第4話


「デイヴィッド殿下……!」


「王国に光があらんことを」


「まさかデイヴィッド殿下が来て下さるなんて!信じられないわ」


「アピールするチャンスよ!!」


「なんて麗しいの……」



デイヴィッドは壇上にある椅子に座って、優しそうな笑顔を浮かべている。

姉や妹と同じように煌びやかな格好をした令嬢達は熱い視線をデイヴィッドに向けている。


その後に黒髪で赤い目をした不思議な青年が階段を上がると会場は先程の熱が嘘のように静まり返った。

気だるそうに椅子に腰掛けた青年は頬杖をついている。

周囲からは「ブ、ブルックス殿下よ……!」「怖いわ」と、デイヴィットとは反対で彼を恐る言葉が次々と漏れていた。



「…………早く続けろ」



ブルックスの低く不機嫌そうな声が静まり返ったホールに響く。

水晶玉を持っていた神官の男性は慌てて紙を持ち、咳払いをして名前を呼んだ。



「──ハリエット・ディストン様、シャルロッテ・ディストン様、イーヴィー・ディストン様」



名前を呼ばれて、ビクリと肩が跳ねた。

あの水晶玉に手を翳せば何かが起きるかもしれない……そう思うと前向きな気持ちになれた。

ワクワクした気持ちで足を進めようとした時だった。

背後から声が聞こえて腕を掴まれた。



「アンタみたいな恥晒しが、デイヴィッド殿下や皆様の前に行くなんて許されないわ」


「ハリエット、お姉様……?」


「受けるだけ無駄。どうせ魔力もないんだから変わらないわ」


「……イーヴィー?」


「気安く名前を呼ばないで。こんなお荷物を皆の前に出すなんて、わたくし達の不利になるじゃない」


「鏡を見て出直してきたら?ずっとあの部屋にいればよかったのにね」


「え……!?」



足首に違和感を感じて下を見ると、地面に飲み込まれるようにして動けなくなっている。

バランスを崩しそうになり柱で体を支えた。



「何、これ……?」


「ずっと部屋にいればよかったのに……!本当、お父様とお母様の言う通り。目障りなのよ!」


「ここに居なさい」


「行かせて下さい……っ!やっと、やっと私はっ」


「……お黙り」



何故か喉が詰まったように声が出なかった。

魔法で何かされたのだと、そう理解できた。



「──ッ!?」


「じゃあね、役立たず」


「最初からアナタに魔力なんてないんだから、判断しなくても一緒でしょう?」


「ウフフ……!」


「……アハハハッ」


「……ッ!」



ハリエットとイーヴィーは笑いながら「ここにおりますわ」と言って歩いて行った。


(折角、ここまでこれたのに……!)


この日をどれだけ待ち望んでいたのか……その思いでシャルロッテは必死にもがいていた。

しかし体力も力もないシャルロッテには、体や首に纏わりつく固い土塊を解く術はなかった。



「シャルロッテ様は……?」


「シャルロッテは体調が急変してここには来れなかったのですわ!」


「しかし、これは義務ですぞ……?」


「分かっております!ですがこのまま妹が倒れて二度と目覚めなかったらと思うと……わたくしはっ」


「どうかわたくし達に免じて、お父様とお母様を責めないで下さいませ!わたくし達もお姉様を一生懸命サポートしていたのですが」


「申し訳ありませんわ……!」



涙ながり語るハリエットとイーヴィーに集まる同情の視線。

側から見て、シャルロッテを心配して気遣っているように見えるだろう。

そして「可哀想に……」「緊張してしまわれたのかしら」「確かにシャルロッテ様は病弱だと聞いた事がありますわ」「誰もお姿を見たことありませんものね」と、周囲の声が聞こえてくる。


(私もッ、私もあそこに行きたい……!)


しかし足も動かずに、言葉もでない。

涙が溢れてくるけれど、会場の端で柱の影に隠れていたため、誰も気付くことはなかった。



「デイヴィッド殿下、いかがいたしましょう」


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