第21話
「……私は、何も持ってないわ」
『今は、だろう?』
「…………でも」
『その魔法も復讐心も……俺がずっと欲していたものかもしれない』
「……」
『俺も叶えたいことがある……その為にお前を使う。その代わり、お前が欲しいものを全てを与えよう』
「全て……?」
『あぁ、全てだ』
「…………私の側にいてくれるの?」
『ああ』
「私を…………必要としてくれる?」
「そう望むなら」
その言葉を聞いて、全身に鳥肌が立った。
今まで誰にも愛されずに必要とされなかった自分が『欲しい』と言われた事に。
シャルロッテは衝撃で言葉を失っていた。
相手は人間なのかもわからない。
でもシャルロッテはその根拠もない言葉に初めての感覚を感じていた。
たとえ嘘でもいいから誰かに必要とされたい。
そう強く思ってしまった。
「…………いいよ、私を全部あげる」
『そうか。なら……全て俺のものだ』
シャルロッテは本で読んだ物語の内容とセリフを思い出していた。
全て俺のものだ、そう言った男性は女性を抱きしめながら、その後に『愛している』と言った。
「私を……愛してくれるということ?」
ポロリと口から溢れた疑問に、返事は返ってこない。
訪れた静寂。
『ーーーハハハッ!!』
「…………」
鳥が腹を抱えて笑う不思議な様子をシャルロッテは首を傾げて眺めていた。
嘴は開き、喉がくつくつと上下に動いている。
何故、笑われているのか……シャルロッテには理解できなかった。
『愛……愛ねぇ』
「私は変なことを言ってしまったの?」
『いや……こんなところに閉じこもりきりなら、何も知らないのは当然だな。本を読んで学んだのか?』
シャルロッテはコクリと頷いた。
この部屋から出た後も朝から晩まで働きっぱなしだった。
そう考えると、恋愛の知識など幼い頃に読んだまま止まったままだった。
殺伐としたディストン侯爵家で育ったシャルロッテには愛を学ぶ機会などなかったのだ。
『なぁ……』
「……なに?」
『お前を死ぬほど愛してやると言ったら……どうする?』
「…………死ぬほど、愛す?」
『それがお前の望みならば、死にたくなるほどに愛してやると言ったんだ』
ゾッとする声がした途端、真っ黒な羽がブワリと広がった。
なぜだからは分からないけれど、初めての感覚に気分が高揚していた。
『愛が……欲しいんだろう?』
「……うん」
死にたくなるほど愛するという意味がシャルロッテにはよく分からなかった。
(それはあの二人が両親に愛されることと同じ……?死ぬまで一緒にいてくれるということ?)
本に詳しく載っていない『愛』という言葉。
ひとつだけ分かるのは、愛を貰えると『幸せ』になれるということだった。
たとえ誰であっても、その言葉が理解出来なくても、相手が鳥だとしても。
あの時のように、誰にも必要もされないよりはマシだと思ったのだ。
「…………なら、私を愛して」
『後悔するなよ』
「しない。あなたにはずっと一緒にいて欲しい」
『その言葉、忘れるなよ?』
「うん」
そして早速、復讐の第一歩として手伝ってもらわなければと、机の引き出しに隠してあった本の切れ端を鳥の前に持っていく。
「これを……たくさん、ばら撒いて欲しいの。城の近くから始まって、数ヶ月後にはどんどんとこの辺に近づいていけば侯爵達にはバレないように」
『何だこのボロボロの紙……これをばら撒いて何の役に立つんだよ?』
「役に、立つと思う」
『は…………?何だよそれ』
「この本に載ってた」
『なんだその古い本は……』
「牢屋に閉じ込められた騎士が、味方に助けを求める時にやっていたの」
『そんなことよりも噂ならば俺が流して……』
「だめ」
『は……?』
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