正式入団 002



 突如始まった余興……僕の力を確かめたいというマスターアウレアの要望を受け、宴は一時中断となった。

 「流星団」一行は酒を片手に外へ出て、僕とアウレアを囲うように大きな円陣を組む。


「なんだなんだ、何が始まんだ?」

「ウィグの入団テストだとよ。マスター直々に確かめるらしい」

「えー、ウィグっちまだメンバーじゃなかったのー」

「当ったり前だろ。マスターが認めなきゃメンバーにはなれねえんだからな」

「ま、あいつなら余裕だろ」


 口々に言いたい放題である。

 これはテストじゃないはずなのだけれど……そう思った方が少しはやる気も出るか。

 酔いも飛ぶと言うものである。


「準備は良いか、ウィグ。力を発揮できずともメンバーとして認めるが、儂からの評価はただ下がりじゃと思っておけよ。これでもお主には期待しとるんじゃからな」

「こうギャラリーが多いと緊張するんですけどね」

「カハハッ、緊張などするタマではなかろうて……ま、肩の力を抜け。普段通りやればよい」


 豪快に笑うアウレア。

 その態度とは裏腹に鋭い眼光は、まるで僕を値踏みしているようだ。


「まどろっこしい話は抜きじゃ、一太刀浴びせてみろ。それが単純明快にして唯一無二の力の示し方じゃ」

「……斬るのはいいですけど、大丈夫ですか? 一応これ、真剣ですけど」

「心配には及ばんよ。今からお主の相手をするのはじゃからな」


 アウレアは右手を天に掲げ、大きく目を見開く。


「【神の右手インドラ】――《雷像ライジン》」


 瞬間、蒼色の雷がアウレアの右手目掛けて落ち、轟音を立てて渦巻き始めた。

 その雷は次第に形を変え――数秒後。

 身の丈二メートルはあろう人間を模した造形へと変化する。


「この《雷像》はBランクの魔物と同程度の力がある。余興にはちと強力過ぎるかもしれんが、ナイラの認める男なら問題あるまい」


 にやっと笑うアウレア……どうやら雷を操って即席の兵隊を作り出したようだ。

 確かに、これなら斬っても問題はない。


「【神の右手】は雷を自在に操るスキル……ちなみに、儂の不老不死もどきもこの力を応用したものじゃ。常に体内に微量の電気を流し続けることで、細胞を活性化させて老いを食い止めるわけじゃな。どうじゃ、はんぱねーじゃろ?」

「そりゃ眉唾ものですね……で、そいつに一太刀浴びせるだけでいいんですか? 一瞬で終わりそうですけど」

「カハハッ。見かけと態度に寄らず自信家じゃのぉ。あるいは剣にのみ執着しているのか……どちらにせよ、威勢のいい若者を見ると滾ってくるわ。ではお主の言葉を信じ、難易度を上げるとするかの」


 アウレアの右手に再び雷が落ちる。

 轟音と共に、新たに四体の雷兵が生み出された。


「ほれ、これで文句あるまい。あまり増やしすぎるとギャラリーにまで被害が出てしまうからな、五体で充分じゃろ」

「まあ、さっきよりは楽しめそうですね」

「儂のことも楽しませてくれよ、ウィグ……さあ行け!」


 開戦の指示を受け、兵士たちが動き出す……って、滅茶苦茶速い。

 元が雷なので多少は素早いと予想していたが、計算外の速度だ。

 四方八方に散った光の残像を目で追うのがやっとで、本体を補足できない。


「死なない程度に加減はするが、こやつらの攻撃を食らえば三日はまともに動けんと思えよ」

「ご忠告どうも……」


 縦横無尽に駆ける雷兵からは、いつ攻撃が飛んできてもおかしくない……さて、どうしたものか。

 ここまで動きが速いとなると、五体一斉に突っ込まれたら対応できないだろう。

 理想は各個撃破……それができれば苦労はしないか。


「……」

「どうしたどうした? 手も足も出ぬか? 降参? 降参?」


 人が困っているのを見て愉快そうにするアウレア。

 控えめに言って性格が悪いが、結果を出さないうちから文句を言っても仕方ない。


「《斬波ざんぱ》」


 敵の動きを予測して斬撃を放つ。

 が、空ぶり。


「《飛来衝ひらいしょう》」


 再び二の太刀を放つ。

 以下同文。


「おいおい、そんなもんか? こりゃ、ナイラの人を見る目も曇ったようじゃな」

「……」


 僕が貶される分には構わないが(ムカつくけど)、僕を認めてくれたナイラが貶められるのは頂けない。

 あの技は疲れるし大味だから好きではないが……贅沢は言っていられないか。


「ふう……」


 剣を構えたまま腰を落とし、目を閉じる。

 自ら視界を封じることで周囲の気配に敏感になる……のではない。

 そんな探知系のスキルみたいな技は使えない。

 目を閉じたのは、集中するため。

 一切の雑念を排し。

 ただ――斬ることに。


「《天回てんかい》」


 右足を軸に、一気に身体を回転させる。

 剣は水平に、さながら独楽のように回る。

 何百回転という文字通り目が回る動作を瞬間的に行うことで、その斬撃は威力とキレを増していく。

 ただし、狙うのは敵本体ではない。

 奴らが必ず触れているもの――空気。


「ほう……面白い男じゃ」


 閉じていた目を開けると、先ほどまで辺りを飛んでいた雷兵の姿はなくなっていた。

 思惑通り事が進んだようだが……しんどい。

 周囲を無差別に巻き込む範囲攻撃である《天回》は、攻撃範囲と引き換えに大きく体力を消耗するのだ。

 ついでにとても目が回る。


「儂の《雷像》を一気に片付けるとは、中々見応えがあったぞ……うむ、これなら大丈夫そうじゃ」


 疲弊した僕とは対照的に、アウレアは満足そうに頷く。


「大丈夫ってのは、ギルドに入ってもいいってことですか?」

「ギルドには元々入れる気じゃと言っておったろう……これだけの力があれば、に出ても問題あるまいという意味じゃ」

「あれ……?」

「ま、その話はおいおいの。今は新たな仲間の誕生を大いに喜ぼうではないか。みな、宴の再会じゃ! ウィグを酒場まで連れていけ!」


 アウレアに焚きつけられ、円陣を作っていたメンバーたちが僕の元になだれ込んでくる。

 わっせわっせと運ばれ、為す術なく身をゆだねるしかなかった。


「あ、あのー……私は?」


 遠くで困惑しているエルネが視界に入ったが、多分気のせいだろう。


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