11話目 魔力切れ
「レンっ、レン……!」
かぼそく、泣き叫ぶような声が聞こえる。
「う…」
目を覚ませば、冷たい感触があった。―――床だ。
「(一体いつの間に…)」
起き上がりそう考え込む。脳裏に浮かぶのは、意識が途切れる直前の記憶。
「(そうだ、確か……)」
「レン!大丈夫!?」
未だ魔法がかかり、いつ首を絞められてもおかしくないラフノアが声をかける。
彼の目からはとめどなくポロポロと涙が出ていた。
「…うん、大丈夫だよ、心配しないで」
そのまま起き上がろうとするも、あまり力が入らない。
きっとこれが“魔力切れ”なのだろうと、ぼんやり思った。
ルークの言う[魔法の技術を上げる]とは、魔力が消えるまでただひたすら
魔法を放つというモノで。
『さぁさぁさぁ、休んでいる暇はないよ!もっと…もっとだ!!!!』
ルークは所持していた魔法書(というわらいい)に書かれた魔法を片っ端から
蓮へ強要していた。少しでも休もうとすれば、
『うっ…!いたっくるし……!』
軽く、徐々に、ラフノアの首を絞めていく。休息の暇はない。休まなければ魔力は
回復せず、徐々に魔力が消えていった。…確か、大きい炎を出したところで意識が
途切れている。
「魔法が出ない…ゲオッゲホゲホ!!!」
口から血が出る。以前、リュミリスに聞いたことがあった。
『もう少ししたらさ、一緒に魔法の修行でもしたいよな!』
『魔法の修行?』
『だってお前治療魔法以外使ったことないだろ?ま、オレは元お貴族様だからその点たくさん使えちゃうんだけどね!…あ、でも魔法使うならお前気を付けとけよ、魔力切れ』
『魔力切れ?』
『そ、魔法を使いすぎて自分の中の魔力を切らすと命に関わるんだぞ。魔力はオレ達人間の体の一部なんだ。血液とか…それぐらい必要不可欠なんだぞ。…レン、血液がなくなるとどうなると思う?』
『えっと…出血多量で死ぬ?』
『うん、だから魔力も切れちゃうと命に関わるんだ。魔力量が多い人なら半分減っただけで、いつもの量と違うって体が気付くから事前に気絶とか、体の意識をブラックアウトするんだ。でも少ない人は減っても、元から少ないから気付かない。レンの魔力量がどのくらいかオレには分からないけど、』
「気を付けろよ…か」
意識がなくなった、ということは魔力は切れていない…?でも、魔法が出ない。
相当危険な状態だったのだろうか。
「ラフノア、苦しくない?」
「う、うん…魔法でやらされてる状態だから、力を抜いてもこの状態なんだ。だから苦しくないんだぞ」
その言葉を聞いて、良かったと緊張をゆるめる。…いやホントはよくないんだけど。
明日も明後日も…きっと、この状態は続くだろう。
★★★
―――レンが、攫われた。
それが教会に広まったのは、レンが攫われた日の夜。
「本当に、見たのですね?」
「間違いない、確かに見たんだ!オレが嘘ついてるって言いたいのかよ!?」
首都から来た兵達は何度も何度も同じ確認をする。
そのことにリュミリスはイライラしていた。
「リュミリス、落ち着きなさい」
「落ち着いていられるか!オレの親友が攫われたんだぞ!!!!!!」
パテピルスがため息をつきながらどうにかなだめようとするものの、
リュミリスの興奮はおさまらない。
あの日、どうにかして女性の修道士から逃れた後。レンの元へ行こうと、
レンが居る場所へ向かった。でもそこにレンは居なくて。
『レンー!おーい!!!』
どこに行ったのだろうと大声を出しながらあたりを見回した時。
『レン…?』
草むらの影の向こう。確かに、レンが男2人に連れ去られるのを見たのだ。
『おい、待て!待てよ!レン!レン、をっ…ゴホ、返せ!おい!!!』
我に返ったその時にはすでに、レンを乗せた馬車を追いかけていた。
必死に叫びながら、腕を振って、足を動かして。
『…っ?わ、あ、うわっ!!!』
人目も気にせず追いかけていたら、ふいにつっかえて地面に転んだ。
『ま、待て!レンを、返せ……レン…レン!!!!』
どうにかして立ち上がった時、馬車はとっくの、向こうに消えていた。
『リュミリス、どうし…っ?リュミリス!?一体どうしたというのです!!!』
向こうに消えてしまった、レンが攫われたという絶望感を抱いたまま教会に戻り、
そのままパテピルスのいる部屋の扉を無我夢中に叩いた。
そして出て来たパテピルスは驚いた顔をしていた。
その時だ、自分が泣いていたことに気付いたのは。
馬車を追いかけるのに必死で、絶望感を抱くのに必死で、扉を叩くのに必死で。
自身が泣いていたことに、気付かなかったのだ。
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