第20話


『助けて欲しいのか……?』



シャルロッテはその言葉にコクリと頷いた。



『なぜ』


「え……?」


『なぜ、ここから抜け出そうとする?』



つぶらな瞳がこちらを見つめていた。

僅かに声のトーンが暗くなったような気がした。


以前ならばこの場所から抜け出そうなんて考えたことは一度もなかった。

だけど、今は諦めがついたのだ。

もうここにシャルロッテが求める幸せなどありはしないと。



「私を壊したアイツらを苦しめるために、ここから出るの」


『……………』


「だから私を……助けてほしい」



ピタリと動かなくなった鳥を見て、シャルロッテはやはり断られるだろうと思った。

突然、こんなことを言われたら驚くのも当然だろう。

シャルロッテはこの鳥が何者でどんな人かも分からないのだから。


(もしこの鳥がダメだったら、他の方法を考えよう……)


ずっと拒絶され続けていたシャルロッテには、自分から何かを望んだことがない。

『愛されたい』

他人依存の願いは叶えられることはなかった。

こうなる前までは、シャルロッテはこの鳥に「こうなったらいいな」という明るい未来の話や願望を語っていた。

しかし今はどうだろうか?


(私の願いは…………)


誰に何を言われようともこの目的は譲れそうになかった。



「もし……叶えてくれないなら」



シャルロッテの感情に合わせて炎は高く燃え上がる。


(……いらない。消えちゃえ)


しかし鳥は動じることなく、暑さを凌ぐようにパタパタと翼を動かした。



『……分かったから落ち着け』


「…………」


『話くらいなら聞いてやる』


「本当……?」


「ああ」



シャルロッテの感情に合わせてか炎がシュッと小さくなった。

改めて鳥と会話しているのは、なんとも不思議な感覚にさせられる。

シャルロッテが右手を振ると、一瞬にして炎は消え去った。

再び闇が戻ってくる。

暗闇のなか……シャルロッテの赤瞳と鳥の赤瞳が不気味に光っていた。



『願いはなんだ』


「…………」



赤い瞳が真っ直ぐに此方を見つめている。

どうやら以前と同じでシャルロッテの話は聞いてくれるようだ。

嘘かもしれない、裏切るかもしれない、逃げるかもしれない。

それでもいいのだ。

シャルロッテは感情の昂りを感じていた。



『……お前の願いはなんだ?』


「私の願いは……願いはね」


『……………』


「復讐するの」


『……復讐』


「アイツらに復讐するの……死んだ方がマシだってくらい苦しめてから、じっくりとじっくりと追い詰めていきたい」


『…………』


「もう一つの願いは……」


『……』



(愛されたい)


シャルロッテの根底にある願望はずっと変わらない。

でも、もし願いが叶うならば以前ならば間違いなくそう言っていただろう。



「…………なんでもない」


『……』


「あなたが誰だっていい。私の側に居て欲しい。そして私を助けて」



シャルロッテの唇から本音が零れ落ちた。


心に憎しみは大きく根付いているけれどそれと同じくらいの不安がシャルロッテを襲っていた。

何も知らないことへの恐怖をどう処理すればいいのかは逃げ続けていたシャルロッテには分からなかった。


その不安や恐怖を埋めるために、マウラのような誰かに側にいて欲しいと願っているのだろう。

こうして本音を吐き出せたのは、相手が人間ではなかったからかもしれない。


その瞬間、何の表情もないはずの鳥が驚いた後にニタリと笑ったような気がした。



『復讐、か』


「…………」


『いいだろう。お前を助けてやる』


「……え?」


『その代わり、お前の全てを俺に寄越せ』


「全て……?」



思わぬ承諾に声を上げた。

そして『全て』という言葉を復唱するとともに、あることに気づく。

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