第5話

神官の男性が壇上にいるデイヴィッドに問いかけた。

どうやら水晶玉は特別なものらしく三年に一度ほどしか出せない決まりがあるようだ。



「皆も知っているとは思うが、この国の貴族に生まれたものはなんらかの魔法は使えるはずなんだ。体の弱さにもなんらかの理由があるかもしれない。それにまだ見つかっていない特別な魔法もあるというから本当は今日、受けさせるべきなんだが……」


「わたくし達も魔力検査の重要性については重々承知ですわ。ですが……体調ばかりはどうにも今日に合わせて体調を整えて来たのです」


「お姉様もそれは今日を楽しみにしていて……、」


「ですがわたくし達はシャルロッテに無理をさせたくないんです!」


「もしあの子に何かあったらわたくしはっ……」


「…………ふむ」



デイヴィッドは顎に指を当てて考え込んでいるようだ。

そんなデイヴィッドにイーヴィーはうっとりしている。



「……考え込んでいるデイヴィッド殿下も素敵」


「ちょっとしっかりしなさいよ!イーヴィーッ!」


「あっ……ごめんなさい、お姉様」



ハリエットがイーヴィーの肩をつつくと、ハッとしたイーヴィーは急いで表情を取り繕う。



「申し訳ございません」


「デイヴィッド殿下ぁ!わたくし達ではどうにもできなくてぇ……」


「どうなさいますか、デイヴィッド殿下」


「体調が悪いならば致し方ない。無理をさせて命に関わったら大変だからね」


「デイヴィッド殿下……!」


「ディストン侯爵に後ほど連絡をしてくれないか?シャルロッテ嬢にも魔力検査を受けさせてあげたい」


「かしこまりました。手配しておきます」


「ありがとう。皆を待たせる訳にはいかない。続けてくれ」


「かしこまりました。イーヴィー様、ハリエット様、水晶玉に手を翳して下さいませ」


「フフッ、はぁい」


「ありがとうございます。デイヴィッド殿下」



ハリエットとイーヴィーは順に水晶玉に手を翳す。



「ハリエット様は土と風の二属性、イーヴィー様は土ですね」



そう言われたハリエットとイーヴィーは満足げに微笑んだ。

そして優雅に階段から降りてくる。


(私だって、あそこに行けたら何か変われたかもしれないのに……!)


涙で視界が歪んでいく。

そして土に飲み込まれるようにして周りが見えなくなった。

ただ息苦しさに悶えていた。


暫くすると、明るい光が見えた。

肺に酸素が入り、咳き込みながらも必死に息を吸い込んでいると、先程とは違った景色が見えた。



「ゴホッ、ゴホッ……!」


「……なぁんだ、生きてたの」



気付いたら城の外だった。

土だらけの身体を見て呆然としていた。



「ぁ…………」


「用は済んだわ。帰りましょう?」


「わ、私……!もう一度頼んでッ」


「……魔力なしの役立たずは黙ってなさい」


「逆に感謝して欲しいくらいだわ……皆の前で恥を晒さずに済んだんだもの」



馬車に土ごと放り込まれて、放心状態だった。

ろくに食べ物も食べておらず、魔法の力もないシャルロッテに抵抗する術はなかった。

 


「なんで……っ、こんなの……ひどい」



絞り出した声は馬車が出発する音に掻き消されてしまった。

どのくらい時間が経ったかは分からないが、絶望感に打ちひしがれていると馬車が止まる。

いつまでも座っていると御者によって外に放り出されてしまった。


地獄のような門を潜って、また屋敷へと戻ってきてしまった。


何故、いるのか分からなかった。ただ恐怖に震えながら佇んでいた。

イーヴィーとハリエットは父と母に今日のことを報告しているようだ。

しかしそれを見て体の力が抜けてしまいペタリと地面に座り込んで動けずにいた。



「デイヴィッド殿下の目に留まったのは予想外だが、お忙しい殿下の事だ。そこまで確認することはないだろう……毎年、そういう子供は何人かいるものだ」


「さすがだわ!イーヴィー、ハリエット。あの神官ならば金で揉み消す事が出来るわ。シャルロッテに適当な属性をつけてしまえば目を付けられることもないわね」

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