第9話 特進クラスの親睦会兼歓迎会
「行ってきます」
「行ってらっしゃい!」「気をつけてね」
「まー姉ちゃん!私のお弁当作ってくれた?」
「うん。いつものところに置いてるよ」
「ありがとう!今ダイエット中だから助かるぅ」
「じゃー俺も行ってきまーす!塩巻いて、塩」「俺にも塩おねがい」
「はいはい」
「今日の高等部送迎は誰が担当だ?」
「俺サマよっ!今日は高等部担当な・の・で!」
「
「
家庭内人口が多い神谷家では特に朝、学園に行く子世代で玄関は大賑わいだというのに、父さんたちがさらに拍車をかけている。
ちなみに神谷家では、家を出るとき玄関で浄化作用のある天然塩をひとふりするのがルールだ。
外に出る自分の身を邪気からある程度護るためにも、この「儀式」は欠かせない。
大賑わいや塩巻きも、私にとってはいつもの朝の風景であり、朝の玄関のひととき。
だから「いつもどおり」を見ることで、私は安心して学園に行くことができる。
「相変わらずすごいな」
「ちょっとしたモーターショーだね」
「ていうより“社会の縮図”だよ。ここが学園だということを忘れそうになる」と言ういとこの
「俺を仙人扱いするなよ、忍。俺はおまえと2つしか年違わないんだぞ」
「わりぃ」
「でも銀兄ちゃんが言ってること、なんとなくだけど分かる」
「社会の縮図?」
「うん。私たち、まだ高校生なのに、もう将来を見据えたコネっていうか、ネットワークづくりに励んでるところがあるし。私はしてないけど」
「そーそー。俺ら子どものつき合いかたが、親同士のつながりを決めてる、みたいな」
「逆も然り」
「そーそー!やっぱ銀兄ちゃんって頭良いな」
「なんだ?忍、勉強教えてほしいのか?」
「もち!今度の中間テスト前はよろしく!」
「銀兄ちゃんは卒業前に車の免許取るの」
「もちろん。車あったほうが大学にも通いやすいしね」
「あっ、じゃあさ、来年からは銀兄ちゃんが俺ら送ってよ」
「時間が合ったらな」と銀兄ちゃんが言ったところで「ハイ到着ですっ!」と新叔父さんが言った。
「では若人諸君、今日も元気にハツラツと過ごすのだよ!」
「はーい」「ありがとう新叔父さん」「行ってきまーす」
慶葉学園は、ただ学力レベルが高いだけではない。
全生徒の半数以上は経済界や財界、政界、医療界、法曹界や芸能界等、各界の有名人や大物といった、いわゆる「家柄の良いお金持ち」の子どもで占められている。
そのため学園には、車で通学してくる生徒がとても多い。
神谷家は、私たち子世代全員が慶葉に通っているので、初等部(小学校)から高等部まで、それぞれ「部」ごとに親の誰かが車を運転して学園まで送ってくれる。
徒歩や自転車で通うには遠過ぎるし、かといって電車やバス等、公共機関を使っての通学となると、「受信機体質」の私には到底ムリな話だ。
ラッシュアワーの満員電車やバスに乗ることがまずできないし、万が一乗れたとしても、乗客の気や念を受けまくって絶対すぐ気分悪くなるか、倒れてしまうのがオチだから。
それに、いわゆる大物の子息や令嬢にとって、車(送迎してもらう)通学は当たり前のことというか・・自分自身や家族のプライバシーを護るため、そして誘拐等の事件に巻き込まれないためにも理にかなったことなのだ。
まあ
「おっ、あれ界人じゃね?」
「うん、そうだね」
「おー・・っと?」
大声出して界人を呼ぼうとしている忍の口を、私はすぐさま手で塞いだ。
「まー?なんだよ」
「邪魔しちゃダメ」
「えぇ?でもなんかさ、界人困ってるっぽくね?」
「自分で対処できるでしょ」
「うわー。まーつめてー」
「それに私たちが邪魔しなくても、あいつはすぐ来る。もうすぐ始業時間だし」
「あ、なあるほどお。んじゃ教室で、どう断ったか聞いてみよっ」
「物好き」
「まーは興味ねえのか?あいつ、すでに結構モテる男子だぜ~」
「知ってる」
「ヤキモキするっしょ」
「なんで私が」
ちょうど髪を束ねて一つ結びをしているあたりの後頭部に、大きな右手を置いてる界人の後ろ姿を私はチラッと見ると、「教室行こ」と忍に言った。
「早くしないと下駄箱に人が増えるし、忍も言い寄られると困るでしょ」
「あ、そーだな。行こ行こ」
特進クラスの教室に入ると、真珠はすでにいた。
「おはよ~!神谷さんと神谷くん!」「おはよっす!」「おはよう、トトさま」
「まっさきー、おはよっ!」
「雅希さん、今日もおはようさんどす~」
「おはよう、雅希ちゃん」
「かみやお~っす」
先生が来るまで、すでに来ている女子と男子生徒が、席の真ん中あたりに集まっていろいろしゃべる。
これも、いつもの朝の学園風景だ。
特進クラスの生徒のほとんどが中等部1年から同じだし(特進クラスは1クラスしかないので、クラス替えもない)、普通クラスよりも生徒数が少ないせいか、みんな仲が良いし、団結力も高いほうだと思う。
だからこのクラスは居心地がいい。
「雅希ちゃん、界人くんと一緒に来なかったの?」
「まだ“取り込み中”だったよ」
「あぁ、そっか」
「モテる男子は大変ですなあ」
「魁界人の分析結果、ハイ出ました!顔良し、ガタイ良し、頭も良し!」
「さらに性格も悪くないと来ればモテないわけないでしょ」
「界人の性格、知ってるの」
「そうねー、優しいしー、天然だしー」「それかなりね」
「何より入学式のとき!倒れかかってる雅希をこうガシッと抱え込んで・・」「ちょっとちなっちゃん、私を雅希にたとえて再演しなくていいから」
「あぁよるちゃん、ごめんごめん。隣にいたからつい・・。とにかく、魁くんは王子みたいにカッコイイ!あのポニーテールがたまりませんっ!」
「あれはボニーじゃなくて、チョンマゲ言うのと
「魁くんに似合ってるから呼びかたはどっちでもよろしい!あのチョンマゲに色気を感じない女子いる?」
「いるでしょ」
「雅希即答!?」
「このぉ、ツンデレ娘っ!」
「・・・私、ツンデレなの」
「自覚ない!?」「雅希も意外と天然なのかも」
なんて言ってるうちに、やっと界人が教室に来た。
「・・・俺、間に合った?」
「キタ天然!」
「開口一番がこれだもんねえ。センセーまだ来てないよ」
「良かったあ」
「でもそろそろセンセー来るんじゃね?」
「そうだね」とよるちゃんが言ったのを合図にしたように、みんな自分の席に戻った。
「うおっす!モテる男、界人くんっ」
「がー。それは言わないでくれ・・・」と言いながら座った界人は、顔を机に突っ伏した。
忍はそんな界人のチョンマゲを軽く引っ張りながら、「で?で?」と詰め寄る。
「・・・疲れた」
「まだ学校始まってねえってのに・・おっ、センセー来た!」
「きりーつ」「礼~」
「おはようございま~す」「はい、おはようございます!」
「着席―」
日直の号令で、みんな一斉に自分の席に座った。
と同時に、忍が後ろを向いて、「“今日は”なんて言って断ったのかなあ?」と界人に小声で聞いている。
「忍は“いつも”なんて言って断ってんの」
「それはもちろん“企業秘密”」
「じゃあ俺は“黙秘“する」と界人が言ったとき、私はこらえきれなくなって、つい顔をほころばせてしまった。
「雅希。そこは笑うとこじゃない」
「ごめん。聞くつもりはなかったけど近いから。二人の会話聞こえちゃって」
「界人くん、お疲れさま。朝から大変だね」
「じゃあこのお題の続きは昼にしようぜ」
「はーい。先生からは以上です。キミたちから何か連絡事項等はありますか?」
「はいっ!」
「長峰さん、どうぞ」
「えっと、このクラスのメンバーの大半はすでに見知ってるし、長いつき合いになるけど、今年は佐渡さんと魁くんの二人が新しく入ったじゃない?それで提案なんだけど、今度の週末あたりに、うちらの親睦会を兼ねた歓迎会をしませんか?」
「おー」「いいねえ」「やろやろ!」
「そういえばさ、私らつき合い長いのに、クラス全員で集まってなんかやったことって一度もなくない?」
「あ。確かにそうかも。女子何人かだけとか男子だけとかならあるけどな、全員集合はまだ一回もしてねえよ」
「そうだね~」「こりゃ集まるしかないっしょ」「賛成~!」
「じゃあ親睦会兼歓迎会の開催は確定ね。で、いつするかだけど、こういうのって早いほうが良いと私は思うから、今度の土曜日はどうかな」
「明後日?」
「うん。思いついたのが昨日の夜だったから、急な提案になっちゃったんだけど・・みんな、もう予定ある?」
幾分不安気な口調で聞いたよるちゃんとは裏腹に、全員「ないよ!」と答えた。
「よるちゃんの言う通り、こういうのは早いうちに開催したほうがいいもんね」
「勢いのあるうちに、みたいな?」
「“善は急げ”だろ」「そういう使いかたするの?」
「じゃあみんな明後日でオーケーということで。最後に場所なんだけど、私んちはどうかな。うちは一気に15人来ても全然余裕ある広さだから、雅希も大丈夫かなって」
「あ・・・うん。どこかのお店を一時貸切るより、よるちゃんちでパーティーするほうが私も助かる。気分悪くならないから」
「雅希ちゃん、よるちゃんちに行ったことあるの?」
「うん」
確かによるちゃんちなら、波動酔いすることはない。
ただ広いだけじゃなくて、家の気も良いから。
「じゃあこれで決まりだね!」
「楽しみ~!」
「ねえよるちゃん、食べものとかどうする?」
「あ。それなんだけど、私のオジさんが教室開いてるくらい料理上手だから、オジさんになんか作ってもらうことにしてる」
「さすがよるちゃん!もうそこまで段取りつけてたんだ」「ぬかりない!」
「飲みものもこっちで用意しとくからそうだね・・一応会費っていうかまあ、材料費みたいな形で、一人2000円徴収してもいい?」
「いいよ」「もちろん!」
「てかそれだけでいいの。会費安過ぎない?」
「そんなことないよ。で、佐渡さんと魁くんは歓迎会の主賓でもあるから、各自1000円ずつの、二人で2000円ってことで、みんないいかな?」
「いいよー!」「オッケー!」
「じゃあうちの住所は折ってラインしまーす」
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