99てぇてぇ『おみやげってぇ、贈る相手の事を考えてる時が楽しいんだってぇ』

「「「「「「お、か、え、り」」」」」」


 ワルハウスのメンバーがお出迎えしてくれた。

 だが、目が怖い。


「や、やっと、帰ってきたんスか……!」


 榛名さんがボロボロだ。何かあったんだろうか。


「えーと……もしかして、さなぎちゃんがちょっとだけミスったのをずっとひきずってて、それを励まそうとして上手くいかなかったノエさんがへこんでて、ガガは通信の状況が悪くて昨日配信が急遽雑談になったのにいまだに苛ついてて、ツノ様は単純に周期的なヘラ期に入っちゃって、マリネがごはんの微妙な味の違いにぐずったって感じです?」


 榛名さんがぼおっとしてる。何か間違ったんだろうか?


「ぜ、ぜ、ぜ、全部合ってるんスよ! なんなんスか! アンタは、マジで!」

「いや、向こう行っても配信見てましたし、なんとなく、分かりません?」

「分かりませんよ! この化け物!」


 ひどい言われようだ。


「いやいやいや、俺も流石にこの面子だからここまで分かりますけど、他のVだったら流石にここまでは分からないですよ。ツノ様のヘラ期なんて、毎日会ってないと分かんないでしょうし」

「はあ、もういいっすよ。大分みんなのメンタルも回復したみたいだし」


 榛名さんにそう言われみんなを見ていると確かにさっきの鬼気迫るような感じはなくなっている。ただ、俯いてたりそっぽ向いてるから分かりにくいけど。

 だけど、全く分からないことが、一つ。


「そーだはなんで、あんな目が血走っていたんだ?」

「シンプルに、ルイジさんに会えなくて寂しかったからです」


 そう言ってそーだが抱きつこうとしてくるのを止める。危ない。

 そーだの場合は、後先考えてこういうことやってるからタチが悪い。


「はいはい、俺も会いたかったよ」


 このくらいであしらっておくのが一番。だと思っていたんだけど。

 見れば、そーだの顔が真っ赤だ。


「どした?」

「あ、あは……あ、の、数日とは言えこれだけ会わなかった期間は珍しいので、なにか、その、照れますね……あはは」


 そーだの声を聞いてきた俺だから分かる。ガチ照れである。

 汗をかいて、手でパタパタ扇いでいるそーだ。やめてくれ、心臓に悪い。

 そーだのガチ感に俺も照れるというのもあるが、それよりなにより、


「「「「「「…………!」」」」」」


 みんなの視線が再び鬼気迫るものになっている。

 無自覚煽りはやめなー。


 姉さんも一緒になって睨んでるし、榛名さんまで?!

 いや、榛名さんは俺を睨んでるな。ウチのVを誘惑するなと。

 いやいや、俺がやっているわけじゃないんですよ!


 とはいえ、今日は対策をちゃんと準備してある。ぬかりはない。


「あ、あー! そういえば、みんなにおみやげ買ってきたんですよー!」


 俺がそう言うとみんなが目を輝かせる。

 そうだろそうだろ。いくつになってもお土産って嬉しいよね。


「えーと、まず、さなぎちゃんには、はい、クリームトフィー入りのロンドンバス缶などなどのロンドンバスグッズ。この前の失敗なんて失敗に入んないって言っても、さなぎちゃんは気にするだろうから、あ、今気にし始めたと思ったらちょこっとこれ食べな。で、今はちょっと自分に甘くなろうって思えばいいよ。あれは、そのくらいでいい失敗だから」

「は、はい……えへへ、かわいい缶。お菓子もおいしそうです」


 さなぎちゃんが袋いっぱいの可愛いロンドンバスモチーフのパッケージに入ったお菓子を抱えて笑っている。よかったよかった。


「じゃ、次にノエさんですね。やっぱりイギリスと言えば紅茶ですよね。はい、どうぞ。ツブヤイッター見た感じまた体重気にしてるんでしょうけど、痩せてますけど、そんなに気にするなら紅茶を是非脂肪吸収を抑える効果もあるらしいですし、ちょっと水分とれば腹もまぎれるかと、あとは、やっぱり香りがリラックス効果ありますから。ワルハウスでノエさんが好んで飲んでた味と、これちょっと挑戦してみてほしい俺のお勧め銘柄です」

「……ぁりがと」


 ノエさんがひったくるようにとって背中を向けた。

 ただ、ぎゅっとしてるから喜んでいるんだろう。

 ぶんぶんしてるしっぽが見えるようだ。猫っぽいのに。


「はいはーい! ガガは!? ガガはー!?」

「はいよ。ガガにはこれな。リップバーム。これ、イギリス王室御用達のメーカーなんだってさ。唇よく噛んでるみたいだし、よく乾くって言ってたしな。お前の好きな柑橘系の香りだし。イライラしたら深呼吸。お前が楽しそうにゲームしてるのが俺は見たいから、な?」

「……へーい、あざーす」


 はっはっは、ガガが照れている。ガガに関しては照れさせにいった。

 まあ、ゲーム楽しそうにやってるのが好きってのは本当だし、身体の不調ってのは小さなことでもゲーム本気でやる奴にとっては結構なハンデになりそうだしな。


「マリネはこれな」

「これは……?」

「スティルトン、いわゆるアオカビチーズだな。パンと一緒に食べてみると良い。クセは強いけど慣れるとうまいぞ。お前はもっと食の範囲を広げろ。好き嫌い多い人間は人の好き嫌いも多い傾向があるんだぞ。もっと友達欲しいなら好き嫌いなくせとは言わないけど、一回挑んでみろ。お前なら、きっと好きになってもらえるから」

「ん……」


 ぶっちゃけ、ワルプルギスのメンバーの中でもワルハウスメンバーと仲良くなりすぎて、他のメンバーと絡めてないみたいだし、ブルーチーズはあの人が好きだったから話の種にもなるだろ。


「ツノには……?」


 ヘラ期のツノ様がやってきた。大分今回しんどいっぽいな。


「ツノ様、これですね。ガガと同じメーカーの石鹸です。めっちゃいい匂いだし肌もツルツルになるそうなんで、ただでさえ綺麗なツノ様がより綺麗になっちゃいますね!」

「……かわいい~。ありがと~。ツノの為に選んでくれたんだよね?」

「勿論です。ツノさんのことを考えて、ツノさんが喜んでくれるツノさんに似合うものを選びましたよ」

「んふふふふ~、も~、ルイジったらツノのこと好きすぎ~」


 よかった。大分自己肯定感上がった。

 榛名さんがこっちを見て頷いている。そう、ツノ様は出来るだけ名前を呼んであげて、あなたに話しているんですというのをしっかり伝えてあげてください。


「そして、そーだはコレな」

「これは、調味料か何かですか?」

「そ。ヘンダーソンズレリッシュっていうイギリス風醤油かな。あとは他にもこれもイギリス王室御用達のスーパーで買ってきた色んな調味料だ。これで一緒に色々料理作ろうぜ」

「は、はい!」


 そーだの性格はよくわかってる。こいつは、誰かに何かをしてあげるのが大好きで、それがある意味ストレス解消にもつながってる。だから、料理をさせるのが一番だ。

 よろしくはないとは思うけど俺と一緒に作るのがいいみたいだし。


「そして、榛名さんを含めたみんなにこれも!」


 そういって俺はパディントンのぬいぐるみを一個ずつ渡していく。

 ワルハウスのメンバーはぶっちゃけ、友達が少ない人が多い!

 こういうお揃いが嬉しくて仕方ないはず!


 ほら、みんなにまにましてる!


「オ、オレもいいんすか?」


 榛名さんが恐る恐る手を出す。


「いいんすよ、ここのメンバーじゃないですか」


 俺が手渡すと榛名さんは嬉しそうに微笑み、


「あ、ありがとうございます」


 そう言って、


「み、皆さんとお揃い、ふひひひ……」


 ちょっと気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「ねえ、ルイジ」

「なんですか」


 すっかり機嫌が直ったであろうツノ様に向かって振り返ると、ツノ様は目と鼻の先に居た。

 圧がすごい。


「さっきからちょおっとだけ気になっていたんだけど、うてめがね、みんなにお土産配っている時に静かだなーとおもって見たら、なんだかこれみよがしに腕時計を見せてるんだけど……あれ、なに?」


 ……姉さん。


 嬉しいのかもしれないけど、そういう見てみてオーラを出さないで欲しかった。


「うふふ……これはね、ルイジが200万人おめでとうってくれたの。腕時計を」


 言わないでほしかった。せめて、この場では。


「アタシ、ちょっと配信スケジュールの見直ししてくるわ。ヘラってる場合じゃねえ……!」

「あ、あー! ノエも配信もうすぐ始まるから準備しよーっと。べ、別に、力入れようとかそういうんじゃないからね!」

「さなぎもやりかけの提出物終わらせてきます」

「ガガは楽しくゲーム配信やってきますからね、見ててくださいね、せんぱい」

「ワタシは、ルイジのごはん食べてから、がんばる」

「うふふ、よかったですね。うてめ様。じゃあ、今日はお帰りなさい記念でいっぱい一緒にお料理作りましょうね、ルイジさん」


 うん、みんな。相変わらずでなによりだよ。

 配信楽しみにしてるから楽しく元気にファンの為に頑張ってね!

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