6話目 キョトウ
「レン助けてあだだだだだ!!!!!!」
それから一年後のこと。すっかり馴染んだこの異世界で、もはや"親友"とも言える
リュミリスは女性の修道士に耳を引っ張られ連れていかれる所だった。
「何回目ですか貴方は!行き交い行き交う女性にナンパして!行動を抑えなさい!」
「だってキレイな女性を見つけたらナンパしなきゃ損でイタタタタタタタタ!!!!!」
「………えぇ」
リュミリスは優しい。色々なことを教えてくれる。自分より背も年齢も上だけど、
星体や冒険のことになると子供っぽくなって、面白い人だと思う。
ただ彼には一つ難癖があった。それはナンパの常習犯ということだ。
彼曰く"キレイな女性を見つけたらナンパしなきゃ損"らしく、
こうして冒険者の女性にナンパしているところを他の修道士に見つかっては
自分に助けを求めつつ引きずられていくのである。
「(すっかり日常になったなぁ…)」
最初は驚いていたけれど、はたから見ればなんとも奇妙な光景が、
すでに日常の一部になって居た。
一年…楽しかった。クソ親父の声に仕草にひとたびひとたび怯えることもない生活。
あの時あの少女…神様の誘いにのったのは良かったかもしれない。
「(未だに何も教えてくれなかったのは根に持ってるけど…)」
リュミリスは18、自分は16。こうしている間にも自分の中の世界はめまぐるしく
変わっていく。例えばパテピルスさんが誕生日を祝ってもらった時の
嬉しそうな顔とか。
元居た世界で、自分が見ている景色はどれも色がなかった。色が芽生えたのは
おそらくあの神様に出会ってからだろう。
苦しい、辛い、哀しい、悲しい―――嬉しい、嬉しい、嬉しい。
久方ぶりに味わう感情に、思わず涙ぐんでしまったほどだ。
「…ふふっ」
思い出して軽く笑ってしまったところで、
自分が今日掃除すべき場所に向かおうとした。
「んん!?」
ふと後ろから口を手で抑え込まれたのだ。突然のことにその手をはがそうと必死に
もがくがビクともしない。そして近くの草むらへ隠れるように連れて行かれた。
「へへ…まさかこんな"上物"が手に入るとはな」
「アニキ、こいつぁ高く売れますぜ!!!」
目だけを上にやれば、黒い冒険用の服を着た男二人。そういえば、
リュミリスから聞いたことがある。
『そういえば世界にはさ、冒険者のふりして人をさらう悪い奴もいるみたいだよ』
まさか…そう思った瞬間、冷や汗がつたった。ふと、草むらの中こもれびが少しだけ
漏れる場所へと引きずられ、髪をつかまれた。
しばらく髪を掴んでは上下に動かし、二人組の男は何かを確認するかのように
じっと髪を見た後、ニヤニヤ笑うのが分かった。
「やっぱりしばらく下見していただけあるな、見ろよ、聞いたとおりだ」
「ですねアニキ!この"青く光る"髪…キョトウの国の奴に違いねぇ」
「(……キョトウ?)」
キョトウ、キョトウとはなんだ?分からない。分かるはずもない。この世界では
地図が高級品。リュミリスですら遠目でしか見たことがない代物だ。
だから自分が分かるのはこの国ヴィトゥナーク、
そしてリュミリスの故郷(そういえば結局国名聞いてないな)、
一年前、星体についてリュミリスから話を聞いた時に出た、
ピスケスについての文献があるエルングランドのみ。
キョトウという国はいったいどうなんだろう…と考えたいところだが、
今は当然それどころでなく。
「(青く光るってなんだ?)」
自分はただの黒髪だ。でも、この国にいないことは事実。現にパテピルスさんが
「見たことのない髪色だ」と驚いており、冒険者にも珍しそうに見られることが
多々ある。…もしかしたら、
「おい、さっさとズラかるぞ。馬車は?」
「アニキこっちです」
「……!(力が強くて取れない……!)」
必死に口に置かれた手をとろうと手の指をはがしにかかるがビクともしない。
それどころか、段々と教会から距離が離れている。
「(助けて!誰か!)」
そう叫ぶも、声に出さなければ伝わらない。涙目になるのがわかる。
ふと草むらのしげみから、自分を探すリュミリスの姿が見えた。
「(リュミリス!)」
手をとろうとしていた両手の左手で必死に手を伸ばす。
「―――――――――」
馬車に連れ込まれる寸前、リュミリスと目が合った気がした。
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この作品は"異世界転生"でなく"転移"になります。紛らわしくてすみません。
元いた世界(地球)上では死んだことになるので地球の人からみたら転生かも
しれませんが、実際穴をくぐって異世界に行っただけなので転移になります。
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