第3話 ジバク霊 その弐

「今回はこちらのお部屋となります」


 毎度おなじみの吉沢さんに、俺は新たな部屋へと案内された。

 

「で、ここはどんな幽霊が出るんですか?」


 俺は真っ先にそう質問した。今度こそ幽霊と折り合いを付けて、激安の部屋をゲットしたい。

 

「こちらに出るのもジバク霊ですよ。彼女の願いを叶えられたら、上手く成仏させることが出来るかもしれません」


 なるほど、何らかの未練に捕らわれているということか。俺に叶えられるような願いならいいんだが。

 

「それでは、頑張って下さいね~」


 そう言い残して吉沢さんは帰っていった。

 

 そしてその日の夜、俺は息苦しさと誰かに見られているような感覚に目を覚ました。

 

「ひっ!」


 そして目にした光景に思わず悲鳴を上げる。

 

 ベッドに寝ている俺を、真上から髪の長い二十歳くらいの女性が見下ろしていた。しかも全裸で身体に縄を巻き付け、天井から吊されている。

 

 ただ、巻き付けるといってもグルグル巻きというのではなく、ボディラインを強調するかのような複雑な縛り方だ。亀甲縛りというやつだろうか?

 

「はぁはぁはぁ。苛めて、もっと私を苛めて」


 女性は息を荒げ、熱に浮かされたように呟いた。

 

 こ、これはどうすればいいんだ?

 

 とりあえずベッドから下りると、彼女の望み通りに平手を打ち付けてみるが――

 

 スカッ。

 

 当然幽霊に実体は無い。俺の腕は彼女の身体をすり抜ける。

 

「どうして苛めてくれないの? ぶって、私をぶって」


 そう言われても、何度試そうが俺の手は彼女に触れることが出来ない。

 

「意地悪、意地悪、意地悪~~~っ」


 彼女は恨めしげな声を上げて俺を見る。

 

「ムチで打って、ロウソク垂らして、大人な玩具オモチヤで私を責め抜いて!」


 彼女は無理難題をひたすら請い続けるのだった。

 

       ◆

 

「次の部屋を紹介して下さい」


 翌朝、俺は分有不動産に入るなりそう言った。

 

「あら~、やはり無理でしたか。ちなみに彼女は――」


 俺はその言葉を遮って言う。

 

「分かってます。ドMの自縛・・霊ですよね」


 俺の答えに吉沢さんはちょっと不満げな顔をするのだった。

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