【完結】僕の息子がいつまでもミミズのままだと思うか?

悠/陽波ゆうい

第1話 

『たくまのミミズみたぁい!』


 小学生の頃だった。隣の家に住む幼馴染と一緒にお風呂に入っていた時、そう言われた。


 一瞬、風呂場にミミズがいるのかと思ったが、すぐに違うと察した。


 何故なら彼女の視線が、僕の下半身……息子の部分を見ていたのだから。


『それに……ふふっ。なんだが可愛い〜』


 目を離すことなく、さらにそう言った。


 今思い返せば、小さい頃だったからこその無垢な発言。そう、理解するには早すぎた年齢だったから、ミミズだの、可愛いだの、言っていたのだ。


 だが、しかし。 ……男の象徴をミミズみたい、しかも可愛いとあからさまに小さいと言っているような発言は……一生忘れられないもの。


 僕は自分の息子が幼馴染にミミズ扱いされたことを高校生になってからも忘れられないでいた。




 高校入ってから始めての冬。期末テストも終わり、もうすぐ冬休みもくるという、浮ついた時期のある日。

 

「な、なあ天崎」

「ん?」


 放課後。帰る支度をしていた僕の元に普段関わらない、陽キャグループの1人、坂本が話しかけてきた。


「お前、百瀬ちゃんと幼馴染らしいじゃん……」

「ああ、うん。そうだよ」


 別に言わないで、と止められている訳でもないので頷く。


「百瀬ちゃん……遊びに誘えない?」

「僕が?」

「あ、ああ。百瀬ちゃん、天崎が遊びにいくなら行くって言ってるみたいで……」


 坂本は困った様子で言った。


 その百瀬本人はすでに教室はいない。友達とさっさと帰ってのだろう。


 百瀬は何かと僕を引き合いに出すことが多い。こういう遊びの誘いは特にだ。どうやら断るために僕を利用しているフシがある。

 教室で目立たない僕を、断るために利用しても意味ないと思うけど。


「悪いけど、僕は遊びには誘えないよ。幼馴染だからといっても、それとこれは別ってやつ。第一、僕みたいな地味なやつがあの百瀬さんを遊びに誘えないよ。だって彼女は人気者なんだから」


 もっともらしい言葉を並べてみる。

 僕の平凡な容姿を見れば、自然と説得力はつくもので、


「そうか……そうだよな。悪いな、いきなり」

「いえいえ」


 ほら。僕が幼馴染として釣り合ってないことまで認められた気がした。まあ実際そうなんだけどさ。


 坂本は落ち込むように肩を下げて、結果を待つように教室に残っていた陽キャグループに戻っていった。


「ダメだったわ……」

「まじかぁ〜。一回でもいいから百瀬ちゃんと遊んでみて〜」

「百瀬ちゃん意外とガード固いよなぁ」


 綾坂百瀬。

 それが幼馴染の名前。 

 肩ぐらいまで伸ばした茶髪。目は大きく、ぷるぷるの唇。

 そして何より、冬で厚手の制服を着ているのにも関わらず、そのたわわさを全くもって隠しきれていない巨乳。

 

 幼馴染は今や、学校中の誰もが知る、美少女になっていた。




「おかえりー、拓真。あっ、今日泊めて〜」


 自分の部屋に帰ると、当たり前のように僕のベッドにいる百瀬の姿が。

 百瀬が友達と遊びに行くのは週に3回ぐらい。毎日他の人と遊ぶのは疲れてるらしい。

 そのため、残りの日付は用事があると行って僕の家にいることが多い。


 10年経っても僕らは変わらず、幼馴染をしていた。


 で……また泊まらせてとか言ったっけ?


「さっさと家に帰って」


 百瀬が泊まると、僕のベッドを貸さないといけない(百瀬が僕のベッドから離れない)ので、敷布団で寝ることになる。こんな寒い冬の時期にカーペットを敷いているとはいえ、床で寝るのは寒いし、固いし、よく眠れない。


「えー、ケチっ! でもいいもんっ。おばさんにはちゃんと許可取ってあるから」

「……チッ」

「うわっ、マジの舌打ちじゃん!!」


 うちの母親は百瀬に甘いからなぁ。何でもかんでも、息子の俺よりも許しちゃう気が……。


「てか、暖房ぐらい付けといてよ」

「私はそんなに寒くないもーん」

「僕の布団に入っているからでしょ」


 毛布にくるまっている百瀬を尻目に、暖房を付ける。今付けたので温かいなるのはもうすこし先か……。


「ああ、寒むっ……温かい飲み物でも飲も」

「あっ、私も! 私も欲しいです〜」

「寒くないんじゃなかったの」

「温かい飲み物は別なので。しかも拓真がいれてくれるんでしょ。飲みたいなぁ〜」

「はぁ、じゃあすぐできるホットミルクでいいね」

「お願いしまーす」


 僕は一回リビングへ降りた。

 数分後、2人分のホットミルクを持って部屋へ戻ってきた。


「はい。飲む時はさすがに起き上がってね」

「はぁ〜い、ありがとうー」


 ホットミルクを受け取った百瀬はベッドから降り、当然のように僕の隣に座った。

 それどころか肩にもたれかかってきた。

 まあいつものことなのでスルーして話を切り出す。


「また断るために僕を利用したでしょ。僕のところに坂本が来たぞ」

「うわっ、あの人、拓真のところまで行ったんだ……。諦めが悪いなぁ。でも、拓真が遊びに行くなら私も行くってのは本当だよっ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ……遊ぶんだったら知ってる人がいた方がいいじゃん……」

「? 知ってる人って、クラスメイトって全員知り合いじゃん」


 何を言ってるんだ?


「あ、え、そうだけどさ……と、とにかく! 私が遊びたくないなら、遊ばなくてじゃーん!」

「まあそうだね」


 遊びたくないなら断るのは当然だ。

 ん? 結局僕を断るために利用していたんじゃないか。また話を戻すのも面倒だし、もういっか。


「ふぅ、やっと身体が温まった……」

「これから何する?」

「えーと……だらだら?」


 思いつかなかったのでそう言う。


 僕たちにムードなんてものはない。今までも2人っきりやいい雰囲気になることはあったが……特になにも起きなかった。

 僕たちは所詮、気の合う幼馴染以内なのだ。


「ふわぁ。じゃあ僕寝るね」

「えっ、なんで!?」

「だらだらするんだから、僕は寝てもいいじゃん。やることないんだし」


 ホットミルクをもう一口飲む。身体がぽかぽかで横になればすぐに眠りにつけそうだ。


「せ、せっかく2人っきりなんだから、もっと他のことしようよっ」

「他のこと? 何かやりたいことでもあるのか?」


 僕は思いつかないけど、百瀬は何かやりたいことがあるのだろう。


 次の言葉を待っている間に、残りのホットミルクを一気に口に含み……。


「じゃあ……エッチでもする?」

「ぶっ!!!」

「わっ!? 汚なっ……あっ」

「熱っっっ〜〜!??」


 僕の吹き出したホットミルクが百瀬のシャツにかかって。

 それに驚いた百瀬は手元が緩み、僕のズボン部分にホットミルクを溢した。

 結果、お互いの部分的なところがホットミルクで濡れた状態に。

 

「拓真大丈夫っ!」

「あ、うん。かかったのは少しだけだから……」


 スクールバッグに入っていたタオルでポンポンと、軽く叩くように拭く。


「良かった。火傷とかしなくて……」

「ああ……てか、百瀬が変なことをいうからでしょ」


『じゃあ……エッチでもする?』


 確かにそう言ったのが聞こえた。


 今までにも百瀬は変なことを言うことはあったが、今回ばかりは驚かずにはいられなかった。


「全く……そんな冗談、僕だけにしなよ。他の男に言ったら本気にするから」

「………本気にしてくれてもいいのに」

「?」


 百瀬が何か言ったよな気がしたが、ただの独り言だろう。


「洗濯はするとして……ああ、また下に行くのめんどくさい……」


 せっかく部屋も暖かくなってきたというのに、寒い廊下を通って下にいくなんて……。


「洗濯に行くなら、ついでにお風呂にも入らない?」

「え、なんで?」

「寒いからっ。せっかくだしお湯に浸かろうよっ。その方が温かくなるし、夜はもうお風呂に入らなくてもいいんじゃん!」


 確かに今入っちゃえば、夜はわざわざ寒い廊下を通ってお風呂に入らなくてもいい……。


「けど、お湯を溜めるの、僕にやらせるんでしょ」

「お願い♪」

「はぁ……」


 お風呂洗うのとかめんどくさい……。

 けど、いつまでもビショビショのズボンのままでいるわけにもいかず……重い腰を上げて風呂場に向かった。





「なんか拓真大きくなったね!」


 全裸でシャワーのお湯の温度を確かめると、風呂場にバスタオルで前を隠して入ってきた、百瀬にそんなことを言われた。

 

「身長もいつの間にか私より高いし、身体つきもっ。へぇー、結構がっしりしてるじゃん」

「顔はダメでもせめて身体くらいは鍛えとこうと思って」

「なにそれっ。私は拓真の顔、普通に好きだけどねー」

「はいはい、ありがとうー。というか、なんで入ってきてるんだよ」

「だって1人ずつなんて待てないよー。寒いし。昔もよく一緒にお風呂に入ってたんだからいいじゃーん」


 はぁ、全く……今更ダメって言っても、聞かないだろう。


「じゃあ僕も一応隠すから、バスタオル取ってきて」

「はぁ〜い」


 百瀬が一旦取りにいっている間に軽く身体を濡らす。うん、ちゃんと温かいなぁ……。


「はい。バスタオル持ってきたよー。本当に拓真の身体つき変わったよねぇ。あとは……あっ」

  

 視線をどんどん下に向けていけば、いつかは見てしまうもので……。下半身部分に差し掛かった時、百瀬の視線が止まった。


「どうした、百瀬」

「あ、え、いや……その……」

「なんだ。僕の息子をみて恥ずかしがっているのか」


 図星なのか、百瀬の顔が一気に赤くなった。


「だ、だだ、だって! 昔はこう、もっと小さくて可愛かったじゃん!」


『たくまのミミズみたぁい!』


 昔、一緒にお風呂入った時も言われたな。


「なのに今は……なんかグロいよ!」 

「グロいとは失礼な。というか」

「?」  

「僕の息子がいつまでもミミズのままだと思うか?」


 僕は仁王立ちして堂々と言ってやる。


「昔、僕の息子をみてミミズみたい、可愛い、って言ったの、根にもっているからな」

「ご、ごめんって! だから目の前でぶらぶらさせないでよ……!」

「なんだ。恥ずかしいのか」

「べ、べつにこれくらい……う、うう〜〜〜」

「何故、手で視線を隠すのだ。ほれほれ」


 恥ずかしがる百瀬の反応が新鮮で、面白くなって僕は左右に腰を振りさらに、ぶらぶらさせる。


「ちょっ、ほんとにやめてってば……っ!」

「なんだ、降参か?」

「こ、降参もなにもないでしょっ。もうっ」


 ついに百瀬は僕から視線を外した。


 ふっふっ、僕の勝ちだな。やはり昔のは無知であるからこその発言……。


 百瀬を見ると、手で顔を隠していた。

 僕は百瀬の顔から……視線を動かしていく。

 

 バスタオルで隠れているものの、隠しきれず分かる、巨乳。バスタオルから出る、ムチッと肉付きの良い太もも……。

 浴室という空間にいるせいなのか、全身が妙に色っぽく見えて……。


 あれ? 百瀬ってこんなに身体つき良かったけ? まあ10年も経てば僕だけではなく、百瀬も色々と成長しているわけで……。


「………」


 よく考えたらこのまま2人で湯船に入るのか?

 ダメじゃない? こんなエロい身体した幼馴染と混浴なんてやばくない?


 やばい。意識しだしたらなんだが……。


 むくむく


「? ねぇ……なんかソレ、さっきより大きくなってきてない?」

「………」

「ね、ねぇ! すごくおおきいんだけど……!」

「………」

「ねぇってば!!」

「………っ」

 

 幼馴染の前で大きくしてしまった事実がなによりも恥ずかしくて……言葉を発するこができない。


 今更目を逸らして……。


「あっ、こ、これ知ってるっ! 興奮した時に大きくなるって……。つまり……」

「………」


 大正解な発言にさらに口籠る。


「拓真って私で興奮するんだ……ふ、ふーん」

「……なんだその、意外みたいな反応は」

「だって拓真ってば、私がだらしなく服をはだけさせたり、ベッドに寝ていても、くっついても、いつも興味なさげじゃん……!!」

「あれ、わざとやってたのか」

「あ、当たり前じゃん! わ、私って意外とガード固いし? あんなゆるゆるなの、拓真の前だからねっ」


 確かに、学校では隙を見せないというか意外とガード固いよな。


「どんなに誘惑しても反応ないから、てっきり私に魅力ないのかと……」

「百瀬は可愛いよ」

「かわ……〜〜〜っ」


 百瀬の顔が真っ赤に染まる。

 あれ? 僕可愛いとか言ってなかったって。


「私、可愛いんだ……」

「可愛いよ。だからモテるじゃん」


 幼馴染の僕が何度、百瀬について聞かれたか……。


「違うっ」

「え?」

「私は拓真に可愛いって言われたいから……可愛いと思って欲しいから……」

「百瀬……」

「好きな人に可愛いって思われたいって、普通じゃん……」

「えっ、好きな人!?」


 シャワーを止めるのを忘れて、聞き返す。


「………」

「えと、百瀬?」


 急に黙り込んだ。もしかして聞き間違え……?


「……今日泊まっていい?」

「なんで今それを言った!?」


 ただの幼馴染と意識した後じゃ、言葉の重みというか、色っぽさというか……今まで当たり前のようにやってきたことが違って見えるんだよ!!


「べ、別に言ったっていいじゃん……。いつものことこだし?」

「いつものことだけど……」


 頭では冷静だが、身体ら勘違いしてしまいそうだ。


「あと今日は久しぶりにベッドで一緒に……寝よう?」

「っ……」


 ここぞとばかりに積極的だ……。

 僕はあと何回大きくすれば済むだろうか……。


 それとも……。


『じゃあ……エッチでもする?』


 あの言葉が冗談でおさまらないのでは……?


              

                                 おわり




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