13話目 フェリデンス

「これは……捜査が難しくなるかもしれない」



一枚の紙を見た聖職者が、頭をかきむしりながら言った。

それに周りの衛兵達はザワつく。


「どういうことだ?」

「この紙には、黒髪黒目の特徴を持つ国が書かれています。しかし…その数が多数あるのです」


その言葉に、衛兵達は更にザワついた。


「しかし、そんなにあるなら目についてもおかしくない…」

「俺見たことないぞ」

「私もだ」


すると眼鏡をかけた老人が手を小さく挙げた。


「その国達はおそらく東に位置する国達だろう。特徴こそ知らないが、名前なら聞いたことがある。その国達はメシア教が及んでおらず、独自の宗教を掲げていると聞く…このヴィトゥナークに来るほどではないのであろう」


その言葉に衛兵も聖職者も頭を掻く。この国は世界の西側、その中心に位置する国。だから近隣でなくとも大抵の国ならば会うし、宗教の中心でもあるのだから、

上緯度の国も来る。しかし遠く離れ、しかも宗教が及んでいないならば

こちらに来ることがないのも納得いく。


「黒髪黒目、それだけならば東の国にごまんといる。何故そやつらが若き修道士を攫ったのかは知れぬ…その分、居場所を突き止めることに専念せよ!」


その言葉に衛兵達はうおおおお、と声をあげる。今までは居場所より国を突き止める

のがメイン作業だったため、衛兵の出番はなかった。しかし、いくつもの事件を

解決して来た衛兵達にとって、最早居場所を突き止めるのは十八番だ。


「―――やる気になったところで申し訳ありませんが」


ふと、先程新米の傭兵が入って来た所から声が響く。その言葉に衛兵達はピタッと

止まり、聖職者は青い顔をして振り向いた。


扉の向こう、そこにはその場にいるどの聖職者達よりも白い衣を纏う集団。

そしてその中央の青年は、その中でもひときわ目立っていた。


「フェリデンス様、どうしてこんな場所へ……!」


国の書かれた紙を持った聖職者が青い顔をしたままおそるおそる問いかける。

するとフェリデンスと呼ばれた青年は柔らかな微笑みをたたえたまま呟いた。


「私が数年前、多大に重罪を発表し、規制をかけ、誰一人として家族や友人から強制的に離れさせられることはないよう処置をして。それが破られた以上、動かなくてどうするのです」

「で、ですが…」

「それならば我々だけで…!フェリデンス様にはもっと重要な仕事があるのではないですか?!」


そう聖職者が青い顔をしつつしどろもどろに答えると、フェリデンスは白い衣に

目立つ、首から掛けた十字架のロザリオへそっと手を置いた。


「命を救うことより重要な仕事はありません。人だけでなく、生きとし生けるものを助けることが何よりも優先。その前に、私という立場は関係ありません。」


夜空を思わせる青と、陽にあたった小麦を思わせる金。

フェリデンスのオッドアイが、するどく辺りを見据えた。


「フェリデンス様はこの事態を重く見ておいでです」

「そして攫われた修道士が重罪を犯すほどの人物であれば、それもまた規制を見直さなければなりません」

「変えるには、変える者もその場に立ち会ってこそとのお考え」


周りに居た集団が口々にそう告げる。その言葉に聖職者たちはゆっくりと跪き、

茫然とそれを見ていた衛兵達も慌てて跪いた。


「―――さぁ、若き芽を探しましょう。まずは、馬車の手配をお願いします」






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名前の由来



蓮:花の蓮から。蓮の花言葉には"神聖"などありますが、実は"救って下さい"という

花言葉も。神様へ出会うにピッタリ……?


パテピルス:ラテン語で"パテル(父親)"+"ピウス(優しい)"で優しい父親。

これは登場時にも彼が言っていました。


リュミリス:フランス語でリュミエール(光)+ラテン語でヒラリス(陽気な)。

つまり、“陽気な光”。


ルーク:前作の悪役(笑)からとったもの。

悪役にはあまり丁寧な名前をつけない(※情が湧きそうだから)


フェリデンス:ラテン語で“フェリチュタス(幸せ)”+

スーベラアイデンスファチェス(笑顔)。長い。

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