17話目 頼みました

「例の修道士が攫われた時に載せられた馬車ですが街中にて「馬車を追いかける修道士の少年が居た」といくつか証言を貰いました。これはリュミリスの証言と一致します」




最初蓮の出身国を探していた部屋にて、再び聖職者と衛兵達が集まる。

聖職者達はメモをとりながら聞く一方、衛兵達は真剣にその説明を聞いていた。


「そして街中だったことが功を成したのでしょう、数々の目撃証言から馬車の絵を作成し、そこから攫った者達の形跡を追い、一つの山脈に行き当たったのです」


山という単語に衛兵達が少し身を乗り出す。攫われた修道士の居場所。

彼らが最も知りたかった情報を告げる代表の聖職者はその傭兵を一瞥しながら

説明を続けた。


「その山というのが"エリドサントロー国"を始めとし、我々ヴィトゥナーク市国とアイパラス共和国、そして"オーストリー王国"に位置する"アルトリア山脈"です」


その言葉に衛兵達が意気込む。エリドサントロー国といえばヴィトゥナーク市国に

いる全ての衛兵の故郷だ。ヴィトゥナークはエリドサントローから衛兵を雇っており

生まれ故郷でなくとも全ての衛兵が育った場所である。


つまり、アルトリア山脈に最も近いエリドサントロー国は自分たちのテリトリーと

言っても差し支えないのだ。よく知り尽くした国である分、山への攻め方などの

行き方なんて容易に想像出来る。


「その中に複数不審な馬車が入っていくという目撃情報もあります、そして中に抑え込まれた人間が入っていたという情報も。そこに例の修道士が拘束されているのはほぼ確定と言っていいでしょう」


そう言い終えた聖職者は、メモをとる他の聖職者や衛兵達のさらに一番奥、

静かに話を聞いていたフェリデンスを見つめる。

それに対しフェリデンスはゆっくり頷いた後、聖職者達を見渡した。


「私の代で絶やすと誓った修道士の誘拐を行ったこと、断じて許せません。攫われた子達は誰もが家族を持ち、思い出を持っている。…そうでなくとも、確立した意思を持つ"一人の人間"であることに変わりないはずです。彼らはそんな子達の尊厳と未来をふみにじっている。これは人間を作った女神への冒涜でもあります。女神が人間を作ったのは人が人を売り私腹を肥やさせるためではありません。」


きっぱりと告げたフェリデンスは衛兵達を見つめる。


「衛兵の皆さん、頼みましたよ。今もなお悲しむ子達を探し救えるのは貴方達だけです。私の、ヴィトゥナークの、そしてメシア教の女神にかけて。頼りにしていますよ。」


衛兵達は思いっきり首を振る。そして一気にわっと騒がしく話し合い始めた。

それを優しく見つめた後、再びフェリデンスはきっ、と前を見据える。

そして傍に居た聖職者の耳元に口を寄せる。


「…貴方はすぐ首都外れの教会へ。司教のパテピルスに連絡を至急お願いします。」

「例の目撃者…リュミリスはどうされますか?」

「それについては私にお任せください。連絡をした後、他の聖職者と共に山に潜む不届きものらの詮索を。どんな者が黒幕か調べ、それを衛兵としっかり情報共有しておくように。その後、ルートの確保をお願いします」

「はっ」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

国がいっぱい出て来たので説明をば…

文字数の関係で今回はヴィトゥナーク市国・アイパラス共和国のみ。

次回はエリドサントロー国・オーストリー王国・アルトリア山脈について載せます。




<ヴィトゥナーク市国>

エリドサントローの真下に位置する国家。世界でほとんどと言っていいほどに

信仰されている"メシア教"の中心地であり、どの歴史においても中立国。

しかしエリドサントローとは違い宗教の重要な物などを守るため、

また争いは教えに反することからという理由で中立を保っている。

その教え故に兵を持っておらず、しかし過去何度も国を周辺国から狙われたため

エリサンドローから衛兵を派遣してもらっている。



<アイパラス共和国>

エリドサントローの左上に位置する国家。芸術と料理の国として有名である。

どの歴史においても強国として威光を放つ世界屈指の王国であったが、

近年市民からの不満が爆発し革命が起き、共和国となった。しかし

「王族だけでなく貴族も抹殺すべきだ」・「罪のない貴族まで殺すことはない」

という過激派・擁護派に分かれ紛争が勃発。


最初に言った通り元々は芸術と料理の国として有名であり、

今も世界各地から美食家が料理を求めてやって来ている。

現在は過激派の力が強まっているため"共和国"と名乗っているが

形勢逆転次第で"公国"になる可能性もゼロではない。

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