10話目 どっちをとる

「…と、とうちょうが、なんだって言うんだよ」



警戒をし、蓮の服を掴みながらラフノアは言った。

するとルークは再び細く目を開けた。先程の濁った紫目が見える。


「わからない?あらゆる檻に仕掛けてある…ということは、キミ達の檻にも仕掛けてある……いい話が聞けたよ」


お話?と?マークを浮かべるラフノアの横で、

蓮は一つ心当たりのあるものがあった。


「待って下さい。…ラフノアで何をする気ですか」

「おっと、察しがよろしい。」


ラフノアを庇うようにラフノアの前へ(縛られているので)両手を出す。

ルークは再びニコッと笑った後、右の手のひらを思いっきり開いた。


瞬間、赤色の炎があたりを照らす。ルークの手のひらから少し

浮かび上がって発される炎―――魔法だ。


「この世には魔法がある。魔力が多いほど、想像力が強いほど、より強力な魔法が使える。」


手のひらを閉じると、魔法で出来た炎はあたりに舞って消えた。


「オレはが得意でね。こうやって上物が入るとより高く売るために手塩をかける。そのとき、こうやって魔法を使うんだよ」


ラフノアに近付き手をギュッと握りしめる。

その瞬間、ラフノアの身体を…手首を、怪しい紫色の光が覆った。


「!?」

「オレが最も得意とするのは"精神魔法"。他者の身体も心も操るモノ。この子はかなりの魔力を持っているんだってね。ただ魔法が使えない…まぁ、その代わり檻をへこませるなんて所業をやっているわけだから、力加減は出来ずとも振り回せば力を発揮できる…これだけで充分値打ちは高い。」


先程のゼータ・パーヴォーニスの複製魔法具で聞いた話を持ち出し、ルークは軽く

拍手をする。混乱するラフノアを前に、視線を蓮へ移した。


「さて、次はキミだ。ヴィトゥナークの首都から少し離れた教会に居たんだってね。教会に居るということは治癒魔法が使えるということだ。…実際、使ってたしね?」


ニコッと笑うルークに、眉をひそめる。


「キミにはもっと魔法が使えるようになってもらおう。青く光る髪を持つキミなら、ある程度の魔法が使える。その髪に高度な魔法使い…戦力としても使えるし、見世物としても使える。これは良い値打ちがつきそうだ」


そう言いながらルークはラフノアの縄をほどく。そして…両手を、首を絞める

ようなポーズで首へと移動させた。


「ラフノア!」

「え、あ……」


突然のことにパニックへなりかけているラフノアが自身の手を外そうと左右に

暴れる。パニックへなりかけている故か無意識に魔力が漏れ、動く度壁が

大きな音をたてヘコんでいった。


「魔法が使えない、というのがとてつもなく惜しいけど、これだけでも十分。…さて、ここでキミに選択肢だ」


ルークが蓮へ二本指を出しだす。


「彼を死なせないように魔法の技術を上げるか、彼を見捨てて売られるのを待つか」

「……!?」

「もちろん、キミがたった…三日間だったかな、三日間だけ付き合った子供という感想しかないならば情もわかないだろうし、後者を選んでもらっても構わないよ」

「……良いんですか、彼は…上物だって」


もちろん売らせたくないし、出来ることなら彼の家族の元へ帰したい。自分に何が

できるかわからないけど、ルーク達にとっては上物…売り物なのだ。


「そんな、この後だって。待っていればいくらでもね。…ただ、キミのその髪は特殊だ。はるか東の、閉ざされた国の民族。キミが何故ここにいるかはわからないけどね、とても稀少なものなんだよ」


蓮はラフノアに視線を移す。ラフノアは怯えた目でこちらを見ていた。

…選択は、決まっている。それに魔法を使えるようになれば、

ラフノアと一緒に逃げられるかもしれない。



従兄や妹と引き離され、暴力を振るわれ怯えていた小さな少年。

傷を治したら喜んでくれた。手を握り返してくれた。


ほんの一瞬だけの出来事だけど、

元の世界が全て灰色だった自分にとってどれだけ嬉しかっただろう。


そして今、そんな少年が首を絞められようとしている。

まだ出会って間もないけど。ずっと一緒にいた友人のような存在でもないけど。


見ず知らずで出会ったばかりの少年のために、何ができる?

見ず知らずで出会ったばかりの少年のために、命を賭けてもいい?


出会いがなんだ、その時間がなんだ。短くても、一緒に居たのは事実。

家に帰りたがってる、何の罪もない少年。


世界を諦め逃げて来た自分の命で、そんな彼を助けられるのなら。

彼を見捨てることは出来ない!


「…僕はラフノアを守ります。そのためになら、魔法の技術を上げます」


その答えに、ルークの唇はゆっくりと満月を描いた。魔法の技術を上げるための

方法が、命をすり減らすモノだと、自分は知らなかった

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