4話目 夢について

「冒険ってわくわくするんだよ!!!」



キラキラとした目でそうリュミリスは訴えた。


「もしかしたら今死んじゃうかもしれない!っていうスリルも大事だけどさ、やっぱ金銀財宝、そして一番は星体!!!!欲をいうなればオレも黄道欲しいなぁ……」

「リュミリスは星体を見たことある?」


そう問えばもちろん!と大声で返って来た。興奮しているのだろうが、

一応夜であることを忘れないでほしい。


「ここって教会だろ?たまに信心深い冒険者も居てさ。そういうヤツの中に星体を持ってるやつがいるんだ。アレを見るとますます冒険に出たくなって…そうだ、質問もっかいするけどお前、夢ある?」

「夢…」


あるといえばある。あのクソ親父から自分を解き放ってくれるものがずっと

欲しくて、恋焦がれて、手に入らなかったもの。


「自由…自由がほしい……って、記憶を失う前に思ってた気がする」


夢を告げる。もちろん記憶喪失という設定を付け足すのは忘れない。


「そっか、自由かぁ~…じゃあさ、お前も一緒に冒険者やろうよ」

「えっ?」

「冒険者は自由だぞー!好きなとこで寝て好きなもの食って好きなダンジョンに挑む!いいよな~~」


そこでリミュリスはあっ!と声をあげた。


「そうそう冒険では精霊と契約を結ぶことが出来るんだよ!…精霊ってわかる?」

「えっと…魔法の力を持ってて、人と契約をする……?」

「それ!いや~いいよね、オレ冒険に出たら絶対美人で素敵な女性の精霊と契約するんだ~」


うふふふふとニマニマしながら語るリュミリス。修道士がそれで良いのかと

言いたいが、あいにく自分もリュミリスも望んで修道士になったわけではないから

それはそれで良いのか悪いのか。


「ねね、そんでさ、オレと一緒に冒険者やんない?」

「リュミリスと?」

「そ!夢こんなに語ってるけどオレ、結構臆病者なんだよね。一人とか心細すぎるしー!」


一人だと億劫だけど一緒なら…!とドキドキしながら蓮を見る。


「(冒険…ダンジョン…精霊……)」


蓮は考え込む。冒険者になれば死亡率があがるというリスクを伴わざるを得えない。

しかし、自由になれる。クソ親父の傍に居た時は出来なかったことを、たくさん。

スリルのある戦い、精霊と契約した時の喜び、何より…


「(12個しかない伝説の星体なんて、ワクワクするに決まってるじゃないか)」


世界でたった一人の少女しか持っていない伝説の魔法具。

…うん、ロマンを追い求めるも、悪くはないかもしれない。


「受けた」

「マジで!?やったーーーーー!!!!」


リュミリスが喜びのあまり大声で叫び、見回りをしていた他の修道士にドア越しで

大きく「ゴホン!!」と咳払いされたのは言うまでもない。






★★★






教会には、今日も今日とて大勢の冒険者がやって来る。

大きくケガの痕を残す人や、まだ始めたばかりといった冒険者など、

十人十色の冒険者が教会にやって来た。


「お前裁縫出来るのねぇ」


同僚に頼まれた服のほつれを直していると、リュミリスがふと声をかけた。


「そういうリュミリスも」

「オレは料理も裁縫も出来る天才だからね!」


ふふん、とドヤるリュミリス。リュミリスの出身地である国では、

おとぎ話に出てくるような「靴の履き方とかわかんない!」という貴族が


多く居たらしい。それに憤慨した彼の母親は、彼が一人でいざというとき何でも

出来るようにと色々仕込んだそうだ。


「そういえば蓮はどう?記憶戻りそう?」


ふいにそう問いかけられビクッとする。戻るも何も最初から(地球の記憶は)あるし、

ないのはこの世界の記憶…もとい知識だけで。


「ちょ、ちょーっと思い出してきたような…?」

「マジで?何?」

「す、好きな食べ物…?僕、お寿司が好きで……」


母親がまだ生きていた頃、「内緒よ」と連れて行ってくれた回転寿司。大分昔のこと

だからもう味は思い出せないけど、とても美味しかったのは憶えている。


「オスシ?聞いたことないね。どんなの?」

「えっと、魚の切り身をご飯に乗せたもので…」

「うっわなにそれ美味しそうじゃん……」


この世界では地図が高級品らしく、自分が今東西南北どこに居るのか、

この国がどこに座すのかもわからない。


「冒険者になったら再現してよレン~」

「えっ!そ、それはちょっと…」


食べたことはあっても作ったことはない。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【追記】

教会に修道士は本来おらず、修道士は修道院という場所で過ごします。

ただここの教会もといメシア教は教会と修道院が混ざり、

ちょうどよく混ざり合っている設定です。

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