留学・転校、どれもすること自体はまリア充に話しても別によくない?」
「そうだよね。どれも人生の転機になるくらいの大切なことなんだからさ、つき合ってる彼女に話さないほうが不自然だよ」
「しかもそういうそぶりをいっこも見せてなかった、いうのも不自然どすやろ」
クラスのみんなが綿貫さんのウワサを“推測”し合ってる中、忍が私に「結局安倍ちゃんには会えたんか」とコッソリ聞いた。
「ううん。私たちが教室に着いたときにはもう早退してた」
「そうなんだ・・。やっぱりショックだよね」
「てかここに限らず巷では、綿貫さんについてのいろんな説が流れてるな」
「そうみたい」
「もしかして・・“攪乱すること”が目的か」「それどういう意味」
「逆に真実を知られたくないのかもしれねってこと」
もし忍が言う「攪乱説」が“当たり”なら、綿貫さんは「実は」学園を退学していない可能性もあるし、転校・(海外)留学説も「違う」可能性だってある。
でも、この3つの説の中のどれかが正しい――事実であり真実――の可能性だって、まだ捨てきれない。
だとすれば、忍が言った「攪乱説」が、今のところは一番真実に近いような気がする。
綿貫さんが退学したのは私のせいだとはもう思ってないし、自責の念に駆られてもいない。
けどやっぱり気になる。綿貫さんのことだけじゃなくて、まリア充のことも。
だから私は界人と一緒に放課後、礼子さんの石屋「セレナ」に行った。
「もし忍の攪乱説が正しければ、綿貫さんは“どうして攪乱させなきゃいけない”んだろ」
「それから“誰に真実を知られたくないのか”も、案外重要なポイントだと思う」
「うん。あと、“どうして綿貫さんが学園を退学したのか”っていう疑問もある。ホントに退学したのかどうかは、今のところ分かんないけど」「だな」
綿貫さんの自宅の住所は知らないし、カノジョのまリア充が綿貫さんちに行って門前払いだったと聞いたから、「知り合い」程度の私と界人が行っても、同じ扱いを受ける可能性のほうが極めて高いはず。
それに綿貫さん本人から、綿貫さんの母親である礼子さんにターゲットを移したほうが、もしかすると意外と簡単に真実が分かるかもしれないし。
まぁこれは淡い期待と言えるけど、頭の中でただ推測だけ働かせてモンモンとしてるより全然マシだ。少なくともちょっとは期待できると思ったのに。
「これ・・どういうこと」
「セレナ」がある部屋の玄関ドアには「当分の間休店します」という内容の紙が貼られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます