第2話 フユウ霊

「こちらのお部屋はいかがでしょうか?」


 分有ワケアリ不動産の吉沢さんに案内されたのは、これまた立派な部屋だった。そして家賃は一万円。

 

「ここには何が出るんですか?」


 俺は予めそう訊ねる。最初から知っていれば心構えが出来るし、なんとか対処も可能かもしれない。

 

「はい。こちらにはフユウ霊が……」


 吉沢さんは少し表情を曇らせながら言う。

 

 浮遊霊か……その辺をフワフワされるだけなら害はなさそうだ。無視すればいい。

 

 そう考え、俺はこの部屋で一晩を明かすことに決めた。

 

 何事もなく夜は更けていき、俺は昨日の睡眠不足からぐっすりと寝入っていた。

 

 ジャンジャンジャン! ジャジャンジャン!

 

 そこへけたたましい音楽が聞こえてくる。それはテレビ番組で観た昔のディスコの様な……。


「な!? なんだ!?」


 あまりのうるささに飛び起きれば、部屋の中を色とりどりの光が舞っていた。これもまたディスコで見たことがある。

 

 そして部屋の中央、テーブルの上で若い女性が踊り狂っていた。

 

 身に着けているのは、ボディラインを強調する身体にフィットした派手な衣装だ。長い髪を振り乱し、手にした扇をクルクルと回している。

 

「うるさい! やめろ!」


 俺はその女の幽霊に怒鳴りつけるが、踊りに夢中なのかこちらの声が届いた様子はない。

 

「こ、これ……一晩続くのか」


 俺はげっそりとしながらそう呟くのだった。

 

       ◆

 

 翌朝、俺は再び分有不動産を訪れた。

 

「吉沢さん、あの部屋に出る幽霊ってなに?」


「彼女は1980年代のイケイケギャルでございます。当時の日本はバブル景気に沸いていたそうです」


「浮遊してないじゃん?」


 俺の疑問に彼女はこう答えるのだった。

 

「ですから、富裕・・霊でございます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る