第19話
『答えろ……なぜ急に俺のことが分かった?』
「私はね、ずっと魔法が使えなかった……でもね。やっと手に入れたの」
『…………』
シャルロッテの違いに気づいたのだろうか。
鳥はじっとシャルロッテを見た後に口を閉じてしまった。
そして鳥が逃げないように窓を閉めると『こんな事をしてを無駄だぞ』と、言いながら鳥は椅子の上で乱れた羽根を直している。
「あなたは、誰かに飼われているの?」
『いや……』
「…………?」
『あぁ、でも俺はずっと飼われているのかもしれない』
「そう……」
『飼われるのは、もう飽きたな』
その言葉の本当の意味を、シャルロッテは理解することが出来なかった。
しかしこの鳥と自分の状況を重ね合わせて、シャルロッテも自分自身が狭い鳥籠で飼われているようだと思った。
逃げようと思えばいつでも逃げられた……でも、愛されたいと願ってここに執着している。
『そういうお前も……』
そう言って黒い鳥は言葉を止めた。
まるで全てが分かっているようだと思った。
それも当然だろう。シャルロッテは毎日、自分のことを話していたのだから。
それに知識を得た今だから思うのだ。
この鳥が普通の鳥と違うことが……。
『……ずっと、この部屋にいるのか?』
「そうよ。覚えている限り、ずっとここにいるの」
『…………そうか』
「私は何も知らない。私は……あの人達が大っ嫌いなの。私をこんな気持ちにさせた人が嫌い」
『…………へぇ』
「……みんな、消えてなくなればいいのにね」
『ずっとここにいたお前に……そんなことできるのか?』
どこか諦めたように問いかけた鳥を見て、シャルロッテは瞬きも忘れて鳥をじっと見つめていた。
従順で期待ばかりしていたシャルロッテはもういない。
自分から動いて欲しいものを掴み取らなければならない。
まずはこの胸糞悪い籠から抜け出す事が目的だからだ。
微かに口角を上げたシャルロッテが部屋を一瞬で炎で覆い尽くすと鳥の目の色が変わる。
部屋は真っ白な炎に覆い尽くされていた。
だが、何も燃えていない。
『…………白い炎、だと!?』
「…………」
『何故、こんな力が……?まさか燃えていないのか?』
「そう。私が燃やしたいものだけ燃えるのよ」
『……』
そう言ってシャルロッテは壊れたぬいぐるみを指差した。
ボッと音を立ててぬいぐるみは一瞬で灰になってしまった。
『どこで……手に入れた?』
「…………どこで?」
『昨日まではなかっただろう?その力を持っていなかったはずだ。魔力も感じなかった』
「私はね……」
『…………』
「この力を地獄で手に入れた。そして舞い戻ってきたの……ここに」
何故、この鳥がこんなにもシャルロッテの魔法を見て驚いているのか理由は分からない。
シャルロッテは何もかも知らなすぎるのだ。
それにディストン侯爵や夫人の目を掻い潜り、こうして外の情報や手伝いをしてもらえるのはディストン侯爵家の人間以外でなくてはならない。
ここに閉じ込められているシャルロッテには今のところ助けを求める手段はない。
侍女達は絶対にシャルロッテに手を貸さないどころか告げ口をするだろう。
シャルロッテはマウラにいつも言われていた言葉を思い出していた。
『シャル……たまには"助けて"って言いなさいよ』
『たす、けて……?』
『一人で出来ることは限られているんだから……アタシを頼ったっていいんだよ?』
『…………はい』
マウラにはたくさんの優しさを分け与えてもらったと思う。
マウラの姉にだってそうだ。
でなければシャルロッテは本当に病に罹り、この部屋の中で生きていけなかっただろう。
シャルロッテはポツリと呟くように言った。
「ねぇ、私を助けて……」
シャルロッテは赤くつぶらな瞳を見つめながら問いかけた。
誰にも助けを求めたことのないシャルロッテは初めて口にする言葉だった。
だけどこの鳥はシャルロッテを夜空へ導いてくれるような気がした。
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