第15話
「まさかシャルロッテが……!?」
「そんな訳ないじゃない!!お父様ったら変なことをいわないで」
「そうよッ!こいつは魔力がないのよ……?」
『全て燃えろ……燃やし尽くせ』
「何をブツブツ言っているのよ!シャルロッテ、今すぐ黙りなさいッ」
「いいから、さっさと支度をッ!」
シャルロッテの呟く声にディストン侯爵夫人が気づいて、肩を掴もうと手を伸ばした。
そしてシャルロッテの体に触れた瞬間「ギャアアア」と悲鳴を上がり、ジュッと肉が焼ける音と共に煙が上がる。
ディストン侯爵夫人は手首を押さえながら、次第に黒く焼け焦げていく指を見て更に大きな声を出す。
「わたくしの指がッ、わたくしの指があぁあぁ!!」
「お母様っ!お母様……!」
「誰かッ!どうにかしてよッ!お母様の指が消えちゃう……!」
「どうして消えないの!?どんどんと上がってくるわ!わたくしの腕がッ!助けて、痛いッ!」
白い炎が指を包み、皮膚がどんどんと黒く変色していく。
シャルロッテに注目が集まった。
目を見開いていたシャルロッテの瞳に光が灯る。
ゆっくりと立ち上がったシャルロッテが腕を上げた瞬間───。
真っ白な炎が噴き上げた。
「全部、消えちゃえ……」
汚い悲鳴は、聞こえなかった。
ただ次々に黒焦げになっていく『要らないもの』を見ながら、狂ったように笑っていた。
「────アハハハッ!!」
白と赤が綺麗に混じった炎は消える事なく燃え続けていた。
それと同時に自分の中のなにかが、どんどんと擦り減っていくような感覚があった。
力を振り絞って立ち上がり炎の中を進んでいく。
裏口から外へ出た。
大雨が降っているのにも関わらずに燃え盛る炎は全てを巻き込んで大きな柱となった。
今まで、ずっと縛られていた屋敷は一瞬で灰になって消えた。
まるでシャルロッテの願いを叶えるように。
あの小さな部屋も……もう何もない。
唯一、優しくしてくれたマウラは逃げてくれた。
もう思い残すことは何もない。
火の粉と灰が雪のように空から舞っているが、光を失って地に落ちていく。
(呆気ない……)
美しいドレスは雨を吸って、どんどんと重たくなっていった。
泥で汚れていくドレスを見て、フッと笑みを溢した。
(……………まるで、私みたい)
暫くあてもなく歩いていた。
屋敷にある炎も消えたようだが、もう自分の中には何も残っていないような気がした。
徐々に体が冷たくなっていく。
足が動かなくなって、その場に倒れ込んだ。
なんとか身体を動かして、仰向けになった。
ーーー真っ黒な空に手を伸ばした。
空からは無数の雨が降り注いだ。
呼吸が荒くなっていく。
徐々に指先の感覚がなくなっていく。
まるで、初めからここに居なかったみたいだ。
今でも耳に届く煩わしい笑い声と下劣な行動。
(こんな世界、大っ嫌い……)
どれだけ羨んでも、妬んでも、いくら願っても、お姫様になれやしない。
(……私は、透明だ)
誰も私が見えない。
誰も私を必要としていない。
誰にも受け入れられない。
「まだ居たの?」「なんで居るの?」
そう言われて、私は私を嫌いになってしまう。
(だけど…………)
私は自分を見て欲しい。
私は誰かに必要とされたい。
私の全てを受け入れて欲しい。
私は「貴女が居てくれて本当に良かった」と、言って欲しい。
(……どうして、こんな風になってしまったんだろう)
苦痛からか、悔しさからか視界が歪む。
熱い涙が頬を伝って落ちていった。
悲しい、苦しい、辛い……。
そんな想いから、何もかもから解放されるのならば……こんな結末もいいかもしれない。
(ばいばい……大っ嫌いな私の世界)
まるで……眠るように瞼を閉じた。
最後に見たのは真っ赤に燃える自分自身だった。
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