16話目 鎖を引きちぎれ
「フェリデンス様!」
ある朝の教会本部で、目に隈を作った聖職者が大慌てでフェリデンスの元へ走る。
途中途中こけそうになりながら、右手には紙を握りしめていた。
「どうかしましたか、そんなに慌てて」
「ゆっ、誘拐されたという修道士と思われる子の身元が判明しました!」
興奮気味に話す聖職者を諫めながら、差し出された紙を開く。
それに目を僅かに開くも、すぐに落ち着きを取り戻し紙を受け取った。
「落ち着きなさい。何があっても冷静に。聖職者の基本ですよ」
「あ…」
すみません、と謝る聖職者に頷き、紙を開く。
そこには震えた字で文字が書かれていた。
あの時興奮した様子で捜索を意気込んでいた傭兵達が書いたのだろう、
武力関連以外の教育をあまりまともに受けていない傭兵達がいびつながらも
一生懸命書いた字は震えていたのかさらにいびつへと変化しており、
それほど一生懸命探してくれていたのだと思うと心が温かくなり、
今すぐにでもリュミリスやパテピルスに教えたくなった。
「(…しかしまずは、この紙を解読しなければなりませんね)」
息を整えている聖職者に声をかけ、その場を後にした。
★★★
「んぐぐ…うぅ……!」
場所はラフノアと蓮が閉じ込められている部屋。
石で出来た静かなその部屋に、ラフノアただ一人の声が響いていた。
蓮が一生懸命頑張ってくれているのに、それをただ見ているわけにはいかない。
そう思いラフノアは何度心が折れそうになっても、懸命に力を込めた。
とはいえそんな力すら入らないほどにルークの魔法は強力で。
ラフノアが自身の力を調べた結果、歩いたり座ったり、肩に力を込めることは
可能らしく、しかしよろけながら歩くことしか出来なかったり、
首は動かせなかったりと不便な面も勿論あった。
肩の他に腕も動くと気付いたラフノアは力の入れれない手首でなく
腕で外すことに力を費やした。
魔法が使えないほど膨大な魔力を持つラフノアですら破れない強力な魔法。
こうしている間にも、こうしなくても、蓮は命を削っていく。
心が折れそうになるのに重ね、思わず涙が出そうになる。
でも、泣いている場合ではないのだ。
蓮を止めようとしていた時は必死で止められなかった流した涙。
それを振り払い、力を込め続けて何日が経っただろう。
「はぁ…はぁ……ウッ、あ………!」
「レン!」
魔力切れの直前で気絶する蓮が目覚める度震える手で、ぼやけた視界だろう目で、
必死に起き上がろうとしながら虚空に手を伸ばす。
気絶から目覚めたとはいえ十分に戻っていない魔力を使えばすぐに切れるし、
何せ出す魔法も小規模のもの。
だから気絶から目覚めた直後に使っても無駄なのだが、ラフノアを助けることに
またこちらも必死な蓮はそれに気付くことが出来ない。
ラフノアはいつ蓮が本当に魔力切れで倒れてしまうのか不安で不安で、
その度腕に力が籠った。
ちなみに当のルークはというと時々様子を見に来てはニヤリと笑っている。
そしてラフノアを一瞥した後、蓮に次に習得させる魔法を伝えそのまま去って行き、
おそらく後は仕事をこなしているのだろう。
人を攫い、家族や友人と引き離し、売りさばくという奴隷商人の《残酷な》仕事を。
今蓮が必死に出そうとしているのは炎でなく雷。しかし魔力を激しく消耗した
その身体では、せいぜい空気中に静電気が走る程度。
パチ、パチ、と音がするたび力が抜けていき、ラフノアの心には焦りと不安が
増していく。どっちも互いを守るために譲れなかった。
従兄や妹と引き離され、暴力を振るわれ怯えていた自分に優しく声をかけてくれた。
傷を治してくれた。手を繋いでくれた。そして今、守ろうとして命を削っている。
まだ出会って間もないのに。ずっと一緒にいた友人のような存在でもないのに。
見ず知らずで出会ったばかりの少年のために、ここまでしている。
そんな彼を見捨てられはしない!
「う…ぐぐ、うぐぐぐぐ……!」
腕へ力を込める。
まだだ、もっともっと強く!今までよりも、
このまだ僅かな人生で一度も出したことのないような力を!!!!!!!!
腕に力を込めると同時に反動で顎にも力がかかり、上下の歯が互いに押し合う。
歯茎が悲鳴を上げ、顎が疲労を訴える。それでよろめく体を支えるために
動かした足は震えていた。
「…!」
ふいに、ほんの少しだけ首から手が離れたような気がした。
でもその安心で力が抜けたためか、すぐに戻ってしまう。
力が抜けた影響で、顎も腕もすべてが一瞬で疲労の波に襲われる。
けれどそれで諦めてはいけない。今確かに希望が見えたのだ。
今力を入れないでそうする?せっかく希望が見えたのに。
諦めちゃいけない、絶対に!
今も自分を守ろうとしてくれてるあの人のために今…今!!!!!!!
精神魔法を強制解除させろ《鎖を引きちぎれ》!!!!!!!!!!!!!!
――――――――――――――――――――パリン
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