第18話
どうすれば憎いアイツらを苦しませることができるのか。
プライドが高く、外からどう見られているかに拘る両親は娘のどちらかをデイヴィッドの元に嫁がせようとしている。
そしてそんな両親を見て、すっかり傲慢になってしまったハリエットとイーヴィーを地獄に落とすために何をすればいいのか……。
それにはディストン侯爵家の評判を地に落とすことからだと思ったシャルロッテは本棚のそばに行って古過ぎてパラパラと落ちてくる紙を何枚か手に取った。
埃を被っていた紙をサッと払って何度か叩く。
いつも使っているボロボロな羽根ペンを机から取り出してテーブルに置いた。
万が一誰かが入ってきても中が見られないように紙を隠すように適当に本を広げた。
そして破れて固くなり薄茶色にくすむ本のページに掠れたインクで文字で書き込んでいく。
この時、シャルロッテは簡単な文字ならば書くことが出来た。
今ほど文字を勉強しておいてよかったと思えたことはない。
『たすけて、とじこめられているの』
『ここはディストンこうしゃくけ、わたしはシャルロッテ、たすけて』
『たすけてください、シャルロッテをここから出して』
ドロドロのインクがなくなるまで、何枚も何枚も書き溜めていき部屋の隅で紙を乾かしていく。
そして、そのまま夜を待った。
夜になると、いつものように皆が寝静まった頃を見計らって布を取り歌を唄うために窓を開けた。
六年経って忘れてしまった唄を今ならばハッキリと思い出すことが出来る。
いつものように歌っていると、どこからかバサバサと羽ばたく音が聞こえた。
爪がカチャカチャと擦れる音が聞こえて、そっと窓の外に視線を流す。
そして、あの時と同じように問いかけた。
「あなたはどこから来たの?」
「…………」
「私はね、ずっとここにいるんだよ。魔法が使えないし、見た目はこんなだし、目も赤いから悪魔の子とか呪われた子って言われてるんだ」
「…………」
「うふふ……」
鳥が返事をすることもなくバサバサと羽根を動かして首を動かしている。
『詰まらなかったかな…………ごめんね、何もあげられなくて』
餌すらあげられないことを悔いていた。
いつも空腹だったシャルロッテは自分が食べなければ生きていけないと分かっていたからだ。
それでも何度かパンのカケラをとっておいてあげようとしたけれど鳥は一切口にしなかった。
ただここに来てシャルロッテの話を聞いて去っていく。
触れさせてくれる訳でもなく、ただ赤い瞳でこちらをじっと見つめているだけ。
まるでシャルロッテを観察しているようだと思った。
鳥が現れたことでシャルロッテはあることに気づく。
そしてそれを確かめるために手を伸ばした。
───パシッ
窓から身を乗り出して鳥を掴んでから部屋の中に引きずり込んだ。
「……ウフフ、捕まえた」
突然のことに驚いたのか鳥はバタバタと羽をバタつかせている。
部屋に真っ黒な羽が広がった。
(ああ……やっぱりそうだわ)
魔法を使えるようになった今だからわかることがあった。
ほんのりと感じる力は魔法によるものだろう。
そしてシャルロッテはこの鳥に是非ともやってほしいことがあった。
それが『ディストン侯爵家』を地獄に堕とす第一歩になる。
「もうなにもあげない……今度は私が奪う番だ」
暴れる鳥を虚な目で見つめたあとにグッと力を込める。
すると鳴き声ではなく人の声が響いた。
『……おい、コイツを離せッ』
「フフッ、アハハ」
『何故、急に……』
夜にしか現れない不思議な鳥から確かに魔力を感じた。
ずっと触れてみたかった艶々の黒い羽根を撫でると、触れるなと言いたげに嘴で手の甲を摘まれる。
「痛い……」
『触るな』
「…………どうしていつもここに来るの?」
『……別に。仕事の帰りだ』
「仕事……ふぅん」
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