110てぇてぇ『れもねーどってぇ、すっぱそうな顔もするんだってぇ』

「れもねーどさん、最近頑張っているのは分かるんですが、ちょっと発言が、ね? その、ね? わかってもらえますよね? ね?」


ね? がウザい。

勿論、そんなことは言わない。あいまいに頷いておく。


アタシは、今日【フロンタニクス】に来ていた。

るい君のお弁当、じゃなかった、打ち合わせがあったから。

最近、アタシの配信は絶好調だ。


ファンとのプロレスがうまくなってきた自信があるし、ゲームもいい感じに並行して出来るようになったし、肌の調子も喉の調子もいい。

数字も伸びている。

なのに。


お局の人がまたチクチクしてくる。


前、累児にノートで愚痴った時教えてもらったけど、この人は、以前の会社から社長と付き合いがある人だけどVtuberについては詳しくないらしい。だけど、声が大きいし、立場が強いのであんまみんな逆らえないらしい。


だから、お局の人の後ろで社員さんがちらちらとこちらを見て申し訳なさそうにしている。

でも大丈夫。アタシはこういうの慣れている。

アイドル時代もチクチク言ってくる人なんていくらでもいた。だから、アタシにどれだけチクチクしてもアタシは切り替えられるから気にしない。


内容は、アタシの配信で時々キツイ言葉が出て炎上しそうでやめてほしいとのこと。

分かってない。

そのギリギリをちゃんと見極めて攻めたうえでセーフに出来る人間が生き残っているんだ。

……まあ、アタシも最初はそんなことあんま理解せずに、ヤバいこと言って盛り上げる最低の人間になりたくないからラインを遠ざけていた。

だけど、そうじゃない。それをちゃんとコントロールできる人間が伸びる。


それを教えられた。

だから、この人に何言われても、


「はあ、天堂は何を教えているんだか、ね?」




は?


「あの子がVtuber好きだって言うからつけたのに」


『ちょっとキツめの言葉がふとした瞬間に漏れるのが、れもねーどの素に触れられた感じがして良いと思うんだよな』


良いって言ってくれた。

実際やってみんなにも良いって言われた。

アイツは、好きって言ってくれた。


「担当のタレントを管理するのがマネージャーの仕事じゃない? ね?」


『いいか、れもねーど。飽くまでちょっとキツめがポイントだから、抑える為にもキレワードを決めておこう。ストレートな感じじゃなくて、れもねーどだけの言葉で濁す。でも、気持ちは隠さなくていい、怒りや悔しさもお前の気持ちだ』


ちゃんと導いてくれてる。

るい君は。


何も知らない癖に。

どうせ誰も話しかけてくれないから聞き耳立てた噂に勝手に色つけたんでしょ。

何も見てない癖に。

掲示板かネットニュースかの悪意ある切り抜きの刺激的な情報でしょ。

アタシの……!

アタシ達の邪魔をすんな……!


「あ……!」


『お前の配信、好きだよ』


……!


「すっっぱ!」


アタシの大声に、お局さんがビビる。


「な、なに? 急に」

「……あ、これ、アタシのお気持ちワードなんですよ。よく使ってるんですけどご存じありません? すっぱっぱ! って、出来るだけ直接的な表現避けるようにって言ってるんです。気を付けますね。個人的感情で不用意に人を傷つける最低な人になっちゃいけませんもんね」


お局は、急に出された声に驚きすぎたのか胸を押さえている。

ごめんね、年だよね。


「ま、まあ、気を付けるなら、ね。大声出したのも今日は許しましょう」


アタシは許さないけどな。絶対に見返してやる。


「れもねーど!!!」

「え……?」


さっき急に社長に呼ばれたるい君が息を切らせてこっちにやってくる。

今までにないような必死な顔にアタシの心拍数が上がり、汗が噴き出す。


え?

アタシ、なんかやらかした……?


「れ、れもねーど……」


るい君の荒い息がアタシにもうつってきたのか、アタシもどんどん呼吸が荒くなる。


はあっ……はっ……はっ……。


何をやらかしたのか、一気にいろんなことがフラッシュバックしていく。

あの発言だろうか、アレだろうか……もし、クビになったら……。

こんなクビじゃあ、るい君ももらってくれないだろうな……。


そう思うと一気に泣けてきた。


膝に手を置いたるい君が、大きく息を吐きだし、顔を上げる。

そして、震える唇でアタシに……


「れもねーどの……お前の、オリ曲が、出る……!」


よく、わからなかった。


まっしろだ。


あたまが。


ああ、頭がまっしろってこういうことなんだ。


おりきょくってなんだっけ?


おりきょくって言うのは、オリ曲ってことで、オリジナルの……曲ってことで……。


アタシの為の曲って、ことで……


作れないって最初言われてたはずの話で……。


それはきっとファンのみんながいっぱい応援してくれたからで。


るい君が助けてくれたからで。


がんばれた、からで。


アタシの、アタシだけの、曲で。


涙が、溢れた……。


「なっ……!」


お局の人が驚いて社長室の方へ走って行こうとしてこけてたけど、ざまぁとかなんかそういうのはなくて、なんか急に感謝の気持ちさえも溢れてきて……。


いや、でも……でも……でも……一番ありがとうって言いたいのは、ファンと……


目の前で、


「あは」


アタシより大号泣している、るい君で……。


「うわあああああああああああ……うわああああああああ……おべ、おべでどお……れもねーどぉおおお……」


るい君の泣き顔はちょう不細工で、泣けた。

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