第11話
「聞いて、シャル」
「……………」
「アタシが朝まで身代わりになるからアンタは逃げて……!」
その言葉を聞いたシャルロッテは静かに首を横に振った。
マウラが自分の代わりに犠牲になるなんて考えたくはなかったからだ。
「あのね……アタシの姉さんは侯爵邸で働いていたんだ」
「…………!」
マウラの言葉にシャルロッテは目を見開いた。
狭い部屋に閉じ込められていた時に、青い髪と水色の瞳を持った優しい侍女が一人だけいた。
いつの間にか姿を見なくなったが、もしかしてそれがマウラの姉かもしれないと思った。
「丁度六年前くらいに急にベルデルク伯爵家に嫁ぐからって手紙が来たんだ。でも姉さんがアタシに黙って消えるわけないっ!ずっと調べてたんだ。きっとアイツらに、あの悪魔達に唆されて姉さんは……っ」
マウラはそう言って顔を歪めた。
悪魔達とは恐らくディストン侯爵か夫人のことを指すのだろう。
マウラは今はもう没落してしまった子爵家の令嬢だそうだ。
「そのまま二度と会うことが出来なかった。今もそうだ」
「………」
「だからアタシが身代わりになる。だからシャルは……シャルロッテは逃げて」
マウラの指に力が篭る。
そして足首の鎖に気付いたマウラは持ってきていた工具のようなもので鎖を切り始めた。
「お願い、シャルロッテ……!アタシは真実を確かめたいッ!それにシャルは幸せになるべきだ!」
マウラは今にも泣きそうになりながら必死に訴えかけている。
マウラがシャルロッテを可愛がっていることを知っている侍女達に告げ口をされた為、今まで部屋に近付けなかったそうだ。
マウラは隙を見てシャルロッテを逃がそうと準備を進めていた。
シャルロッテは必死にマウラの鎖を切る手を止めようと手を伸ばすが、ガチャンと鎖が切れる音がした。
マウラはシャルロッテの手を掴んで大きく頷いた。
「アタシなら何をされても大丈夫……!この髪も瞳も姉さんと同じで珍しい色だし、それにアイツらのやってることは絶対に許せないッ!」
「…………っ」
「シャルロッテ、聞いて!アンタは自由に生きていいんだよ!!」
マウラの手を握り返そうとした時、扉から光が漏れていることに気づく。
すぐにベッドのシーツでマウラを隠そうとするが、マウラは「何!?」と、声を上げてしまう。
「静かに!」と言おうとしても声が出ない。
ただマウラをシーツに包んで抱き締めるようにして思いきり首を横に降った。
「コソコソと、何をしているかと思えば、やはりマウラか……!」
その声にマウラの肩が大きく揺れた。
「……ベルデルク伯爵には白髪の娘をやると言ったんだ。没落した貴族の娘であるお前を引き取って、働かせてやったというのに、まったく」
「今すぐシャルロッテから離れなさいッ!この恩知らずが」
ディストン侯爵に体を押されて床に倒れ込む。
シーツを剥がしてマウラの髪を掴んで扉へと引き摺っていく。
必死にマウラに向かって手を伸ばす。
マウラは必死に抵抗しているが、侯爵の手は離れない。
真夜中の屋敷に怒号と悲鳴が響き渡った。
「お前には相応の罰を与えねばなッ!」
「シャルロッテ……!シャル、逃げて……ッ」
「────!!!」
ぶつけた頭を押さえて、重たい体を持ち上げながら必死にマウラの側へと走った。
手を伸ばしたが間に合わずに目の前で閉まる扉。
ガチャリと音を立てて聞こえた鍵の音に膝から崩れ落ちた。
しかしシャルロッテは開かない扉を思いきり叩いた。
(ディストン侯爵からマウラさんを救わなきゃ……!絶対にマウラさんだけは)
シャルロッテは扉に椅子やランプを叩きつけて音を立てる。
「煩いぞッ!シャルロッテ……!」
「…………っ!!」
「静かにしろッ!」
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