1話目 教えてほしかった

「…もし、もし、起きてください」




ふと声をかけられて意識が覚醒する。目をうっすらと開ければすぐに眩しい光が

差し込み、無意識に眉をひそめた。


「ああ良かった。…おはようございます、と言った方がよろしいでしょうか」

「……えっと…」


自分が起きた反応に安堵のため息をこぼしたのは所々白銀色が目立つ真っ白な服に

身を包んだ白髪の老人だ。


「体は大丈夫ですか?これ何本に見えます?」

「大丈夫です…あー……二本」

「うん、応答にも視覚にも問題なしのようですね」

「あの、僕…」


確か神様とか名乗る少女に自殺しようとしていたところを

「異世界に来ないか」って誘われて…そんで手取って穴潜って……


「(そうだ、そこで意識を失ったんだ。)」


辺りを見回す。あの少女はいないが、目に映るのはどこも白、白、白。

白だらけの風景と聞いて浮かぶのはアレしかなかった。


「…ここって、病院……ですか?」


クソ親父に殴られて何度も死の淵をさまよった。脳筋のくせに言い逃れは上手いから

結局児童相談所も何も保護はしてくれなかったっけ。

ただ、そういうこともあり、病院には何度もお世話になった。


「病院?…そうといえばそうですが、違うともいえます」

「えっ」

「正確に言えば教会、そしてここは教会に位置する病院ですよ」

「教会…?」


首を傾げる僕に、その老人は少しだけ目を丸くした。


「貴方は、ここの国民じゃないのですか?そういえば髪の色も目の色も見たことがないし……」

「あの、国民って、ここはどこの国なんですか?」

「ふーむ…貴方は教会の前で倒れていたんですけどね。もしかしたら旅人かもと思ったのですが国の名前も分からない……頭が痛かったりしますか?」

「大丈夫です」

「でしょうね」


治癒魔法をかけましたからねと笑う老人。何故聞いたし。


「て、魔法?」

「魔法。分かりませんか?この世界の記憶あります?」


どうやら記憶喪失を疑われているらしい。そりゃそうだ。自分は神様を名乗る少女に

誘われて、どうせ死ぬしと一発オーケーでこの世界に来たのだから。

でもせめて知識ぐらいは教えて欲しかった。。


「…分かりません。憶えてなくて……」

「そうですか…そうなると倒れた原因もわかりませんね。」


かしかしと老人は頭をかいた後、ニッと笑った。


「貴方が何故あそこにいたか分からないが、何も憶えていないなら教えてあげましょう。…ああ、私はパテピルス。この国の言語で“優しい父親”という意味で、子供が居ないのに我ながら恥ずかしい名前を親から貰ったんのですが……貴方は?」

「あ、僕…僕は蓮、蓮と言います」

「レン?不思議な名前ですね。まぁここの国の人ではなさそうですし…どこからきたかは憶えてますか?」

「憶えて…ないです」

「ふむ…まぁそこらへんはあとで考えるとして、教えてあげましょう。」


そこからは老人…パテピルスに世界のことを教えてもらった。


まずこの国はヴィトゥナークという名前ということ。

世界には200数多の国があるということ。

ヴィトゥナークは一人の賢者が収めている国で、

この世界で一番多い信者数を誇るメシア教の国だということ。

そしてここはヴィトゥナークの首都から少し離れた街だということ。


「で、先程言った魔法というものがこの世には存在します。それを使うには魔力が必要で、誰もが持っているモノです。」

「持っていない人は…」


そう聞くと、この世界じゃない自分は持っていない気がして呟いた。


「いません。人は確かに手や中身を一部失って生まれてくるケースもありますが、魔力は心臓と同じ。必ずあるモノとなります。そしてその魔法を使いながら生きる人々を冒険者と呼びますが…星体せいたい、というのに聞き覚えはありませんか?」

「ないです…」


少し申し訳なく思うが、教えてくれなかったあの神様が悪いのだ。自分に魔力が

あるかもわからないし。しかし老人は気にするでもなく、丁寧に教えてくれる。


「星体とは高精度の魔法が込められた…いわゆる魔法具です。その数はこの世界の国の数を超しますが、中でも12の星体は世界のルールを変える程の魔法が込められています。」

「世界のルールを?」

「はい。しかしこれは伝説として伝わっているのみで、世間では信憑性が高くとも全容が知りえませんでした。」


―――ほんの二年前までは。


「数多の冒険者。その一人が星体の一つを手にしたのです。」

「どうやって星体とわかったのですか?」

「その伝説が記された幾つもの石碑・文献にはそれぞれ12個の星体の力や姿が記されています。しかし文字のみ。実際に見たことがある者は誰一人いなかったからこそ想像が難しく、全容が知りえなかったのです。」

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