クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
139てぇてぇ『禁止ってぇ、つまんねーんだってぇ』
139てぇてぇ『禁止ってぇ、つまんねーんだってぇ』
指は死守した。
だが、血は流れた。
ルカさんの鼻血が。
そんなルカさんは……。
「い、いいですか! るいじさんにも迷惑なんですからそういったことは……」
「はーい、ごめんごめん」
「ごめんは一回!」
ツノさんに対しぷりぷり怒っていた。鼻にティッシュを詰めて。
ちなみに、姉さんは気配を消して未だに俺の手を握っている。
だが、ルカさん曰く『姉弟はセーフとしましょう!』らしい。
っていうか、これでもう30分くらい手握ってない? 姉さん。
ちらりと姉さんの方を見るとスマホいじってらあ。
「それよりさぁ~、ルカだって、スーツなんて着ちゃって、エロいんですけど。ルイジ誘惑するつもりじゃあないの~」
正座したツノさんがびしっと音がしそうな勢いでルカさんを指さす。
姉さん、俺の頬に指をさすのはやめてもろて。
「え、エロくありません! これが私の集中できる服なんです!」
確かにルカさんはきっちりしたスーツ姿だ。髪も黒のショートでメガネ。
このまま教室に入ったら若い新しい先生かなと受け入れられそうなくらい似合っている。
姉さん、私も教師の恰好しようかと言う目で見るのはやめてもろて。
「……ふ~ん、つまんなーい」
「つ、つまるつまらないの問題じゃないんです!」
「ふ~ん」
「ふ~んってなんですかぁああ!」
ツノルカの中の恒例のやりとりだ。
ワルハウスにルカさんが来てから何度見た光景だろうか。
姉さん、これどうってスマホ見せてくるの一旦やめとこうか。
「それより、今から作業するんでしょ」
「は! そうでした!」
「は!」ってちゃんと言う人はじめて見た。
ルカさんは、パソコンをセットして準備を始める。テキパキとして無駄がない。
「ねえねえ、ルカは今から何するの? ツノ様いる~?」
「配信の振り返りと企画書作りが主ですね。収録ものはほぼ終えたので。なので、ご意見頂けるとありがたいです……!」
「ちょっといやそうな顔で言うな。をい」
ツノさんの言う通り『不本意ながら』と顔に書かれたような表情でツノさんにお願いするルカさん。
ワルプルギスでは基本配信の報告・反省の提出、そして、配信前の申請、更に企画書の提出が必要となる。
突発的な配信はマネージャー許可さえとれればやってもいいが、報告・反省は必要となる。
チェックが入り場合によっては書き直しを命じられたりする。
このあたりをめんどくさがるVも何人かいるが、主にフランさんらしいが、ネットリテラシーやVのケアを考慮した結果だ。ワルプルギスの徹底っぷりに、フロンタニクスの放任主義を知っていたガガやマリネは驚いていた。
こういったしっかりした形がルカさんには合っているようで、凄い文章量をパソコンに書き込んでいく。しかも、楽しそうだ。
だが、横から見たツノさんは頬杖をつきながら、
「つまんねえ女だな~」
一言呟いた。
「つ、つまんない女って! 反省文を面白くしてどうするんですかあ!?」
ルカさんが隣にいるツノさんに向かって目を吊り上げて叫ぶ。あまりにも勢いよく振り返り過ぎて眼鏡がズレてる。
「え~、いやでもさ~、このあたりをさ~、『落ち込んだのでむねもんでいいですか』とかにした方がよくない?」
「よくないです! いかがわしい禁止!」
「あと、ここも『自分の出来なさに梨サイズの胸が痛みました』とか」
「むねのサイズいじるの禁止!」
「いじってないわ! ガガと同じ位のサイズだろうが」
「詐称するほうのいじるじゃないです! もうツノお姉さま黙っていて下さい!」
ルカさんが鼻息荒くパソコンに向き直ると、ツノさんはやれやれと両手を挙げる。
「ルイジに聞かなくていいの~? 自分じゃ思いつかないからルイジさん助けて~って」
「聞きませんっ!」
ツノさんの一言一言にぷりぷり怒るルカさん。大分意固地になっているかもしれない。
らしいと言えばらしいけど。
「累児……!」
うん、姉さんがなんでぷりぷりしてるのかな?
「かまって」
「俺は、ちゃんと作業もする姉さんが、好きだなあ」
そして、姉は光の速さで消えた。
その後、何故か二階で始まったルカさんのミーティングを聴きながら俺は食事の準備を進めていた。
今日は、ルカさん・マネージャーさん・ツノさんの三人でのリモート会議だ。
ルカさんは大量の企画書を送ったようで、いくつもの企画を熱弁していた。基本的には教育関連の内容が多い。が、あまりマネージャーの声は芳しくない感じだ。
「う~ん、そうですねえ」
「だ、駄目ですか?」
「駄目、ではないんですけど、もう少し他のVtuberさんがやっていることもやった方がよいのではないかと。ほら、ASMRとか」
「ぴぎゃ! えーえすえむあーる? あの、いかがわしいかんじの? む、無理です無理です~! ルカには無理ですよ!」
「えーと、じゃあ、この前紹介したギャングものとかは……」
「ゲームもあまり刺激的過ぎるのは……」
今度はマネージャーさんの提案に対しルカさんが歯切れ悪くなっていく。
大分煮詰まっている感じだな。
「あーあ、つまんなーい」
そんな時にある意味空気を読まない一言をツノさんが放つ。
「……は?」
あまりに無神経な言葉にルカさんが割とガチ目の低音で聞き返す。
だが、ツノさんはそんなルカさんを見て鼻で笑う。
「つまんねー女だなあっての」
「そ、そ、そんなの分かってます! 自分でも! 自分でもつまんない女なんてのは、Vtuberになる前からずっとずっと分かっているんですよ! かたくてつまんない女だって……分かってます……! 同期の中で一番初速が遅かったし、伸び率も悪い。自分が一番つまらないことは一番自分がわかっています……!」
苦しそうな声で溢す言葉。
確かにルカさんはワル学の中でも最初こそ同じ位の登録者だったがそこからの伸びは悪く今でも他のメンバーと大分差が開いている。
そこに苦しみや悩みもあるだろう。ワルハウスに来た時もどこか空元気に見えた。
そこにはルカさんの魂からの声があって。
「だから、それがつまんないっての」
ツノさんはそれでも言葉を続ける。
そして、うつむく彼女の肩を握り無理矢理持ち上げる。
「しょうがない。このツノ様が授業してあげるかあ」
悪戯っぽく笑うツノさんがルカさんに向かってぱちりとウィンクをすると、一階へ下りる。
彼女の戦場、配信部屋へ向かう階段を下りていく。
「おもしろきことなき世をおもしろく、ばーい高杉晋助ってね」
一言呟きながら手を振る背中は最高にかっこよく、
「ツノお姉さま……その名前は●魂の方、漫画の方です。正しくは高杉晋作です」
「アタシの中では、晋助が正しいのよぉお! 冷血硬派ばんざああああい!」
最高にかっこわるいおもしれー女だった。
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