9話目 ルーク
「おい、出ろ」
檻に人が来たのは、それから三日後のことだった。…いや、食事を届けはされて
いたから、“自分達に声をかけた”のが、三日後のことと言えば良いだろうか。
「さっさと歩け!」
「レン…」
三日前の二人組とは違う男で、今回は一人だった。急かすように押されて、思わず
前のめる。そして両手を縄で縛られた。檻の中で、ラフノアは心配そうに見つめる。
「お前もだ」
「え…」
「早く来い!」
すると男はラフノアも呼び寄せる。驚くラフノアの腕を強引に掴み、男は外へと
引っ張り出す。そしてギュッと、きつく縄で両手を縛った。小さな体に、大人の力。
ラフノアが苦痛に顔を歪める。
思わずバッと男からラフノアを引き剝がし、ラフノアの腕を優しく持つ。
それに対し男は鼻で笑うと、廊下を歩き始めた。
「…っ」
「大丈夫だよ」
痛そうにするラフノアへ、小声でそう諭す。そして優しく持った腕に右手を
かざした。優しい光が漏れ、やがてラフノアの顔からも苦痛が消える。
「(小さい子に、なんてことを…)」
自分をいきなり攫い、子供に暴力を振るい、しかも下の階での惨状。
到底人間に対する扱いでないし、人間だと思っていないから出来るのだろう。
★★★
そのまま男に大人しく着いて行く。周りの檻は相変わらず裕福そうな年寄りや、
まだ若い女の人が閉じ込められていて。それに一瞥することなく、男は
ただただ廊下を進んで行く。
やがて廊下の端に着いた時、壁にある茶色い重厚な扉を両手で開けた。
その先には階段。しかし、三日目に見た階段とはまた違った。
木製で、少し高そうな階段。
それを登って行けば、再び重厚そうな、今度は黒い扉があった。
男は両手で、先程とはうってかわり慎重に開ける。
「やぁ、いらっしゃい」
その中には書斎のような部屋、そして書類の並ぶ中央の机。そこに肘を乗せ
黒い椅子に座る男性がそこに居た。薄い金色の髪が、黒によく目立つ。
「キミたちだね、最近部下が仕入れたという"上物"は」
ニコニコと笑いながら告げる男性。しかしその笑顔には胡散臭さがにじみ出ていた。
それをラフノアも察したのか、警戒するように蓮へくっつく。
「ふむふむ、青く光る髪に金色の目…確かに上物だ」
それに気付いているのかいないのか、男性は言葉を続ける。
「キミ、これとこれはどこで仕入れたのかな?」
「はっ…ヴィトゥナークの首都から少し離れた教会と、エルングランドの商店街です」
自分達を連れて来た男は答える。ただ先程ラフノアを乱暴に掴んだその男は緊張して
いるのか、冷や汗が出ていた。
「素晴らしい。やっぱりこの世界にはまだ見ぬ
しかし男の説明に気をよくしたのか、男性は立ち上がった。
「ルーク様、これらはいかように…?」
男がおそるおそるたずねれば、ルークと呼ばれた男性が
ニコニコと笑ったまま告げた。
「この前部下の一人が提案をしてきてね。『このまま売ってしまうのももったいない。何かを付けるのはどうか』と。…高く売れるのなら確かに手塩をかけてもっとその価値をあげてもいいと思うんだ。―――さぁキミたち、オレに着いて来て」
ニッコリとした顔から、黒く濁った紫色の目がかいまみえる。ルークは意気揚々と
したまま部屋を出、男も自分とラフノアに出るよう促してからルークへ
着いて行った。
★★★
ルークが連れて来たのは、鉄で出来た灰色の扉の前。重厚そうな廊下だったが、
歩いて行くにつれ段々と周りがモノクロになっていった。心なしか冷える気がする。
「さぁ入って入って」
それを気にすることなくルークは扉を開けた。
「あ、キミはここでストップ。見張りをお願い」
蓮とラフノアを入れた後、ルークは男へ見張りをするように告げる。男はそれに
一礼した後、扉の前で見張りの体制についた。それをニコニコと見た後、
ルークは扉を閉める。
「さてキミたち。"魔法"を使ったことはあるかな?」
突然の問いに、蓮はどう答えようか戸惑う。この部屋は石壁で出来ており、
所々武器のようなものが壁にかかっていた。しかしルークは笑ったまま、そばにある
木製の小さな机に置かれた黒い物をつかみ取った。
「これは星体の一つ、"ゼータ・パーヴォーニス"を元にして作られた魔法具でね。」
その黒い物は丸く小さい物で、親指の爪ぐらいだった。
「ゼータ・パーヴォーニスは"声を聞き取る"星体だ。それを元にして作ったこれを、私は各檻に置いている。」
つまり盗聴が出来るんだよとルークのつり上がった唇が、さらにつり上がった。
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