クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
147てぇてぇ『十川さなぎってぇ、ちいさなVtuberなんだってぇ』
147てぇてぇ『十川さなぎってぇ、ちいさなVtuberなんだってぇ』
それは、福岡ライブ前日のことだった。
「ねえ、るいじ……ちょっと、これ……」
前泊のホテルの部屋の前で俺は、初日ツアーゲストの一人であるノエさんにスマホの画面を見せられ、それを知った。
『十川さなぎの中の人、暴露!』
そこには自信なさげに俯いたまま写り込んでいる彼女の画像が何枚かあった。
魂、中の人については、隠す・隠さないも含めて個人の自由だ。だが、さなぎちゃんは表に出したことはなかった。パーソナルな部分も具体的に言った事はないし、特定する情報としては少ない。だけど、
「あの……それ……」
ノエさんのスマホ画面を見せてもらう為屈んでいた俺が振り返るとそこにはさなぎちゃんがいて、まるでかくれんぼで見つかった子どものように目を見開いている。
その表情と声で俺はなんとなく察してしまい、胸がズキリと痛む。
「さなぎちゃん、見た?」
さなぎちゃんは、弱弱しく笑うと頷き、口を開く。
「多分、知り合いです……その、アカウント名がそれっぽいし、そのあとのエピソードとかも書き方とかもその子っぽいので」
SNSの呟きに繋げられたツリーには「当時は凄い陰キャだったw」「素朴な顔立ちの子でVチューバーの顔と違い過ぎて最初分からなかったwww」「声の癖が強いから分かったw」などと草交じりで呟いていて。
「……あの、当時、わたしをいじめていた子だと、思います」
さなぎちゃんがこれを見てしまったのかと思うと胸が痛くて。
「今は、福岡に住んでいて、チケットとれたって呟いてました」
どうやって入手したのか。いつから知っていたのか。何故見に来るのかは分からない。
相手の気持ちは分からない。
だけど、高校時代、V好きもおらず、学校では浮いてた俺でも彼女の今の気持ちは少しだけかもしれないけど分かる。
ツラい。
「ちょっと、走ってきます」
そう言った彼女はよく見ればジャージ姿で本当に走るつもりだったのだろう。だけど、それでも、その場に残されていった声が痛々しくて、俺は後を追おうと駆け出す。
「る……!」
「マネさんに、連絡を」
「うん、頼んだわよ……!」
ノエさんに呼びかけるとそのままエレベーターに飛び乗り、先に下りたさなぎちゃんを追う。
ロビーに下りるとさなぎちゃんの背中が。
こんな時でもやっぱりさなぎちゃんらしいというか、ロビーでは走らず早歩きで進んでいくのでギリギリ見つけることが出来た。
走り出すさなぎちゃんを俺は追う。本人は、ジョギングくらいのつもりだろうが、結構早い。俺も体調を崩さないようそれなりに身体を鍛えてはいるが、それでも、さなぎちゃんが早すぎて必死で喰らいつく。
春の福岡は、日中あたたかったけど夜になるとやっぱり肌寒くて、口の中に入る空気が肺をぶん殴ってくる。
寒さとしんどさと、さなぎちゃんの声と顔が俺の中でぐるぐるして吐きそうだ。
「だけど……!」
さなぎちゃんは走ってる!
なら、俺が走るのをやめるわけにいくか!!!
足ももつれる。少しずつ離されていく。それでも、俺は追い続けた。
俺は、彼女を支えるためにここにきたんだから!
ようやく彼女が足を止めたのは、明日のライブ会場の前だった。
俺はゼエゼエとデカい息切れをしながらさなぎちゃんの小さな背中越しにそのライブ会場を見る。
「さなぎちゃん」
びくりと肩がふるえる。やっぱり気付いてなかったか。早かったもんな。
俺が笑っていると、さなぎちゃんは顔を拭って、顔をあげる。
「わたし」
背を向けたさなぎちゃんがライブ会場を見ながら俺に向けて声を掛けてくれる。
「言われたんです。昔、『とべよ』って……」
震えていた。
「わたしが、もういやだってやめてほしいって言ったら、『飛び降りろよ』って、そしたら、終わるかもね、でも、誰も悲しまないし、意味ないからやれるもんならやってみろよって」
彼女は。
「わたし、くやしくて……その子にもそうだけど、『そうかもな』って思っちゃって、それでも怖くて何も出来なかった自分にくやしくて……! でも!」
それでも、彼女はライブ会場を、前を、上を向いていて……。
「わたし、これまでもいっぱいいっぱい助けられて、いっぱいいっぱい頑張ってきたから」
白い吐息が狼煙のようにも見えて。
「みせます。『わたし』を。逃げずに」
彼女は戦おうとしていた。
そんな彼女の小さい背中を見ながら、俺は思い出していた。
彼女とのファーストライブを。
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