第24話 私たちは家族でもあり、友だちでもある

「あれ?きよみ女史、まだ来てないね。今日は学校休んでるのかな」

「休んでないはず。メッセもらってねえし」

「そっか」

「告白されてるのかな」

「なぜにそうなる」

「忍や界人より遅いから」と私が言うと、二人からそろって「意味不明」と言われてしまった。


「きよみ女史が来るまで食べるの待つ?」

「私は先に食べ始めててもいいかな。食べ終わるのが遅いから」

「私も遅いほうだから、少しずつ食べ始めようかな。お昼休みの時間は限られてるし」

「そーそー、女性陣はお先にどーぞ。界人も食べ始めてていいんだぞ。腹減ってんだろ?きよみ女史はもうすぐ来るからさ」

「あ・・うん。って忍はきよみ女史が遅れてる理由知ってんのか」

「知らね。けどすぐこっち来るってのは“知ってる”」


意味深に「知ってる」と言う忍を、私はジロッと睨み見た。

もしかしたら忍は、霊力を使ってきよみ女史の現在地を「(感)探知」でもしてるのかと思ったから。


「そういうことに使っちゃダメ」

「“そういうこと”ってなんだよ」

「とぼけないの」

「俺何にもしてねえけど?」

「あっ、きよみ女史来た!」

「忍が言ったとおりだったな。ホントに“すぐ”来た」「だろ?」

「やはり本日は、私が一番最後でしたね」

「きよみ女史が遅くなるって珍しい・・てか初めてじゃね?どしたの。一体何事?」と聞いてる忍の様子から察したところ、どうやらホントに忍は「他人を探知すること」に霊力を使ってないようだ。


たとえば行方不明になった人の捜索時等、よほどの緊急非常事態でもない限り、霊力をそういうことに“普段使い”をしてはいけない。

それは霊力を悪用していることになるし、探知されてる人のプライバシーを侵害していることになるからだ。

その点は忍ももちろん知ってるよね。


安心した私は、心持ちニコッと微笑みながら「告白されてたんでしょ」と、“確信を持って”言った。


「いやだからー、なぜにそうなるんだよ」

「きよみ女史もモテるからに決まってるでしょ。忍だって知ってるくせに」

「そりゃ知ってるけどさ・・・実はきよみ女史って、男子よりも女子にモテてね?」

「私の場合、“井成きよみ”という一女性としてではなく、漫画家の“黄泉清女よみきよめ”を応援してくださるファンの方々からお声をかけていただくことが多いので。ですので神谷雅希女史、および神谷忍氏がおっしゃっている“モテる”の意味とは若干違うかと」

「やっぱりきよみ女史って人気漫画家だったんだ!絵も上手だし、“冥途カフェ”のストーリーも毎話感動して泣いちゃうくらい、すっごくステキだもんね!」

「俺、光栄です!」

「地獄嬉しいお言葉の数々、どうもありがとうございます」

「それで?今日はなんで遅くなったの」

「あぁ、そうでしたね。実は昼休みになってすぐ、進路のことで近江先生(担任の先生です)と話をしておりましたので、こちらに来るのが少し遅くなりました。神谷忍氏にメッセージを送っておけばよかったですね。そこまで至らず、すみません」

「大丈夫だよ。ちょっとだけ心配してたけど、でも安心した」

「私たち先に食べ始めてたし」

「ですが神谷雅希女史と佐渡真珠女史のお弁当は、まだ全然減っていませんが」

「そう?あっ、ちょうど食べ始めたばっかりだったし。ね?雅希ちゃん?」

「うん。私がたまご焼きを一口食べたところできよみ女史が来たから。はい、これきよみ女史の分」と私は言いながら、きよみ女史に小さなタッパーを渡した。


ミニタッパーの中身はもちろん、二切れのたまごやきが入ってる。


「いつもありがとうございます、神谷雅希女史」

「結局みんな、きよみ女史が来るの待ってたようなもんだな」

「やっぱりこのメンバーでお昼食べるのが一番落ち着く」

「そうですね。神谷雅希女史がおっしゃりたいことは、私にもよく分かります。しかし、このメンバーでお昼を食べることができる期間は、残念ながら限られていますが」

「“期間限定”の流れで聞くけど。きよみ女史はもう進路決めたのか?」

「“大学には行かない”ということは、すでに決めています」

「えっ?きよみ女史、進学しないの?」

「はい。大学には行きません。特に学びたいこと(学科)もなく、また我が家には、私が大学に通うための金銭的な余裕もありませんから」

「あ・・そっか」

「奨学金は?きよみ女史くらい頭良かったら申し込めんじゃね?」

「どうやら奨学金は学力の有無に関係なく、申し込みは可能だそうです。先ほど近江先生がそのようにおっしゃっていました。ですが奨学金というのは後々返済する必要がありますから。言ってみれば借金してまで学びたい科目がない、というのが大学には行かないと決めた、一番大きな理由ですので」

「なるほどな」「納得」

「私も大学には行かないよ」

「えっ!?雅希ちゃんも!?」「なんで」

「大学ってここよりも絶対人が多いから」

「言われてみれば・・確かにそうだよね。教室も広くて大きい分、受ける学科によっては今のクラスの何倍もの人が講義を受けることもあるし」

「うん。だから受信機体質の私が女子大生になることはムリ。それに私もきよみ女史と同じで、大学に行ってまで勉強したい学科は特にないし」

「そっか・・。二人の進路を聞いたら、このメンバーでお昼を食べることができるのは、ホントに期間限定なんだなあって、ますます思っちゃった」

「そうだな」


ちょっとしんみりしてしまった雰囲気を払拭するように、私は「大丈夫」と断言した。


「みんなそろってお弁当を食べることができなくなっても、私たちの縁と絆は途切れない。私たちはそういう関係でつながってるから」

「まーの言うとおり。じゃなきゃ俺たちが出会ったり再会することはなかったっしょ」

「しかも俺たちってさ、“友だちみたいな家族”・・あれ?違うか。じゃあ“家族みたいな友だち”って関係じゃね?」

「なにそれ。界人の言ってることがよく分かんない」

「要するに私たちは、“友人でもあり家族でもある”、そのような絆でつながっているということですね」

「そのとおりっ。雅希、俺が言いたいこと分かった?」

「うん。きよみ女史のおかげで分かった。さすがお姉ちゃんだね」

「“お姉ちゃん”?」

「うん。きよみ女史と私と真珠は“姉妹”だから。真珠は三女だよ」

「えっ、そうなの?」

「うん。きよみ女史は長女でしっかり者のまとめ役。そして私は次女で世話焼き・・」と“妹”の真珠に説明している光景を見ながら界人が呟くように言った。


「なんか、雅希が言うと“三姉妹説”しっくりくるっていうか・・」

「“しっくりくる”どころか、これドンピシャじゃね?俺らは友だちでもあり、家族でもあるんだからさ」

「もう納得するしかない!」「そゆこと」

「ところで。神谷雅希女史が気にしていらっしゃるようなので、この知らせは先に今、お伝えしておいた方が良いかもしれません」

「私が?何だろ」

「綿貫雄馬氏は学園を退学されたそうです」

「・・・え」


退学?あの綿貫さんが?


その話を聞いた途端、私だけじゃなくて他の3人も一斉にきよみ女史のほうを見た。

私も含めてみんな驚きは隠しきれてない。それくらい、きよみ女史の発言は唐突で、なおかつ衝撃的だった。


「退学って、それは一体どういうこと!?」

「綿貫さんが学園に来てるかどうかきよみ女史に聞いた日から、まだそんなに日にち経ってないよね」

「3日ほどでしょうか。週末を含めなくてですが」

「その間、綿貫さんは学園に来たのか」

「いいえ、初めて欠席をした日からは一日も学園には来ないまま“退学した”と。今朝のホームルームで近江先生がおっしゃいました」

「何それ」


ていうよりなんだろ、このヘンな感じ、違和感は・・あれ?

確か前にもこういう感じたことある・・・あ。

あのとき。石を注文するために、綿貫さんに会いに行った、あのときと「同じ」じゃないけど、似たような感じがした。


「ねえきよみ女史」

「なんでしょうか、神谷雅希女史」

「綿貫さんの様子がヘンじゃなかった?って、私が前に聞いたことは覚えてる?」

「あ、はい。覚えていますよ」

「あれから綿貫さんの様子に、なにかヘンだなとか感じたり思ったことはあった?」

「私が思いつく限りでは、取り立てて何も。突然欠席するまで綿貫雄馬氏は、普段どおり“尽くされたい男クラスナンバーワン”のふるまいをしていました」

「何それ」「“尽くされたい男”ナンバーワン?」

「“クラス”が抜けていますよ、佐渡真珠女史。はい、綿貫雄馬氏は私が所属しているクラス内で“尽くされたい男”、堂々の第一位です・・基い、“でした”」

「ふーん。“尽くされたい男”ねえ」

「でもそれ分かる」「男のおまえがしみじみ言うんか、界人っ」

「だってさ、綿貫さんってなんつーかこう、まあ要するに“尽くすこと”が上手じゃね?」

「そこまでの知り合いだったの、界人」

「いやいやいやいや違うけど!」

「魁界人氏がおっしゃることは分かります。綿貫雄馬氏は尽くすことが上手な人です。それにあの外見ですから。尽くされた女子はメロメロに地獄行きです」

「“メロメロに地獄行き“って」「行きつく先が怖い」

「てかきよみ女史って、ああいうのがタイプだったんか」

「外見は別として、私は綿貫雄馬氏のことは同類として好きですよ」

「同類?」

「はい」

「分かる。綿貫さんって秘書系が向いてるだけじゃなくて、秘書の仕事を心の底から好きでやってるってことが伝わってくるもん」

「“尽くされたい男”は“執事に向いてる”にも変換できます」

「それもよく分かる」

「確かに、綿貫さんは執事の恰好も似合いそうだな」

「また外見に戻るんか」

「忍も似合うよ。スラッとしてて姿勢も良いし、背高いし、顔も良いし」

「俺は?」「界人も似合う」

「・・・え。それだけ?忍んときみたいに色々”良いし“はねえの!?」

「ない。忍のときに全部言ったから」

「まーの略し過ぎキターッ!」

「今の俺は何気にしょげてるところ」

「そういう言葉は聞き慣れてるでしょ」

「俺は雅希に言ってほしかった!」「あ、そう」

「界人。まーはツンデレだから。二人っきりになったときに言ってもらえ」

「・・うん、そうする」

「ちょっと。二人で何コソコソ話してんの」

「兄弟の話」「兄から弟へのアドバイス」「ふーん」

「いつの間にか忍くんがお兄ちゃんで、界人くんが弟になってる!」

「なかなかの適役では」と言うきよみ女史に私は「そうだね」と答えつつ、頭の中は「綿貫さんが突然退学したこと」に対するショックや驚きなど気持ち、そして「なぜ?」という疑問でいっぱいになっていた。

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