クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
73てぇてぇ『てぇてぇってぇ、傷つけたくねえんだってぇ』
73てぇてぇ『てぇてぇってぇ、傷つけたくねえんだってぇ』
【
「おーす」
「「「おはようございます」」」
「おはようございます、山階さん」
「山階さん、今日もよろしくお願いします」
局内を歩いていくと誰もが、びくつきながら俺に向かって挨拶をしてくる。
ヤバ階。
そう呼ばれていることを俺は知っている。
俺に睨まれたらヤバい事を言われると皆怯えている。
実にいい気分だ。
元々俺は、俳優だった。
俳優でそこそこ。同期で売れていく奴らを散々見送っていた。
タレントに転身して過激な発言でハネて、ワイドショーの司会に抜擢された。
俺にとってこの仕事は天職だった。
人の嫌がるところを見つけて、ついていく。
そして、負の感情を視聴者から引き出し、とにかく盛り上げさせる。
善悪なんて関係ない。言論の自由だ。何が悪い。
俺を抜いていった同期の俳優やタレント達も散々叩かせてもらった。稼がせてもらった。
そもそも叩くヤツだって、ただ叩きたいだけだ。なんの信念もなく、ただ、正義の味方面して、自分が正しい側であると信じ込みたいだけだ。
大体、正義ってのは多数派にあるんだぞ。
大衆は、人の失敗や傷が大好きだ。それをうまそうに舐め回す。しゃぶりつくす。
しゃぶりつくしたあとに、もっとないのと聞いてくるのだ。
だから、ゴシップ雑誌もワイドショーも続いているんだ。
人の性ってのは、元々悪なんだ。
おっと、悪の塊みたいなのが歩いてくる。
「山階~、今日もいっぱい燃料投下してくれよ~」
俺の番組を担当しているプロデューサーが嬉しそうにやってくる。
コイツはクソだ。人の嫌がることを見つける天才。
だからこそ、素晴らしい。
「まかせてくださいよ、ぶーぶー騒ぐガキ共やら気持ち悪いオタク君達を盛り上げて見せますよ。しかも、運の良い事に今日祝日の金曜ですからね。ハネますよ、これ」
今、ウチの番組では絶賛Vtuber攻撃週間に入っていた。
Vtuberファンだっていう男が起こした性犯罪。
これに俺とプロデューサーは目を付けた。
これは、燃えると。
火が付けば火事になる。
火事になれば、人々が注目する。
大火事になればなるほど人が集まってくる。
何をするかって?
もっと燃やそうとしてくる。
もっと過激で刺激的な画が欲しいから、もっと燃やしてそれをカメラで収めようとする。
火事なんて事故なのに、誰も手を差し伸べない。
可哀そうとか思わない。
ただただ、対岸の火事を、おもしれーって見てるだけだ。
もしくは、火事になった原因を探してその原因を作ったヤツをボコそうとする。
火事なんて本当はみんなどうでもいい。
ただ、自分のストレスを解消する理由が欲しいだけだ。
その火種を見つけた時の喜びは何物にも代えがたい。
Vtuberはガキ共や金を落とすオタクの間で流行っている。
火を付ければすぐに騒ぎ出す。
そして、大火事になる。
勿論、苦情だってくる。上等だ。こっちだって、それを望んでいる。
そうして、どんどんどんどん色んな感情を巻き込んで大騒ぎになればなるほど、人々の注目は集まる。金が集まる。それが俺達のカシコイやり方だ。
Vtuberはよく燃えた。
燃えやすいモノをいっぱい持っていてくれた。
「そういえば、昨日の夜。なんか、噂の気色わりい弟がとうとう出てきたらしいですね」
「あー、そーそー。らしいぜ。なんか、他のVtuberの身体借りてまで出てきたんだってよ」
「必死っすね」
ウケる。どうせ僕は何もやってませーん、アイツらクソでーすとか言ってんだろうな。
それがまた俺達の飯のタネになるとも知らずに。
「おい! あの弟の動画切り抜けてるのか!?」
プロデューサーがスタッフを怒鳴りつける。
すると、若そうなADがやってきて駄目そうな顔を見せる。
「あ、あのー、それが、一応作ったんですけど……」
「けどお!? なんだ、けどなんていらねえんだよ!」
「いや、あの、それまだ続いてて……」
「「は?」」
俺とプロデューサーの声が重なる。まだやってる?
昨日の夜から昼過ぎまでずっと? 馬鹿だな、本物の。
「しかも、あの、どこ切り抜けばいいか分かんなくて……」
「どこってお前散々やってきてんだろうが! とにかく、叩きやすそうなところを、いや、叩きやすくなくてもいいから叩きやすく加工してもってくりゃいいんだよ!」
「あの……ないんです」
「「はあ?」」
クソADが馬鹿みたいな事を言ってくる。
「ないってなんだあ!?」
「だって、その、放送……ずっと、色んなVtuberを褒めてるだけなんです……」
「「はああ!?」」
*********
【天堂累児視点】
〈狂気やな……〉
〈狂ってやがるぜ〉
〈もう九時間なんだが〉
〈間違いなく緑ニキではある〉
〈Vtuberこれだけ知ってる人間だもんな〉
〈緑ニキ人間じゃない説〉
〈ヤバすぎる〉
『……まあ、そういうわけで、てぇてぇわけです』
俺はるぅしーどのコラボ配信の中で、耐久配信を行っていた。
最大で16時間の予定。
9時間が経った。8時間枠×2の第二部が一時間経ったところだ。
『なるほどお! てぇてぇですねー!』
しーどちゃんが泣きながら同意してくれている。
るぅとしーどは交代で俺の話の聞き役になっている。
身体を貸してくれたおろし〇さんも別の部屋で寝ている。
『じゃあ、引き続きハッシュタグ私のてぇてぇVtuberから紹介されたVtuberのてぇてぇ話をしたいと思いまーす』
俺がやっているのは、あのワイドショーや司会者へのアンチ攻撃でもなければ、誤解を解くための説明でもなかった。
ただただ、てぇてぇVtuberの話をしていた。
俺はワルプルギスのVtuberのてぇてぇ話を5分し、そして、ツブヤイッターで募集したてぇてぇVtuberを5分、交互に紹介していくという企画を行っていた。
もうかれこれ54人の話をしている。まだいくらでも話せる。
勿論、コメントでは俺をすげえ叩こうとする人や説明しろとか言う人たちもいたが、結構な数が三時間くらい俺がてぇてぇ話だけし続けたら消えた。
だが、視聴者数は減るどころか増え続けている。夜からずっとの人、朝になってから見ようと来てくれた人たちや、興味本位の人たち、噂を聞いてやってきた人たちも流れ込んできている。
ちなみに、昨日からこの配信はずっと何かしらのワードでトレンドに上がり続けている。
理由は色々あるだろう。
まず、今話題のVtuber事務所のトップの弟、ウテウトらしき人物が他のVtuberの身体を借りに来て話始め、しかも、姉がそれを公式に認めたことで本物かどうかの検証も含め盛り上がっている事。
次に、大量の切り抜き動画が出回っている事。
それは、俺が切り抜き師、緑ニキであることが重要だった。
俺は使えるだけのツテを使って出来るだけ多くの良心的な切り抜き師と連絡を取り合い、今回のこの配信の切り抜きを作ってくれないかと頼んだ。
緑ニキはVtuber切り抜き動画界隈では評判の人物だった。
切り抜きは、Vtuberの魅力を伝える一つのツールだから、俺はVtuberを知ってもらう為に作り続けていたらいつの間にか憧れの切り抜き師になっていた。
切り抜き師にも憧れがある時代だ。それだけ配信者が盛り上がっているからだろう。
ともかく、緑ニキの頼みとあらばと参戦してくれる切り抜き師達が、大量にこの配信の切り抜きを作ってくれている。海外にも翻訳して流してくれている人もいた。
そして、それを良心的な視聴者たちが広めていってくれている。
勿論、ただただ面白がって広げる人もいるだろうが、それはそれで好都合だ。
とにかく、今、世界中に、【私のてぇてぇVtuber】の話が広がっている。
極めつけは、その動画を見つけたVtuber達が自身の配信で喋ってくれている事だろう。
誰かが挙げたVtuberの名前を俺がピックアップし、そのVtuberのてぇてぇポイントを語る。てぇてぇの連鎖。
そこには愛しかない。
そして、それに感動したVtuberは、この配信の話をしてくれる。
時には、そのVtuberが好きなてぇてぇVtuberの話をしてくれている。
そして、また、その視聴者たちが集まり、愛が溢れ、愛が広がり、とてつもない熱をもって盛り上がっていた。
ワルプルギスのメンバーも配信を始めて、この配信そして、てぇてぇVtuberを紹介してくれたらしい。
姉さんも、わざわざ退院して、配信までやって、俺を紹介したらしい。
俺は、傷つけあわない。
殴り合いは、プロレスは望むところだ。大好きだ。
でも、プロレスの出来ない、傷つけることでしか喜びを見いだせない人間と同じやり方は出来ればやりたくない。
Vtuberファンが事件を起こした。やめて欲しい。ファンなら迷惑を掛けないで欲しい。
それをテレビやネットが悪意ある切り抜きで騒ぎ立てた。やめて欲しい。怖すぎる。
そして、真偽も確かめず色んな人が騒ぎ立てた。やめて欲しい。悲しすぎる。
俺が求めるのはただただ、Vtuberがてぇてぇ配信が出来る環境だ。
勿論全てのVtuberがいいわけでもない。くさすVtuberだっていっぱいいたし。
でも、がんばる人間ががんばれる場所をつくりたいと思って何がわるいんだろうか。
何故それを踏みつぶそうとするんだろうか。
がんばってもうまくいかなくていじめにあったさなぎちゃんがVtuberを友達に感じて、自分も誰かのひとりぼっちの子達の『友達』になりたいと思っているのに。
自由に心を曝け出して、思い切り笑える場所をVtuberに見つけたピカタであり、マリネが笑って泣ける場所なのに。
ガガの感情むき出しのゲーム配信で元気を貰う人だっているのに。
ノエさんのちょっとしお分きつめだけどやさしい配信で癒される人もいるのに。
そーだの自分の傷ついた過去をバネにして悩みに答える姿に救われる人だっているのに。
るぅみたいに一からやり直そうと頑張る姿を見て励まされる人だっているのに。
コメントでプロレスすることでパワーを貰える人だっているのに。
スパチャで読み上げて貰えて泣いちゃうくらい幸せになれる人だっているのに。
誰かがVtuberの話題で友達が出来るかもしれないのに。
Vtuberに貢ぐために仕事を頑張ろうって思える人もいるのに。
Vtuberに元気を貰って明日を生きようと思っている人もいるのに。
こんなにもいっぱいのてぇてぇを貰って、それを返したいと思っている俺がいるのに。
弟みたいに、
誰かを助けられる人に、なりたい。
それが自分にとってVtuberなんだと思った人だっているのに。
俺はそんなてぇてぇ場所を、ただただ面白そうだからと傷つけてほしくない。
だから、俺はそんな下らない戦いには加わらない。
俺はただ、愛を、てぇてぇを語り続けるだけだ。
『ありがとう』
声が、聞こえた。
綺麗でやさしい、てぇてぇ声だ。
『……姉さん?』
『そうよ、ウテウト。みなさん、そして、てめーら、ごきげんようてめ、高松うてめよ』
〈マ?〉
〈凸キター!〉
〈うてめ様!〉
『はーい、ということでサプライズゲスト、うてめ様と繋がっています。熱狂的なてめーらであるしーどちゃんのお陰でーす。ありがとー、しーどちゃーん』
『いいいいいいえ、わわわわわたしはしあわせです』
『いや、しーどちゃん今そんな事聞いてないんだが』
るぅとしーどちゃんのやりとりで笑って少し緊張がほぐれた。
それは、多分姉さんも同じで。
『ウテウト、貴方は何しにここに来たのかみんなに教えてあげて。姉さんにプロポーズ?』
『いや、冗談は置いといてもろて』
何がしたいのか。
きっとそれはVtuberやVtuberファンには伝わっていると思う。
すごくシンプルなことだから、
それだけで俺達は繋がっているんだから。
俺は、
『色んな人への仕返しを望んでいる人もいると思います。ですが、それについては個人的にも然るべき所にお願いもしています。そして、俺が、いちVtuberファンとして出来ることは……結局、応援することです。100の良いコメントより1の悪意あるコメントの方がと言われるけれど、それでも、俺が出来ることは、1000のコメントを、10000のコメントを、送り続けることしかできないので』
俺の声なんてほんと小さいもんだろう。
でも、それでも俺は声を上げることしか出来ない。
てぇてぇVtuber達の為に。
『俺は、応援し続けます。俺にてぇてぇを教えてくれたあなたの為に。それを伝える為にここに来ました』
それが、俺のやり方だ。
『ありがとう。そして、これはVtuberファンの多くの魂の声だと思っています。そして、Vtuberの一人として、改めて……ありがとう、これからもがんばります』
姉さんの姿は見えない。
けれど、俺のようなVtuber専用のヤバい耳がなくてもきっと伝わっただろう。
姉さんは今、幸せそうに、そして、力強く笑っていると。
姉さんが帰ると、しーどちゃんは、てぇてぇてぇてぇと泣き始め、一旦退場してもらった。
さて、じゃあ、
『次のてぇてぇ話しちゃいましょうか』
俺にはてぇてぇしかない。
『【#私のてぇてぇVtuber】いきまーす。あ、いいですねえ、この人知ってます? 元々はこの人、主婦で……』
俺は、ありったけの思いを込めててぇてぇを語り続けた。
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