第15話 幸せな未来の可能性を選ぶ
「おかえり~」「どうだった?」
「いやあ、めっちゃ良かった。俺の想像力が豊かになった気がする。おじさん、よるっち、サンキューっす」
「どういたしまして」「いつでも観に来て良いからね~」
「ところでキミたちは、さっき何の話で盛り上がってたの」
「双子の話」「まーが俺の姉ちゃんになりたがってるって話」
「なんだそれ」「ますます分からん」「やっぱり雅希ちゃんは“姉”がいいんだ」
「どっちかって言うと、雅希ちゃんは“姉キャラ”だよね~」「よるちゃんも!」
「私?」「うん。なんていうかー、“私について来い!”みたいな感じ」
「あ。分かる分かる」
「いや私には、“俺について来い”のオンナ版になっただけって気がするんだけど」
「近い!でもそこにはね、女としてのしなやかな強さとか、凛とした感じっていうのがあるわけよ」
「プラス、お姉ちゃんみたいに世話好きで、面倒見が良いしっかり者で」
「そ-そーそーそー!」
「よるちゃんはね、お姉ちゃんの中でも一番上のお姉ちゃん」
「つまり“長女タイプ”?」
「そう!で、雅希ちゃんはね、上にお兄ちゃんがいる長女かー、姉妹だったら上から二番目のお姉ちゃん」
「つまり雅希は“次女タイプ”だと」「うん」
「なかなか鋭い分析だね、トトさま」「でしょー?えへ」
「と言うトトさまは、断然“妹キャラ”ね」
「しかも“末っ子タイプ”確定!」「甘え上手どすから」
「姉妹談義で盛り上がってるところをなんですが、みんな~、コーヒーか紅茶でも飲む~?」というよるちゃんの提案に、みんな「おーっ!」「いいね~」「飲む!」と答えた。
「ワタシが作りましょうか」
「ううん。私に任せといて。コーヒーと紅茶淹れるのは私の得意分野だから」
「そうだったわね。じゃあミヤコちゃんにお願いするわ」「ありがと、ユキおじさん」
「私も手伝うよ」「私も~」「私はキッチンカウンターで見てるだけでいい?」
「もちろんいいよ!じゃあ来たい人はキッチンカウンターのほうへお越しくださ~い。どっちにしても、できあがったらここに運ぶからね」
私もキッチンへ行こうと、座ったばかりのソファからまた立ち上がったとき、私の目の前に再びビジョンが現れた。
――数年後、とはいってもたぶん19か
数年後の界人は最初に、光の玉にそっと触れた後、数年後の私を見て微笑んでいた―――。
「・・・きー。ねえまさきってばー。どしたの」
「・・・なんでもない。行こ」
よるちゃんの提案でキッチンカウンターに集まったのは、結局女子だけだった。
「なんか、おうちカフェみたいだね」「ホント~」
「いらっしゃいませ!“よるカフェ”にようこそ!」「“よるカフェ”いいね~!」
「エプロンつけるんだ」「なりきるための必需品よ」「本格的!」
「よるちゃんって、コーヒーとか淹れるの得意なの?」
「得意かどうかは分かんないけど、淹れるのが好きなのよ。元々私、紅茶が好きでね、そこからいろいろ凝り始めて・・。ええっと、コーヒーブラックは飲めない人がいるんだったら、ミルクがたっぷり入ったカフェラテも作るよ~」
「私ラテがいい!」「私も!」「俺もラテ頼む!」「俺も!」
「オッケー!実は私、最近ラテアートにハマッてるんだー」
「ミルクでクマさんとか作るアレ?」
「クマはまだ作れないレベルだけどうん、まあそんな感じ」とよるちゃんが言ったのをきっかけに、結局全員ラテアート付きのカフェラテを、“よるカフェ”に頼んだ。
二回目のビジョンは、ついさっき視えた最初のと年(月)は同じくらい先の未来だったけど、内容は全然違ってた。
数年後に病死する私と、同じく数年後に界人と結婚して赤ちゃんを授かる元気(健康)な私―――。
・・・もし私が数年後に病死すると分かっても、それでも私と一緒にいたいって・・・界人ならそう言ってくれるだろうし、実際そうしてくれるはず。
でも私は嫌。
「うわぁ」「すごーい」「あれがああなるんだ」「アートだねえ」
「よるちゃん、ホントにカフェの人みたい」「慣れた手さばきしてる!」
「・・・はい、これで全員分完成で~すっ!」
「素早い!」「なのに上手!」
「えっと、じゃあなのか。これ持って行ってくれる?」「承知しました~!」
嫌だ。あと数年で病死するとか。そんなこと、自分の身に起こってほしくない。
「ミヤコちゃーん、冷蔵庫の中にミニプリンが入ってるから、それも持ってきてもらえる~?」「はーい!」
若くして死にたくないって気持ちもあるけど、それ以上に私は・・・生きたい。
もっと長く、少なくともあと何十年かは生きていたい。
「あとは
「えーっ!?マジで!?」「やったあ!」
「私、カステラは極門堂のが一番好き」「私も~!」
「カステラは、私が一口サイズに切って持ってくね~。これで全部だから、あとのみんなはそのままリビングに戻ってくださいな~」「は~い!」
「人は可能性を選び続けながら生きている」って、ずっと前に父さんから聞いたことがある。
私が視た二つのビジョンは、どちらとも「起こるかもしれない」という(未来の)可能性に過ぎない。
だったら私は選ぶことができる。
「ラテ、全員に行き渡ったよね~?」「うん!」
「プリンめっちゃウマ!」「柔らか~い」
「口の中でとろけそう!」「クセになる美味しさってやつだね!」
「これもユキオくんの手作りですか?」
「ええ。ワタシ、スイーツの中でもプリンが好きなの」
「もう少し大きくても全然行けるわ」
「今日は食べるモノをいろいろと用意したから、あえて小さめに作ったの。次回は普通サイズで作るわね」
「おねがいしまーす!」
「カステラもめっちゃ美味しい!」
「これは唯一買ってきたスイーツなんだー」
「よく入手できたな」
「フッフッフッ~。コネよ、コネ!」
「極門堂の店主さんとワタシが最初につながりがあってね。今は家族ぐるみでおつき合いしてるのよ」
「ザラメの部分が特に好きなんだよねえ」
「カステラにしてはちょっとフンワリした仕上がりでさ、それがまた美味しいの!」
「なのかさんのは何のマークどすか?」
「流れ星。なんだか飲むのがもったいないよ!」
「俺のはハートだ!よる、おまえ俺のことが好きなんだな?こんな形でさりげなくアプローチかけてくるとか。なかなかやるじゃん」
「あんたが言ってる“好き”とは種類が違うから。安心してアヅチ」「グサッ」
「刺さりましたな」「ええ。深々と」
「コーヒーでも紅茶でも、おかわり欲しい人は作るから。遠慮せずに言ってねー」
「ありがとーよるちゃん!」
「雅希のマークは?」と界人に聞かれた私は、「四つ葉のクローバー」と答えた。
私は選ぶことができる。
何を選ぶか、選ばないかも、自分で選ぶことができる。
だったら私が選ぶ可能性は決まってる。
「俺のと同じだ」
「ちなみにワタクシ、ラテアートはまだ初心者なのでー、ハートと流れ星と四つ葉のクローバーの三種類しか作ってませーん」
「じゃあ俺んとこにハートが来たのはやっぱ奇跡じゃね!?」
「分かった。もう二度とアヅチが勘違いしないように、おかわりのときは割れたハートを作るよ」
「グサグサーッ」
「ついにトドメを刺されたな」「よる容赦ねえ!」
私は、私と界人が幸せな未来の可能性を選ぶ。
幸運をもたらすと言われる四つ葉のクローバーを“選んだ”ように。
「それよりさっ!雅希と忍くんは知ってたんでしょ!」
「え」「なにを?」
「真珠が婚約してるってことよっ!」
「あぁ、うん」「真珠から聞いた」
「それで二人のリアクションは薄いんだね・・・」「納得」
「真珠は界人くんとつき合ってるって思ってたんだけどなあ。まさかこの私の読みが外れるなんて!」
「こと恋愛に関するちなっちゃんの分析力は、ホントすごいから」
「誰と誰がつき合ってるとか、誰が誰を好きとかね、よく当たるんだよ~」
「で、真珠ちゃんはいつ結婚する予定なんだ?」「式場は予約したの?」
「今のところは来年の春休みごろに、入籍だけする予定なの。それもあって、みんなには名前で呼んでほしいと思ったんだ」
「あぁ、苗字変わるからね~」
「これでクラスに魁姓は二人になるんだ」「神谷と同じ!」「だね」
「界人がこのレベルってことは、界人の兄ちゃんもかなりなイケメン路線行ってんだろうなあ」
「アヅチは太刀打ちできないでしょ」「なんで俺を出すんだよっ」
「みんなに分かりやすいかなと思って」とちなっちゃんが言うと、全員頷いた。
「なんでみんな納得すんだよっ!」
「だってね」「ああ」「説得力あるから」「だな」「もういいっ」
「真珠ちゃんは俺より年下だけどさ、真珠ちゃんが結婚したら、俺、真珠ちゃんのこと“お
「今までどおり“真珠ちゃん”でいいよっ」
「悩みどころはそこなんだ・・・」「やっぱ界人くんって天然だね」
「ところで、真珠の誕生日っていつなの?」「2月11日だよ」
2月、11日・・・。
「へえ、そうなんだ~。名前にちなんで6月生まれだと思ってた」
「6月の誕生石は真珠だよね」
「もし6月に結婚するなら“ジューンブライド”と“ハッピーバースデー”でダブルにめでたいねえ」
「俺6月生まれ~」「えー?忍、6月生まれだったっけ?」「うん」
「男に“ジューンブライド”って言わないよね?」
「ジューン“グルーム”?」「聞いたことない」
「そもそも6月の“花嫁”しか言わないんじゃないの?」「あ、そうかも」
「ていうか、結婚するのは俺じゃない」
「それで界人の誕生日は?」「俺?」
そういえば私は界人の幼馴染なのに、界人の誕生日を知らないし、界人の誕生会に招待されたこともないと、そのとき気がついた。
まあ私も界人に自分の誕生日を教えたことないし、界人っていうより誰も招待したことないけど。
うちは家の“事情”が特殊だから・・「12月24日」。
え。12月24日?って・・・。
あまりの“つながり”続きに、私は驚きを隠せないまま、私の正面に座っている界人の顔を見ていた。
「おーっ!クリスマスイブじゃん!」
「おまえ、イケメンのくせにロマンチックだな」
「あぁいや、そんなことないって。この日が誕生日の人なら分かると思うけど、プレゼントとパーティーはクリスマスも兼ねてるし」
「なるほど」「親としては自然とそうするわな」
「それに学校も冬休みになったばっかだから、友だちと誕生パーティーしたことねえし」
「分かる!俺の誕生日なんて8月10日、“ハトの日”だぜ!?夏休み真っ只中プラス、お盆直近って
「でもクリスマスイブなら“彼女とお祝いする絶好のチャンス”というものがあるじゃない。その点アヅチの誕生日はまあ、そうね・・アヅチはそういう星の下に生まれてきたってことで」
「そりゃどういう意味だよ!」「界人くんとは似た者同士になり得ないってことよ」
「厳しい!」「けど惜しいとは思わない」「納得~」「ドンマイアヅチ!」
「みんな、たまには俺のこと慰めてくれよぅ!」
「励ますのが精一杯かな」「アヅチさんは打たれ強い人どすから」
真珠の誕生日は2月11日。
そして界人の誕生日は12月24日だったのか・・・。
私は二人――いや、6月生まれの忍も含めると三人――と深く強い絆でつながっている。
だから私たちは、いつか必ず出会うことになっていた。
そして界人とは、たとえ離れ離れになっても、「いつか必ず再会する可能性」を私たちは選んでいたから、私たちが再会したことは「現実」になったんだ―――。
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