140てぇてぇ『禁止ってぇ、越えなきゃいいんだってぇ』

『ほらほらぁ、どんどん出しなさいよぉ~♪』

〈も、もうツノ様出せません〉

〈すっからかんです〉

〈ツノ立てねえです〉


画面の向こうでツノ様がどエロい声でつののこ達を煽っている。


『まだまだもっともっと、ほら、がんばれ~がんばれ~出せ出せ~ツノ様の周年のアイディア★』


今日のツノさんのゲリラ配信は『つののこと考える周年イベント企画会議』だった。

もうすぐツノさんがデビューした日がやってくる。それに合わせてのイベントを考えようという時間だった。大体、ワルプルギスではVのやりたい企画に合わせて、事務所が動いたり他のVが協力してくれる、要は周年を迎える本人のやりたい事をやるものだが、今回ツノさんは自分のファンと一緒に考えるようだ。

ただ、


『ぱい揉むか? 元気出るか?』

〈ツノ立ってきました!〉

〈元気もアイディアも色々出そうです!〉

〈賢者と化しました。おまかせあれ〉


相変わらず、セクシーな配信となっている。

俺は作業しながら聞いているだけなので画面で何が行われているのか想像してどきどきしている。一方、作業をしながら聞いているルカさんは。


「~~~! ~~~!」


真っ赤になっている。

というか、最初はじっと見ていたが、途中から作業をし始めている、振りをしていた。だって、手が動いてないもん。あと、めっちゃチラ見している。

というより、またはなぢ。


「だ、大丈夫ですか? ルカさん」

「……ほうれんそうクッキーあるよ。ちょっとならあげる」

「ちょっとだけかよw ていうか、ルカちゃんってむっつりスケベ?」


心配そうにティッシュを持ってうろうろするさなぎちゃん。

キッチンのマリネ・さなぎちゃん用冷蔵庫からお菓子を取り出してくるマリネ。

にやにや煽っているガガ。


三人がツノさんの配信画面から目を離し、ルカさんの様子を見に近づく。


「さなぎ先輩おかまいなく! マリネ先輩頂けると嬉しいです! ガガ先輩私はむっつりじゃありません!」

「じゃあ、がっつり?」

「がっつりスケベでもない!」


わーわーぎゃーぎゃーと楽しそうな4人。

何故この4人が一緒にいるかというと、それはツノさんがかっこつけて下りて行ったあとのことだ……。




「あれ? ツノさん戻ってきた?」

「ツ、ツノ先輩、配信するんじゃないんですか!?」


かっこつけて下りて行ったツノさんが普通にまた戻ってきた。


「するよ~。だけど、その前に……『学校嫌い三銃士』を連れて来たわ」

「「学校嫌い三銃士」?」


ツノさんがそう言って連れてきたのは、


「自習のマリネ」

「授業の進みが遅かったから、あんまり意味ないので自分で勉強してました」

「先生キライのガガ」

「生徒指導の先生が超嫌いでした」

「いじめ受けてたさなぎ」

「もう過去は乗り越えました」


何が何やらと言う顔で聞いていたルカさんだったが、途中で、


「は! そうか、そういうことですか……学校なんてつまらないから先生みたいな真似はやめろ。そう仰りたいんですね!」


ルカさんがビシッと指をツノさんに向けると、ツノさんは、


「え、ちげー」


ぼへーっとした顔で返事。思い切り決めてたルカさんは顔を赤くする。

さなぎちゃんは気まずそう、マリネは無邪気な表情で首を傾げ、ガガは笑っている。


「ち、ちが……ちがうんですか?」

「そりゃあそうでしょお~。だったら、ワルプルギス学園なんて反対するし、中止が無理でもお姉さまなんてやんないわよ」

「じゃあ、なんで?」

「な~んでか? それはね……ま、この後の配信見ててよ。みんなと一緒に。じゃあね~」




と、まあ、そういうわけで4人+俺でツノさんの配信を見ているわけだ。


「それにしてもやっぱりツノさんの配信は面白いですね~。さなぎも見習わないと」

「まあ、やっぱ亀の甲より年の劫ってヤツよね~さすせんだわ~ガガももっと年季が」

「うむ。ツノの配信はおもしろい。るいじ、クッキーをもっと」


素直に、いじりながら、食べながら、それぞれがツノさんを褒める。

確かに今日のツノさんは絶好調のようでヘラるヘラるといつも通り言ってはいるが、喋りの勢いは止まらず、コメントも大盛り上がりだ。

すると、ルカさんは俯いて溢す。


「で、でも……ツノお姉さまの配信は良くないです」

「よ、よくない? なんでかな?」


ルカさんの言葉にさなぎちゃんが反応し、近づくと、ルカさんが顔をあげる。ちょっと瞳が潤んでいるようだ。


「だ、だって、あんないかがわしいのに! いかがわしいのは駄目じゃないですか!?」

「え~、ガガ的には駄目じゃないけどな~。だって、そのいかがわしいのが面白いんじゃん」

「でも、だって、過剰な性的なものは禁止ですよね!」

「過剰じゃないから、大丈夫」

「でも、だって……面白かったら何やってもいいんですか!?」


悔しそうな表情でルカさんが叫ぶと、三人は口をそろえる。


「「「いや、駄目でしょ」」」

「へ?」

「おもしろかったら何してもいいっていう人はさなぎは嫌いかな。だって、そういう人がわたしをいじめてきた人たちだから」

「いや、そういうつもりじゃ……」

「ガガも~、ウチの生徒指導も先生だから何言ってもいいだろって感じだったから」

「あの……」

「……ルカにはそう見えてるの? ツノが、面白かったら何やってもいいだろって人に見えてる?」

「う、わ、わかりません……そうじゃないとは思います、けど、でも、言う事がいちいち卑猥じゃないですか。だから……分かりません。それは私がつまらない女だからですか。みなさんがおもしれー女だからですか?」


ルカさんの言葉にマリネが首をかしげる。


「おもしれー女? なにそれ?」

「え? えーと、さなぎが知ってるのは、少女漫画とかで、そのオレ様系の男の子が、言う事をきかない主人公の女の子に言うんです『お前、おもしれー女だな』って」

「まあ、今は予想不可能な女とか、単純に面白い女って意味で使われますねー」


両サイドのさなぎちゃんとガガに教えられてマリネは配信中にもよくやる目を閉じて頭に刻み込むようにうんうんと頷く動き。


「なるほど。理解した。るいじ、ちょっとワタシに言ってみて」


は?

なんでよ? 

別に俺、オレ様系男子じゃないんだが?

なんてことを考えている内になんか列が出来ている。

なんでよ?

別に俺、オレ様系男子じゃないんだが?


「るいじ、早く」

「る、るいじさんおねがいします!」

「せんぱーい、後ろ詰まってるんですけどー」


なんでや。


「えーと、マリネ、お前、おもしれー女だな」

「……! ふふ、なるほど。理解した」


なにをや。


「……さなぎ、お前、おもしれー女だな」

「……トびそうです」


なにがや。


「ガガ、お前、おもしれー女だな」

「……ふひ」


なんか言えや。

謎のおもしれー女列が終わる。なんだったんだ今の時間。


「なんなんですか今の時間!」


ルカさんが代弁してくれた。ありがとう、ルカさん。

するとまたマリネがこともなげに返す。


「自己満足の時間。そうだ、るいじ」


マリネが大きな瞳でこっちを見ている。

まだなんかあんのぉおおおお!?


「マリネのどこがおもしれー?」

「そうだなまずクールタイムとアタリタイムのギャップの凄さだろうなクールタイムの冷静な声と的確分析はすごく知的で面白いのにアタリタイムのテンションマックス声量マックスの大騒ぎっぷりがギャップでデカすぎて楽しいと俺は思う」

「じゃ、じゃあ、さなぎはどこがおもしれーですか?」

「さな漏れは勿論だけどそれも含めて意外と正直なところがおもしろいよねぽろっと本音が出ちゃう感じがあとゲームに熱中した時の意識と時間のとびっぷりはやばいそれにシンプルに歌がうますぎると俺は思う」

「ガガは~、どこがおもしれー?」

「ゲームがうまいのは勿論だけど一番ゲームを楽しんでる感じがするあとはやはり視聴者とのプロレスだよなあとなんだかんだで努力家なところとそれを隠そうとするのがへたなところもいいよな歌もすごく練習してるんだなってのが伝わってくるのが俺は好きだな」


『おい、つののここぉおお!? コメントで盛り上がるとツノ様ヘラるからな! ヘラスティックバイオレンスかますからな』


おっとまたツノさんが画面の向こうで予告ヘラを始めている。コメント欄だけで盛り上がったりすると予告ヘラをかますんだが、まさか今の俺達のやりとりが見えていたわけじゃないよな。……うん、やっぱコメント欄が勝手に盛り上がってたせいっぽい。よかったよかった。


「じゃあ、ツノが怒ってたからマリネの番」


いや、ツノさんのお怒りはこっちじゃないと思う。

と、俺は思うが声には出さない。マリネのやりたいことがなんとなく分かったから。


「わたしがツノをおもしれーと思うところはライン上を綱渡りして渡り切るところ」

「え?」


マリネがそう言った先にいたのは画面の向こうのツノさんじゃなく、ルカさんだった。

ルカさんも自分に向かって言われると思っていなかったからきょとんとしている。


「ツノは確かにエロいことを言う。でも、自分でそのラインが分かってるからそのギリギリで視聴者のコメントもコントロールして、ずっとライン上で遊んでる。いっちゃいけないレベルまで来たら方向をずらす。その空気を読む力がすごくておもしれー」


『おいおい、つののこ。己致し実況ってー、そういうのってリアルだと気持ち悪い声出ちゃうからさー。うっすい本で可愛く美化して描いてくれよー。そしたら買うからさー。可愛く描かないと許さないからね♪』

〈買うんかいw〉

〈どういう気持ちで買うの?〉

〈描きます〉


そう、ツノさんは確かにギリギリな発言が多い。だけど、やっていいこといけないことの判別を付けた上でギリギリを狙っている。そのエロのコントロール自体を、エロチキンレースを楽しんでいる人も多いし、逆に越えないと安心してみている人もいると聞く。


「ガガ的にはやっぱ超絶思春期かよっていう性欲モンスターが言いそうな馬鹿っぽい事を瞬発力で出せるワードセンスですかね」

「さなぎは、漫画の引用とかの知識量と、それをナチュラルに使いこなすトークスキルです!」


ガガとさなぎちゃんもそれぞれが思うツノさんの『おもしれー女』っぷりを言っていく。

マリネはまるで自分の事のように自慢げに胸を反らす。


「ね? ツノはおもしれーし、凄いけど、それはエロいからじゃない。ただ過激なだけのキャラクターじゃない……つまり、つまり……るいじ」


丸投げかよ。

とツッコみたい気持ちを押さえ涙目のルカさんの元へ向かう。

そして、出来立てのクッキーと紅茶を彼女の目の前に置き、


「一先ず、最後までツノさんの配信を見てください。ただエロ面白Vtuberとして見るんじゃなくて、3人の言ったポイントに注目して」

「「「丸投げかよ(ですか)」」」


丸投げだよ。

だって、俺は彼女の『お姉さま』じゃないから。


「……はい」


ルカさんは静かに小さく頷き、クッキーを食べながらツノさんの配信を見続けた。

ツノさんの配信は相変わらずエロくて面白くてずっと見ていられる配信だった。


そして、配信が終わったツノさんが二階に上がってくる。

すると、すぐさまルカさんが立ち上がり、ツノさんのところへ。


「へっ!? なになになに!?」


テンパるツノさんの目の前で止まったルカさんは深々と頭を下げた。


「すみませんでしたっ!」

「へ?」

「学校や授業の面白さを伝えるためには私の実力が足りない! そういうことですよね!? もっともっと認められるためにツノお姉さまのような喋りの技術、実力が足りない! おもしれー女になる為に、企画どうこうよりももっと努力しろ! そういうことですよね!?」

「え、ちょっとちげー」


ツノさんは気の抜けた顔で言う。なんだその顔。


「違うんですか!?」

「うん、ちょっと違う。だと思って、今回は学校好き三銃士を連れて来たわ」

「学校好き三銃士!?」

「まず、お嬢様ノエ様」

「何その言い方!? ふ、普通にそれなりに友達いたしいい思い出もいっぱいあるわよ」

「次に勉強大好きそーだ」

「うふふ、ESSに入って英語劇とかもしてて楽しかったです」

「そして……学校大好き、破邪ルカ」

「わ、私ですか!? た、確かに学校好きですけど」


ツノさんは、ルカさんの言葉にうんうんと頷くとルカさんの横を通り過ぎ振り返る。


「ちなみにツノは学校はそこまで好きじゃない。でも、学校がつまんないとは言わない。視聴者にだって学校が好きな人も嫌いな人もいるから」


俺はそれなりというところだろうか。Vの話が出来る人間がその頃はあまりいなかったせいもあるし、どちらかと言うとネットの友達の方が多かったと思う。

ツノさんは、ルカさんの顔をじっと見ながら彼女の前をうろうろする。


「ツノはさー、思うんだよね。先生になりたい人って学校好きだったんだろうなーって。で、そんな学校好きでせんせーになりたかったルカに質問」

「は、はい」


ツノさんは笑顔でルカさんの前に立つとぽんと肩を叩き、口を開いた。


「学校が嫌いな奴の気持ちって考えたことあるかね?」


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