クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
146てぇてぇ『十川さなぎってぇ、変わったVtuberなんだってぇ』
146てぇてぇ『十川さなぎってぇ、変わったVtuberなんだってぇ』
『十川さなぎ。
ワルプルギス所属のVtuber。
真っ白なショートヘアーに雪の結晶を飾った女の子。
雪国で凍える寒さに耐えながら、いつか蝶として羽ばたくのを夢見ている。
得意ジャンルは歌。
ゲームは得意ではないが、一生懸命に取り組む姿に応援したくなる視聴者多数。
前世は、なし。Vtuber高松うてめに憧れてオーディションを受けたらしい。過去にいじめを受けたことがあると告白。だからこそ、ぼっちだったり孤独を感じている人を応援したいと発言している』
「……へえ~」
※※※※※※※※※
【天堂累児視点】
その日のさなぎちゃんは朝から絶好調だった。
『あああああああの、歌とか色々がんばったんですけど出演者のラインナップ見て吐きそうになってていうか一回吐いておなかすいてご飯食べて腹ごなしにランニングしてお腹空いて食べてがんばってトークして歌ったので見て下さい』
〈一回吐いとるw〉
〈二回食べとるww〉
〈それでも歌っとる〉
〈楽しみー〉
〈テレビ絶対リアタイします〉
さなぎちゃん恒例の早起き配信『あさなぎ』がちょうどさなぎちゃんが出演する音楽番組の日と被ったということで、さなぎちゃんはど緊張、ファン達は朝にも関わらず大盛り上がりだった。
そう、今日さなぎちゃんが音楽番組に出演する。収録は終えているので、テレビに映るというのが正しいんだろうか。ワルでも歌唱力トップのさなぎちゃんは何度か音楽番組に呼ばれてはいる。だが、今回はメインで、さなぎちゃんの為にかなり豪華なセットが用意されていて、さなぎちゃんもすげー緊張していた。それでも圧巻の歌声を聞かせてくれて大丈夫なんだが。
「やっぱり緊張はするよなあ」
「あんたもね、るいじ」
ノエさんがそう言いながらじとっと見る俺は、さなぎちゃんの配信を見ながら微振動で皿を拭いていた。
「だって、ゴールデンではないとはいえ、あの有名音楽番組のメインですよ!」
緊張するよ! そして、めちゃくちゃ嬉しいよ!
朝の4時に目が覚めた。放送は19時間後だというのに。
今回メインなのはもちろん理由がある。さなぎちゃんはこの週末から全国ツアーがあるのだ。
東京、愛知、大阪、福岡の4か所を回るんだが初日の福岡がもう目の前に控えていることもあり、その告知も含めての出演だ。
「あの、さなぎちゃんが、大きくなって」
「ご両親か」
ノエ先輩のしお分多めツッコミが沁みる。
いかんいかん、俺はVを支える男。しっかりせねばと大きく深呼吸をしていると、
「ぶふっ!」
ノエさんが噴き出す。なんだよう!
「わ、笑う事ないでしょ! こっちだって、震えたくて震えてるわけじゃあ」
「ち、ちが……画面……さなぎ……」
そう言ってルイボスティーが口から零れないように必死で押さえながらノエさんは配信画面を指さす。そこには……。
「あば、あばばばばばばば」
〈さなぎ、トんでるー!〉
〈さなぎちゃん、帰ってきて〉
〈さなぎちゃーん!〉
Vの身体でも分かる位震えるさなぎちゃんがいた。
噴いた。
「もう! もうですよ! なんか3人して床とテーブル拭いてると思ったらもうですよ!」
さっきまでぶるぶるしてたさなぎちゃんが、ぷりぷりしている。かわいい。
配信画面の中の白銀の髪ではなく真っ黒な髪をぶんぶん振り乱しながら怒っている。
「こっちは必死なのに、噴き出すなんてもう! ですよ!」
「ごめんね、さなぎ……だって、ぶふー!」
「ノエせんぱぁい! もぉおおおおおおお!」
「さなぎ、ノエ先輩はきっと緊張をほぐそうとしてくれているのよ、ねえ、累児」
「そうそう、だって、あんなにぶふー!」
いかん、俺もあの時のさなぎちゃんを思い出して笑ってしまう、ツボに入ってしまった。
「るいじさぁあん!」
俺に駆け寄りぽかぽかと殴りかかってくるさなぎちゃん。かわいい。
つぶらな瞳を吊り上げて怒りながらも手加減はしてくれている。でなければ、ワルハウスの身体能力モンスター、野生児なのだ。本気出したらリンゴも絞れる。
そんな野生児さなぎちゃんと目が合うと、さなぎちゃんははっとして慌てて離れる。
「ど、どうしたの?」
臭かったか? 女性多いし出来るだけ匂いには気を付けているはずだが!
「いえ、良い石鹸の混じった匂いでした。じゃなくて!」
さな漏れ。
さなぎちゃんは、前髪を手でくしくししながらぼそりと呟く。
「あの、今日はまだメイクしてないの忘れてました……」
そういうさなぎちゃん。なるほど。
最近、さなぎちゃんはメイクにハマっているようで、主にそーだやガガに教えてもらっている。
そして、マリネがただ輪に加わりたいが為に一緒に教えてもらっている。
なので、最近はうっすらナチュラルメイクはしているのだが、
「でも、俺もメイク教えてるし」
「そうですけど! 異常に累児さん詳しくて驚きましたけど!」
れもねーどの頃に化粧品に詳しくなった。化粧品が合うとVはノる事が多い。
顔はうつらなくてもやはり女の子なのだ。
なので、初期の頃は俺が教えてあげてた。肌にやさしい化粧品とか諸々。
でもそういうことじゃないらしいさなぎちゃんを見るとちらちらと横を見て。
「でも、だって、ノエさんやうてめ様みたいに綺麗な顔じゃないし」
確かに、姉さんは学生時代から死ぬほどモテていたほど美人だし、ノエさんも顔立ちが整っている。さなぎちゃんは、二人とは違う。だけど。
「でも、さなぎちゃんかわいいよ」
二人とは違う方向性の良さがある。それだけは伝えねばと声に出して言うとさなぎちゃんは顔を真っ赤にしてあわあわしだす。かわいい。
Vの素顔なんて、見えないし知らないままでいい。だけど、それで魂が輝けるならかわいくしてあげたい。
そんなことを考えていると、両サイドから服を引っ張られる。
「ねえ、累児……姉さんは?」
「わ、わたしも、少しは、褒めなさいよ……」
求めるならば応えよう。それが俺だ。
「二人もかわいいです」
「「えへー」」
……で、姉さん、いつの間にいたの? っていうか、その床を拭いたふきんは流石に持ち帰らないよね。回収します。
「……」
気付けば、今度は正面にさなぎちゃん。流石、身体能力モンスター、一瞬で詰め寄られていた。
「な、なに? さなぎちゃん?」
「わたし、すっごくがんばったので、今日の番組、見てくださいね。わたしのこと」
そう言われて、俺は笑う。
初配信で、多くの人にVの姿を見られ緊張していたあの子が、テレビでたくさんの人に見られて、そして、こんな事を言うなんて……。
俺が大きく頷くと、彼女は最高の笑顔で応えてくれた。
そして、その日の音楽番組は、最高だった。
トークは、絶妙にかみ合ってなかったが、それはそれでめっちゃ面白かった。
だがそれよりなにより、さなぎちゃんの歌の迫力が伝わるようにと凝らされた演出、実力派な方たちのバンド演奏、そして、さなぎちゃんの歌、全てが最高で、全俺が泣いた。
いや、全俺だけではない。
多くの人が感動してくれたみたいでその日のSNSは十川さなぎで大盛り上がりだった。
共演した若者に人気の有名アーティストもリアタイ視聴しながらさなぎちゃんを褒めていてくれたおかげもあって、十川さなぎの名前が上がり続け、トレンドにも入った。
これで、全国ツアーもより盛り上がるだろう。
「やったね、さなぎちゃん!」
「は、はひ~」
俺の隣で、うーとかあーとか奇声をあげながら見ていて限界化したさなぎちゃんが、目をグルグルさせていた。かわいい。
「よし、じゃあ、もうさなぎちゃん的には夜も遅いし、寝たら……」
「あ、でも」
俺が立ち上がろうとすると、さなぎちゃんはじっと俺の目を見て……それはさっきまでと違う真剣な眼差しで。
「今のは集中してみられなかったんで、もう一回見ます。みんなにはどう見えていたのか。テレビ局の人たちは、どこを良いと思って切り取ってくれたのか。……ツアーで、もっともっととぶために。それに……ツアーの初日、おばあちゃんたちも見に来るんです」
ツアー初日は、福岡。いじめにあったさなぎちゃんが転校した先は九州だった。
成長を見せたい人もいっぱいいるんだろう。
なら、
「だから、るいじさん、よければ」
「よっしゃ、見よう! ただし、もう一回だけね」
「はい!」
俺に断る理由はない。彼女が、ワルプルギスのトップクラスの歌い手がより高くとぶ手伝いが出来るなら。
ちらりと横目に見た彼女の顔は真剣にまっすぐ前を見ていて、それはかわいいというよりかっこいい彼女がそこにいて、俺はそんな彼女がもっと見つめる上に行けるよう、俺なりの意見を伝え続けた。
絶対最高のライブになる。
俺の意見をメモに全部取って、目を輝かせながら去っていくさなぎちゃんと、盛り上がっていくSNSを見て、俺はそう確信していた。
だけど、SNSで生まれた十川さなぎの大きな流れは次の日から変わり始めていて、
『この前、テレビに出ていた話題の十川さなぎ、Vtuberの中の人暴露!』
SNSを少しザワつかせたつぶやき。
『いじめられた過去があるとか、いじめられたあとの行った先が大分っぽい発言とか、なにより声がめちゃくちゃ知り合いに似てる』
そこには、今も幼い雰囲気だけど今より幼くてオドオドしていて写真の隅っこの方で写っているというより写り込んでしまっている俺がよく見る彼女がいた。
『十川さなぎの真の姿が見たい人はチェック!』
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