第三部 事務所に頼られるVtuberオタ、所属Vtuberみんなを見つめてぇてぇ確認中

78てぇてぇ『高松うてめってぇ、ブレないんだってぇ』

『どうも~☆ こんぱら~。Vtuber大好き、Vtuber超後方支援型Vtuber凹原ぱらめで~す☆ 今日も、Vtuberを貴方にご紹介!』


俺は今日事務所からの依頼でとあるVtuberの配信をチェックしていた。

凹原ぱらめ。

Vtuberを紹介する配信を中心にやっている個人Vで、今日は高松うてめの回らしく、一応確認して欲しいとのこと。


俺はぱらめさんの配信は毎回見てるので、仕事という感じはないのだが、高松うてめ回ということでどきどきしている。


『さて、今日は有名事務所【ワルプルギス】の【高松うてめ】様で~す☆ まず、基本情報はこちら!』




高松うてめ

【ワルプルギス所属】四期生。

誕生日:12月3日

ファンネーム:てめーら

挨拶:『てめーら、たかまつてる? 緑の女神、高松うてめです』

ハッシュタグ

配信タグ:うてめ降臨中

ファンアート:いらすとうてめ

概要:緑の女神。枯れ果てた大地に花を咲かせるために降臨した女神。歌の力で枯れた木やこれからのつぼみにエネルギーを与えたい。

― 高松うてめ。歌の力を貴方に。たかまつてるかしら? ―



『緑髪、緑の瞳の女神なヴィジュアル。なんていうの女神っぽいこの、布ドレス? と、茨の冠が特徴的だよね! ちなみに、怒ってる時は冷静になる為に、茨の冠が食い込んで頭から血が流れているらしいから注意ね! 身体もなかなかのナイスバディ! 基本の背景は、緑豊かな癒し空間って感じだね! 声もちょっと低音で落ち着いた感じの声、あと、滑舌もすっごく良くて聴き取りやすいのですが、初心者にはお勧めできないかも。というのも高松うてめ様のトークに特徴がありまして、まずは、高松うてめ様の初配信こちらご覧ください! あ、勿論このあたりは許可・確認いただいてまーす』


【はじめまして、高松うてめ降臨させていただきます】というテロップが出てきて、姉さんの初配信の様子が映し出される。


『……皆さん、たかまつてる? はじめまして、高松うてめです』


今よりちょっと作った声の姉さんが丁寧に挨拶をして配信が始まる。

その落ち着いた声と口調にリスナー達はちょっと驚いていた。


〈888888888〉

〈落ち着いてるね〉

〈凄く良い声〉

〈緊張とかしてないの?〉

『緊張は……しています。ふふ、だって、弟が見てるんです』

〈え?〉

〈弟?〉


『ちょっと失礼します!』


凹原さんの声が差し込まれ映像が止まり画面が戻る。

某芸人さんの食堂のようなノリで止められるのがこの配信の特徴だ。


『えー、というわけでですね。高松うてめ様は弟溺愛系Vtuberとしても非常に有名でして、弟の事をあまりにも話すのでファンであるてめーらからは、弟様は【ウテウト】と呼ばれて完全に認知されているくらいなんですねされているくらいなんですね』

〈これすごいよね。初手、弟って〉

〈めっちゃ落ち着いた綺麗な声で言う言葉が弟が見てるやからな〉

〈女神さまが見られてる〉


『そうそう、初手弟がくるとは思ってなかったので、リアルタイムで見てたワタシは吹いちゃいましたよ! で、続きをどうぞ』


画面が切り替わり、再び姉さんの初配信に戻る。


『弟はVtuber大好きで、うてめの事も応援するって……ふ、ふふ……うふふ……見てくれてるんです。ねえ、見てる……?』

〈なんか、えろくね?〉

〈どきどきしてきたんだが〉

〈お、おれたち、どうしよっか?〉

『ごめんなさい。こんな配信してたら弟に怒られますね。この前も弟に怒られたんです……』


『はーい! ちょっと失礼いたします! ……えー、このあと、弟エピソードトークが十五分くらい続きます。ざっくりとだけ話すと、弟とゲームをしていて弟ガン見で弟に勝っていたら弟がちょっと拗ねてとても興奮したって話ですね。詳しく知りたい人は概要欄のリンクからどうぞ。とにかく、弟の事を語る時のうてめ様が恋する乙女の声でどきどきして虜に、てめーらになるリスナーが急増って感じですね』

〈この話ヤバいけど、うてめ様の美声と滑舌の良さと語りのうまさで聞いてて苦じゃなかったんよな〉

〈マジか、見よ〉

〈妙にえっっな感じで興奮したわ〉


そう、姉さんは初配信から、自己紹介が始まる前に俺の紹介を終えてしまった。

当時、俺はめっちゃ恥ずかしかった。自分の身内が俺の大好きなVtuberになるということでどきどきしながら配信を見てたら、俺の話ばっかりしていた。

他のVtuberがコメントとか拾ってくれたらマジで2,3キロ走る位嬉しかったけど、この時ばかりは恥ずかしいが勝った。

だけど、正直、面白かった。他の三期や先輩の二期生達がちゃんとやる中で、意味不明な初手をかましてくる新人は、Vtuberファン目線としては最高だった。


『あまりにもうてめ様の語る弟、ウテウト君がスパダリ過ぎて妄想説が流れていたんですが、それがほぼ確と思われたのが、伝説のクリスマス配信ですね』

〈出た〉

〈あれは激やばだった〉

〈恐怖のクリスマス〉


その言葉を聞き、俺は背中に冷たいものが流れるのを感じる。


『では、恐怖映像、パンツの替えを用意してご覧ください! どぞ!』


画面が切り替わると、Vtuber高松うてめは、いつもの緑基調の装いではなく真っ赤なサンタコス衣装で配信に望んでいた。


『てめーら、たかまつてる? 高松うてめです。みんな、メリークリスマス』

〈めりくり〉

〈メリークリスマスです! うてめ様!〉

〈メリークリスマス〉


『今日はクリスマスイブなのに配信に来てくれてありがとう。雑談メインの配信になっちゃうけど、よかったら付き合ってね』

〈喜んで!〉

〈予定ないので!〉

〈配信ありがとうございます!〉


『ちなみに、今日はね、弟がクリスマス料理を用意してくれたのよ、うふ』

〈出たー! ウテウト!〉

〈弟さん、有能〉

〈なに作ってくれたんですか?〉

〈え?〉


『ふふ、それはやっぱり、綺麗で栄養満点のリースサラダでしょ。それと、チキン。あと、私が大好きなパイ包みのクリームシチュー』

〈うまそー!〉

〈食べたい!〉

〈ウテウト飯最高!〉

〈作ってくれたんですか?〉


『今日はね、弟もサンタコスしてくれてね……物凄くかっこいいわ』

〈美人姉弟か〉

〈ええな……うてめ様とおそろっち〉

〈うてめ様のサンタはウテウトなんやな〉

〈サンタコスしてるんですか?〉


『そうよ、私のサンタは弟なの。ふふふ、弟ったら嬉しそうに笑っているわ』

〈よかったね〉

〈てぇてぇ〉

〈しあわせやなー!〉

〈笑ってるんですか?〉


『じゃあ、みんな乾杯しましょ。かんぱーい♪』

〈うてめ様、いつもよりテンション高いな〉

〈かんぱーい〉

〈最高のクリスマスやで!〉

〈酔ってるますか?〉



『じゃあ、弟の作ってくれたご飯食べちゃおう。ねえ、あーんして』

〈おいおいおいおいおいおいおい〉

〈あーんだと!〉

〈最高かよ!〉

〈あーんしてくれるんですか?〉


『あーん、もぐもぐ』

〈ん?〉

〈ん?〉

〈あれ?〉

〈えーと〉


『あー、おいしい!』

〈おいおいおいおいおいおいおい〉

〈おいおいおいおいおいおいおい〉

〈おいおいおいおいおいおいおい〉

〈おいおいおいおいおいおいおい〉



『ちょっと失礼します!』


ぱらめさんの声が差し込まれ画面が止まる。


『というわけで皆さんお気づきでしょうか? これ、うてめ様、噛むのも呑みこむのも早すぎるし、物音も一切しないし……多分、食べてもいないし、誰も居ないんですよね』


ぱらめさんの言葉に俺は当時の事を思い出していた。

当時他事務所【フロンタニクス】の社員だった俺は、姉さんの配信を見ながら寒い冬のクリスマスにはあり得ない程の汗を流していた。


何故なら、俺は、姉にクリスマス料理を作っていなかったからだ。

っていうか、姉の家にもいなかった。

っていうか、あの日はれもねーどの配信に付き合わされてフロの配信ルームに配信見る少し前までいた。

姉さんにはクリスマス会のお誘いを受けたが、仕事だからと断った。

そして、その仕事が終わり、れもねーどの打ち上げに誘われたが、流石に姉の誘いを断った手前行かず、姉の配信を見ていた。


そして、戦慄した。


姉 が 妄 想 の 俺 と ク リ ス マ ス パ ー テ ィ ー を し て い る。


途中までは、ファンは気づいていなかった。

俺以外気付いていなかった。


だけど、食べてる所から違和感が生まれ始める。

全く弟が物音を発していない上に、姉はもぐもぐ言ってるだけで咀嚼音も何も聞こえない。


その時俺は確信した。


姉は、俺がクリスマスパーティーに行かなくて、壊れた。


俺はその時本気で思った。


ヤバい、ヤバすぎる。


なんだこの配信、と。


だが、歴戦のてめーらは何度も妄想地獄を見てきた者達だった。

面構えが違う。見えないけど。


〈妄想キター!〉

〈強めの幻覚www〉

〈これこそうてめ様やでー!〉


そうして、この日の配信は伝説のクリスマス配信となり、うてめ様の弟妄想説がたかまつた。


ちなみに、そのあと、俺は、謝罪の言葉と共に、姉に翌日クリスマスお食事会に誘った。

姉は大層上機嫌だった。

そんなクリスマスの思い出がフラッシュバックしてきた。


くらくらしながらもぱらめさんの配信に視線を戻す。


『というわけで、狂気のクリスマスはファンやリスナーの間で伝説となってヤバすぎるVtuberとして一時話題になったんですよね。そして、注目を浴びていた彼女は、基本スペックが高かったので、新規を大量獲得したわけです。ですが、基本的に孤高って感じだったので、それだけのスペックがあっても、事務所内でも中の上って感じだったんですけど、大事件が起きるわけです! ウテウト同棲事件!』


俺が【フロンタニクス】をクビになって姉さんに拾われた話か。

確かに、アレは俺の中でも姉さんの大きな転機だったように思う。


『実在か妄想かファンの中でずっと議論が巻き起こっていたウテウトがとうとううてめ様と一緒に暮らすという話がうてめ様からされたわけです。普段なら妄想だと思っちゃうところだったんですが、その時のうてめ様のメスっぷりがもうヤバすぎて! 本物だ、となったんですね。そして、その後も、ウテウトがおろし○さんの配信で身体を借りて登場したりと弟実在が明らかになるんですが、その頃からうてめ様がオフコラボを積極的にし始めて、とにかく認知度がたかまつていったわけです! そして、うてめ様自身の配信クオリティもめちゃくちゃ上がり始めて、一気に伸び始め、いまや、ワルプルギスではトップ。日本Vtuberの中でもトップクラスのVtuberになったわけなんですね。なので、一言で失礼すると』


【弟命の狂気と愛のVtuber、高松うてめ】


『って感じですね。ゲームで弟を絡めると激強になったり、ラブソングで弟をおもいながら歌ったりととにかくヤバさがすごいんですが、彼女自身の美しい声と丁寧なトークが上手く調和しているというか、ヤバいのに聞かせる力があって、とにかく、最高です! 高松うてめ様! 是非チェックしてみてくださいー! では、最後に、うてめ様名言集でおわかれでーす! 気になるワードあったら、是非動画チェックしてくださーい! では、ばいぱら~☆』


『うてめのことは嫌いでも弟のことはきらいにならないで、絶対に』


『今日はうてめIN弟シャツで配信をお届けしています』


『生きるって何か……? 弟、かな』


『無人島に何を持っていきますか? 弟』


『人と違う事を私は誇りに思ってる』


『弟の汁は、うてめのモノよ』


『ツノってそう、ちゃんとひとつひとつ、ひとりひとりの気持ちを考えてる。感想言われなかったお料理がかわいそうって思ってるんじゃないかなってうてめは思ったの。そんなツノってやさしいなって』


『ファンは必要です。てめーらが増えたら弟が喜ぶので』


『私は、信じてもらえないかもしれないけど、全ての頑張るVtuberの味方なの。だから、負けないで。頑張って。……弟の為にも。がんばれブイ』


『魂があり続ければ、続ける事は出来るかもしれないけれど、魂は削られることも傷つくことも弱らされることもあります。一人ぼっちになった気になって、夜の中、在り続ける意味を探したこともあります。でも、絶対に一人じゃない。一人じゃないから、一人じゃないなら、小さくても弱くても輝き続ける意味を信じて。輝く星と星が繋がって神話が生まれたように、私の輝きと誰かの輝きが繋がって新しい素敵な物語が生まれることを信じて。みんなと繋がって生きていたい。そう、思っています』


姉さんの今までがぱらめさんの神編集とオリジナル曲【つぼみ】によって一気に流れ込んでくる。

うん、やっぱり姉さんは凄いVtuberだ。


『今年の一文字? 弟』


……ちょっと、自重して欲しいけど。


配信を見終わったタイミングでドアがノックされる。

姉さんだろう。

一体どこに仕掛けられているのか。


「累児……今、私の紹介動画見てた?」


一体どこに。


「う、うん、見てた」

「ど、どうだった?」


こう言う時ばかりは姉さんは自信なさげにちょっとびくびくしてる。

くそう、それがまたかわいくて。


「やっぱ高松うてめは最高だね」


そう言うと姉さんは本当に綺麗に笑う。


「それより、姉さん、このあと配信でしょ? 準備は出来てる? 一応、よかったらコレメモ書き程度だけど配信で使って。あと、またはちみつドリンク作ろうか? ごはんは姉さんがこの前食べたいって言ってたオムライスにしようと思うから頑張ってね。って、なに?」


姉さんが笑ってる。おかしそうにくすくすと。


「ううん、累児が弟なんだなあって」


姉さんが当たり前のことを言う。

大好きなVtuber高松うてめであり、まあ、大好きな姉天堂真莉愛である姉さんが。

それは当たり前だ。俺にとっては。

だから、今日も俺は応援するだけ。





※キャラクターが増えてきて相関図等が欲しいとのコメント頂きました。相関図はどうやってアップすればいいのか分かりませんが、キャラの詳細分かるシリーズをお届けしようと思います。また、近況ノートのコメントでキャラメモ書き頂きまして、とても助かりました。本作を愛していただき本当にありがとうございます。

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