番外編 教会の大晦日
「はぁ~……」
12月31日、来たる大晦日。ヴィトゥナークの首都その中心にある大聖堂にて、
翌日祝う"神の起床日"、祭日の前晩の祈りが執り行われれていた。
「寒い…でもとても賑わってる……!」
「どーよ、これが首都ってもんだぞ蓮!!!」
この日、ヴィトゥナークにある教会全ての司教が首都の大聖堂に集まり祈りを
捧げる。それに伴い首都を見てもらおうと、リュミリスの提案で蓮は首都に
来ていた。もちろん、パテピルスの許可は取得済みだ。
「そういえばリュミリス、神の起床日って…?」
そう問う蓮に、リュミリスはあー、と言いながら説明を始めた。
「お前記憶喪失だもんな、よし!このお兄さんが説明してやろう!!!」
ドヤ顔をしながら盛大に張り切って教えてくれたリュミリス曰く、
この世界の神様は一年中起きて、朝も夜もずっと見守ってくれているらしい。
そんな神様は、年に一度だけ休む。それが12月31日。だから12月31日は
大晦日だけれど、別として「神の安息日」とも言われるそう。
神が見守ってくれるおかげで安全に過ごせた一年を感謝し、民は明かりを灯す。
そしてその明かりを気球のように空へ飛ばし、
盛大に祝うことで神に力を与えるらしい。
大聖堂近くでは少年少女を集めた聖歌隊が聖歌を歌い、
現在大聖堂では夜に向けて現在準備が行われているとリュミリスが教えてくれた。
「でも、教会の掃除、僕達だけ抜け出して良いのか…」
今日、国中の教会はそれぞれの教会を自分達でキレイにする。
そこを自分達だけ楽をして…
「何言ってんのレン~」
リュミリスはふふ…と笑う。
「この日のためにちゃんと自分の部屋掃除したでしょ?最低限の部屋も済ませたし」
だから、とリュミリスは蓮の肩を組む。
「今日はいっぱい遊んじゃって良いんだぞ~」
聖歌の調べに彩られたこの首都で、メシア教最高位である大司教は民に演説を
行った後、大聖堂から次の日まで出てくることはない。神が休まれる間、
神に変わって民を守るために祈りを捧げるそうだ。
「今は朝だけど、夜はもっと明るくなるぞ!そんで屋台がたくさん出て~…」
リュミリスの言葉を遮るように、何かの音が鳴る。
「………」
「…もうすぐお昼だし、何か食べるかぁ~」
「ものすごくいたたまれない……!」
★★★
「ほれ、あったかいの」
「ありがとう…」
その夜。聖歌を聞きながら待っていれば、リュミリスが何やら持って帰って来た。
「これは?」
「んーそれ?"キエティ"って言うんだぜ」
「きえてぃ?」
渡されて見れば、木で出来たお椀の中に、煮込んだであろう豆が目立つ。
ホワイトシチューだろうか、とてもクリーミーで、他に白菜などが入っていた。
「美味しい…それに温まる」
「な?言ったろ」
にししっと笑いながらリュミリスは蓮の隣へ腰掛ける。聖歌隊の前には木製の
長椅子がいくつか置かれ、他にも座っている人が大勢居た。
「でも冒険者になったらもっと美味しいモノ食べれるぞ」
「ホント?」
「そーだなぁ、やっぱ一番は"
「ミッシェル…」
リュミリスから教えてもらったことがある。
花の蜜を集めた…この世界でいう"蜂蜜"だ。
「んで特筆すべきは花弁がまた生えてくること!だから何回でも食べられるんだぞ。そして基本どこにでも生えてて、大雪の降る山とか、火山とか。だから非常食としても重宝されてるんだ」
「すごい…!」
リュミリスが話してくれる冒険についての話は、とても希望をくれる。元の世界で
救いがなかった自分にとって、どの話も光り輝いて見えた。
「早く冒険したいなぁ」
「だろー?お前が18になったら一緒に冒険しよう!!!冒険者になれるのは大人からだし、その間冒険者成り立てのお前を守れるよう来年成人したらオレ頑張るから!!!」
「良いけど一人でモンスター倒しまくらないでね?」
「おーよ!そんでダンジョン挑んで~、星体見つけて~黄道を見るんだ!!!!!」
「リュミリス、精霊とはいつ契約するの?」
「そのタイミングは決まっててな、皆最初の契約は同じ所で始まるんだ」
「同じ所?」
教えて!という風に目を輝かせれば、
「子供のお前にはまだ秘密!」
「ひどい、リュミリスも子供のくせに!!!!」
「オレはもう18ですぅー」
「まだ17!!!!!!!!!!!!」
思わず笑い合う。なんて幸せな大晦日。こんなの初めてだ。
「さぁ食べたことだし、明かりを飛ばしに行こう!」
「明かり?」
「まだ川の方でやってるはず、行くよ!!!」
ヴィトゥナーク首都のすぐそばには川がある。シンフォートと呼ばれるこの川の
河原でランプを灯し、そこに丸い球状の布を被せ飛ばす。そして飛ばす前、
その布に願い事を書くのだ。
「(来年もまた、楽しい大晦日になりますように…)出来た」
「出来た?じゃあ飛ばしに行こうぜ」
ひょこっとリュミリスが向かい側から顔を覗かせる。布は意外に大きく、165cmある
蓮の肩まであった。お互い側面に願い事を書き、川へ持っていく。すると川に居た
傭兵がランプに火を灯してくれ、そこに布を被せた。
「「せーの!!!」」
二人で力を合わせ、空へと飛ばす。二人の願いを込めた気球は、勢い良く…
けれど、ふわふわ星空へ飛んで行った。
2022.12.31 |Have a wonderful holiday!《素晴らしい年越しを》!!!!!
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