クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
152てぇてぇ『十川さなぎってぇ、はじめてのVtuberなんだってぇ』
152てぇてぇ『十川さなぎってぇ、はじめてのVtuberなんだってぇ』
【アカウント名・とおる視点】
「世の中はクソだな」
「それな」
俺が初めて来たライブ会場での呟きに、隣の優斗が同意してくれた。
十川さなぎ全国ツアーの初日のチケットがとれた時はガチで歓喜した。
だからすげー楽しみにしてたのに。
神様分かってくれてるなと思った。
俺は、中3の時、いじめにあった。
結構しんどくて死にたいなって思った事もあった。
だけど、母親が俺より死にそうな顔して心配してくれて学校行かなくていいって言ってくれて普通の人間とは違う形だけどなんとか卒業した。
クソみたいな1年だった。
そんな時に出会ったのがさなぎちゃんでガチ天使で、俺は彼女に救われた。
だから、さなぎちゃんとの出会いとライブが当たったのはその分を神様がチャラにする為かなと思ったけど。
神様、ガチでこれはないだろ。
ライブ会場なんて今まで行ったことないけど、変な空気なのは分かる。
みんな楽しみというより、悲しそうだったり、苛立ってたり、純粋にライブを楽しむって空気じゃなかった。
「前に来たソロライブとは全然空気ちげーわ」
優斗はさなぎちゃんのソロライブに来た事があったからより変な空気だと分かるみたいだ。
同じさなぎちゃん推しだと分かって仲良くなった優斗。
イケメンで学校でもサッカー部のエースな優斗だけど俺みたいなフツメンと付き合ってくれてる。
優斗も中学校でいじめられてた。
優斗は逆にイケメンでスポーツも出来たせいで、先輩からいじめられたらしい。
ほんと世の中はクソだ。
こんないいヤツだっていじめられるんだから。
そして、さなぎちゃんもいじめられてたんだ。
ほんと世の中はクソだ。
俺がさなぎちゃんを初めて見たのは『Vtuber、過去のいじめを激白。それでも、負けない』みたいなタイトルだったと思う。
さなぎちゃんが昔いじめられてて、転校して、Vに救われて、自分もVtuberになろうと思ったって話で、俺はその話に共感してそれから夢中でさなぎちゃんを応援し始めた。
アーカイブで初回の号泣配信も見て、リアタイじゃないのに思わず応援したり、ゲーム大会の大活躍に興奮したり、とにかくさなぎちゃんの頑張りが俺の栄養分だった。
さなぎちゃんのお陰で学校に行こうと思えて、そして、優斗に会えた。
二人で配信について語り合ったりしたし、24時間配信は泊りで見続けた。
そして、今回も一緒にいけるってなってガチで狂喜乱舞した。
なのに。
勇気出して初めてライブ会場に来たのに。
この空気って。
わけわかんねえよ。
俺がどうしていいか分からず、周りを見渡していると、どんと後ろから人にぶつかられる。
「ち!」
俺よりちょっと年上っぽい茶髪の、ぶっちゃけやな感じの人が俺にぶつかったみたいで、俺を睨みつけてきた。パニくった俺は、
「あ、え、あ、あの……」
口ごもってしまい言葉が出てこない。
なんて言えばいい?
俺がぶつかったわけじゃないし、でも、もしかしたら俺がその場でおろおろしてたせいかもしれないし、とか考えてたら向こうが。
「しねよ」
それだけ言って足早に去っていく。
は? なんで、さなぎちゃんのファンがそんな事いえんだよ。
俺はそう思ったけど、言葉には出せない。それに、俺が何かするより先に隣の優斗が。
「おい……!」
キレてそのお姉さんを追おうとするのを必死で止める。くそ、サッカー部力強いな。
「やめろ……優斗……俺はいいから……!」
「でも……アイツ、お前に」
優斗が食い下がるけど、俺はとにかく思い切り全力で首を振って俺の気持ちを伝える。
「さなぎちゃんに迷惑だけは掛けちゃだめだ……!」
それだけは絶対にしたくない。
それだけは即死だ。
ガチで自分を許せんくなる。
こんなライブ会場で揉めてなんかネット記事にでもなったら、さなぎちゃんにとって迷惑にしかならない。それに優斗が叩かれたらガチでへこむ。
優斗は俺の言葉に小さく頷くとぼそりと、
「ごめんな」
それだけ言って俯いたままで落ち込んでた。
最悪の空気の中、俺はライブ開始を待つ。
ノエちゃんの注意のアナウンスがあった後、さなぎちゃんの配信待機画面のBGMが流れ、いよいよライブが始まる。
みんな、さなぎちゃんが心配なせいか、オープニングから声援を送り続ける。
俺は優斗を軽く殴る。
「いて、なに……」
「応援するぞ! 声出そうぜ! もうなんも関係ない! とにかく叫ぼうぜ! さなぎちゃんのために!」
それだけ言って、俺は声を出す。こんなデカい声出したの人生初ってくらい。
「がんばれぇええええええええええええ! さなぎちゃあああああん!!!」
とにかくさなぎちゃんを助けて欲しい。
神様、ガチで俺の事はどうでもいいから、彼女だけは守ってくれよ!
このライブ成功させてくれよ! 神様!
祈るようにぎゅっと両手を握って叫ぶ。優斗も必死なツラで叫んでる。
すると、
『みんなぁあああああああああ!』
さなぎちゃんの声が聞こえた。
さなぎちゃんの生の声が。生の声は当たり前だけど、生きてる声で、すげー綺麗でかわいくて、かっこよかった。
『今日は来てくれてありがとう!』
その声はガチで世の中の下らない炎上とか関係ない感じで楽しそうで、最高で。
『今日も一緒に高く!』
俺と優斗は一瞬目が合うと二人ともウケるくらい笑顔でさなぎちゃんと叫んだ。
「「『とぶぞぉおおおおおおおおおおお!』」」
そっからはもう一瞬だった。
かっこいい曲も、優しい曲も、かわいい曲も、切ない曲も、楽しい曲も最高すぎて一瞬だった。
最後のいじめのことのMCも俺の思いを代弁してくれたんじゃないかってくらいで泣けた。
隣で優斗もガチ泣きしてた。イケメンが超絶ブサイクで笑えた。
『いじめていい理由は絶対にない。絶対に絶対にない。私は、嫌いを言わないようにしてるけど、これだけは本当に本気で言える。いじめてる人なんて大っきらい。だからって、みんなは、わたしを好きでいてくれる人は、わたしのきらいなものをきらいにならないで。貴方がきらいなものをきらいになって。あなたが好きなものを好きになって。だれかが嫌いだから嫌いになってみんなで嫌うのはいじめだから。わたしはみんなにそうなって欲しくない。ねえ、みんな、わたしはみんなが大好きだよ。上を目指す無謀な夢を見てるさなぎを応援してくれるみんなが』
俺はその瞬間何言ったかわかんないけどとにかく感謝の気持ちを伝えたくて必死に叫んだ。
世の中はクソだ。だけど、クソと一緒になるなってことだ。
そうだ。そうだ。絶対に俺はアイツらと一緒になるもんか! アイツらみたいになるもんか!
『ありがと。ついてきてくれて。ありがとう。じゃあ、いこっか。ねえ! あの時、わたしにとべよって言ったひと! 今日こそ、わたし、トぶね』
さなぎちゃんはガチでかっこよかった。
俺達は最後の最後の最後まで叫び続けた。
ありがとうって叫び続けた。
空の演出も神がかってて俺はあの景色を一生忘れない。
『ここから見える景色はすっごく綺麗だよ。……ありがとう』
一生忘れない。
ライブが終わり、ぼうっとしながら外に出る。
外は真っ暗で、福岡の空はあんま星も見えなかった。
さっきのお姉さんがすっげー早歩きで出て行ってたけどあんまどうでもよくて。
優斗もぼうっとしたまま外に出てて、俺はふと思って話しかけた。
「優斗、俺さぁああ、おれ、さあ」
ああ、込み上げてくるこの思いはなんだろうな。
わかんないけど、分かることがひとつ。
「生きてて、よかったぁああ」
めっちゃ涙が溢れてきて、途中優斗の顔が分かんなかったけど、すっげー顔くしゃっとさせてた。
「それな!」
ガチで生きててよかった。
会えてよかった。
俺もとぶよ。高くとぶ。
そのあと、俺らは優斗んちでさなぎちゃんライブ神曲決定戦でガチでやりあった。すげー笑った。
ほんと、生きててよかった。
ありがとう、さなぎちゃん。
はじめて知ったVtuberが君で良かった。
君のファンになれてよかった。
これからも、応援してます。
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