第17話

シャルロッテはゆっくりとベッドから起き上がり、あの時のように鏡を見た。

栄養不足で血色が悪い顔、ガリガリの手足と何年も陽に当たらずに過ごしているからか、髪と同じように真っ白な肌を見てニタリと唇が歪んだ。



「ウフフ……ハハハッ」



先程からおかしくて堪らないのだ。


あんなにも無表情だった自分が、今はこんな風に声を立てて笑えるのだと知って驚いていた。

それと同時に瞳からは一筋の涙が溢れた。

感情がぐちゃぐちゃと混じり合って頭がひどく痛んだ。


以前はあんなにも無垢だったシャルロッテが、今はこんなにも復讐に燃えている。


小さな窓からはいつものように、ハリエットとイーヴィーがシャルロッテに見せつけるように優雅に紅茶を飲んでいる姿が見えた。


(くだらない……)


シャルロッテは踵を返して、いつも過ごしていた部屋の中をグルリと見回した。

これがシャルロッテの小さな小さな世界だ。


いくら願ってもシャルロッテが愛してもらえることはなかった。

今、魔法を使える事を明かせばシャルロッテは両親に可愛がられるだろうか?

他の姉妹達のように愛してもらえる……?

可愛いと、自慢の娘だと褒めてくれるだろうか。


答えは『否』だ。

それは有り得ないことだと理解していた。


たとえ今、シャルロッテが魔法を使えることが分かったとしても根本的な扱いは変わらない。

自分の持つ魔法の力がどれだけ強いかは分からないが、アイツらに負ければまた奴隷のように働かされるに違いない。


あの時と何も変わらず、冷めた目で見下しながらシャルロッテを役立たずと疎み、邪険に扱うだろう。


(私は……愛されることはない)


これはもう揺るぎない事実なのだ。故に期待はない。

あの時は何も分からなかったが、どうすれば愛されるかなんて考えるだけ無駄なのだ。

だから今、魔法を使えることを明かしたとしてもシャルロッテを取り巻く状況は何も変わらない。

だが、変わらないままでいいのだ。


(…………今は、透明なままでいい)


これは大っ嫌いな神様がくれた最初で最後のチャンスなのかもしれない。

そう思ったシャルロッテはどこまでも広がる青い空を睨みつけながら考えていた。


これからシャルロッテはどう動くべきだろうか。

唯一、外に出る機会がある魔力検査までの時間を使ってシャルロッテにはやるべきことがある。

それにはどれだけ魔力検査の時に爆発的な力を見せつけるのか。

それで今後の生活が一変するはずだ。


(そうだわ……それがいい)


今、シャルロッテには大きなチャンスが与えられている。


これからやることは山のようにあるだろう。

シャルロッテは小さな窓の前に椅子を運んで行き、その辺にあった布で窓を隠すように覆った。


手の届かない場所を見つめながら、指を咥えているだけの時間は無駄だろう。

それにあの二人を羨むのはもうやめた。


真っ暗な部屋の中、椅子から降りて蝋燭に火をつける。

与えられたものは少ないが、膨大な知識と以前の記憶が助けてくれる。


魔力検査まで、後どのくらいだろうか。


(先ずは状況を把握することが重要ね。時間は有限なのだから)


シャルロッテは今にも崩れかけそうな本棚を見つめた。

ここにいる間、何度も何度も読み続けたシャルロッテの夢が詰まった本達だ。

ここから文字を学び、多少の常識を学ぶことが出来たのは大きかっただろう。


机には、ボロボロになったマナーや国の歴史、ダンスのやり方が書かれた紙があった。

それを手に取ってから真っ二つに引きちぎった。

そして細かくぐちゃぐちゃになった紙を何度も足で踏みつけてから全てゴミ箱に放り投げた。

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