クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
74てぇてぇ『てぇてぇってぇ、なんなんだってぇ』
74てぇてぇ『てぇてぇってぇ、なんなんだってぇ』
【
「はあ、マジか……じゃあ、なんだ? ずっと好きなVtuberの話をし続けてるだけってか?」
プロデューサーが詰め寄ると、ADはコクコクと首を縦に振る。
ポジティブな内容しか一切話してない動画。
それじゃあ、確かに切り抜くのは難しい。
だが、今、話題にしているこのネタで、しかも、SNSをずっと騒がせ続けている以上、触れないのは逃げでしかない。
途方に暮れた俺達が出した結論は、
「というわけで、あのウテウトとか言うのがずうっとVtuberの話してるんですって。気持ち悪いねえ」
番組内で狂気の配信をいじるという選択しかなかった。
だが、ゲストにそれを振っても
「え、ええ、その、すごい、ですねえ」
「ですよねえ! 家庭環境とかに問題があるんですかねえ、その辺どう思います?」
「いや、んー、どうでしょう」
歯切れの悪い返答しか返って来ない。そりゃそうだ。
こんな程度の事じゃあ、意見しづらいだろう。
すぐさま切り上げて、今までVtuberがやってきた悪行を並べていく。
まあ、本題はこれだ。そして、盛り上げる要素も準備してある。
「さあ! というわけで今回は、ネットリテラシーに関する本も多数出されている
ネットの世界についてライトノベルから社会問題を取り扱った小説、また、評論なども出し幅広い世代に人気の作家で、テレビや動画サイトでも切れ味鋭い喋りで評判だ。最近Vtuberに関する問題提起の本でかなり話題になって、ホットな人物だ。
コイツを引きずり出すことに成功した。といっても、リモートでの参加だが。
『どうも、赤牛崎です』
「先生、今日はご出演ありがとうございます! さて、ということで早速なんですが、今、Vtuber達が色々と社会問題になっていると思うんですが、どう思います?」
『その前に、一つ良いですか? 山階さんはどれだけVtuberの事をご存じですか?』
「え?」
何言ってんだ、コイツ?
『いやね、Vtuberを取り扱う位ですから。しっかり取材されているんだろうと思うんですけど、どのくらい皆さんがご存じなのかで話が変わってきますよね? 山階さんは、当然Vtuberに問題ありと断ずるくらいですから多くのVtuberをご存じかと思いますが、好きなVtuberでも嫌いなVtuberでもいいんで、名前を挙げてもらえませんか。で、どこが好きとかどこが嫌いとか、ああ、てぇてぇとか少し話していただけません? どうも、聞いてる限り勉強不足なんじゃないかと』
めんどくせえ質問をしてきやがった。
そういうのはいいんだよ。
ただただ、面白おかしくつっついときゃいいのに。
「えー、赤松うてめ、は、ちょっと気持ち悪いですね。弟に対して異常愛を抱いていて」
『赤松うてめ、ですか?』
「ええ、赤松うてめが」
『えー、まず、高松うてめですね。で、じゃあ、その高松うてめが慈善事業の広告塔として活動していることはご存じですよね?』
「え?」
『リリースされたデジタルシングルがオリコンで一位になって、あの海外スターがファンだと公言していることは? 半年前に起きた災害に対し弟と相談して募金を呼びかけ、それによって救われた命が沢山あったことは?』
「えー、あー、そうなんですか」
なんだ、コイツ。番組を盛り下げるようなこと言って、もう呼ばねえぞ。
『はあ……お願いだから、ちゃんと勉強しておいてください。その上で話さないと、中身のないSNSで気軽に出来るような会話をわざわざテレビでやるのなんてやめましょうよ』
は?
「アンタねえ! 失礼じゃないですか!? アンタ、自分が何の為に呼ばれたかわかってんの?!」
『Vtuberの問題について語る為ですよね?』
「そうだよ! なのに! こっちを馬鹿にするようなこと言って番組潰す気か!?」
『テレビという媒体で、勉強もせずに知ったかぶって話す馬鹿のいる番組なんて潰れた方が良いと思いますけど?』
「馬鹿ってなんだこのゴミクズ野郎が!」
『……はあ。Vtuberという世界に問題がないとは言いません。ですが、貴方は一度ご自身の問題を見直した方が良いかと。ああ、あと……Vtuberって貴方が思っているよりファンが多いんですよ。一般人でも著名人でも。では、また、ちゃんとした知識が身についたらお呼びください』
そう言って、赤牛崎との通信は切れた。
俺はキレた。
そこで、番組は無理やりCMに入り、俺はスタッフに引っ張られ控室へと連れて行かれ、番組は内容を急遽変更し放送された。
そして、この日から俺は番組を休まされ、外にも出歩けなくなってしまった。
まず、イギリスの一流アーティストが本当に、高松うてめのファンで、うてめに対する愛を語る歌を作成し、SNSで流した。曲の名前は『Te-Te』。
それを皮切りに、SNSや動画サイトでは、【私のてぇてぇVtuber】というタイトルで色んな業界人達がただただ好きなVtuberの【てぇてぇ】ところを語っているらしい。
それを見た大衆は
〈Vtuberって良い人多いね〉
〈Vtuberそんなに悪ないな〉
〈ちょっと見てみるわ〉
〈あの司会者嘘吐きやな〉
〈いやVtuberはクソ〉
〈いや一流が認めてるんやで〉
〈俺見たけど普通に良かった〉
〈面白かったけどな〉
あれだけ叩いていたヤツらもVtuber事務所が立ち上げた対策チームによって、一網打尽にされたらしい。
しかも、今も目を光らせている上に、しっかりとしたネットでの法を成立させることを国に提案し、国も票数欲しさに動き出しているらしい。
俺や番組関係者もVtuber事務所から訴えられている。
いずれにせよ、勝てはしないだろうからどれだけ傷を浅く出来るかですと弁護士に言われた。
そして、俺の思っている以上に、Vtuberは社会に食い込んでいて、他局に比べ俺の番組がある局だけ少しだけではあるが目に見えて数字が落ちたらしい。
動画サイトの再生回数は爆上がりしたそうだ。
そして、俺の味方であったはずの『悪意ある大衆』は俺を標的にし始めた。
うまく編集され今までの批判的コメントが取り上げられ、外でも絡まれるようになったり暴言を吐かれるようになった。
顔を隠しながら生きるしかなくなった。
― ♪花咲く日を夢見続けて 暗い土の中もがき続ける ―
びくびくと怯えながら入ったコンビニで聞こえた歌声。
暗い土の中もがき続けるというフレーズが心に沁みた。
いい歌だな。
スマホで調べてみる。
「くそ……Vtuberの曲じゃねえか」
高松うてめの『つぼみ』。
どこまでいっても追いかけてくる。
いや、俺は知らなかったんだ。こんなに『てぇてぇ』とかいうのに毒されてる世界を。
てぇてぇなんか幻想だよ。今に見てろ、欲に負けた奴らが勝ち始める。
そして、スマホに着信が。
電話はマネージャーからだった。
俺の番組が終わるらしい。
放送終了し、Vtuberとの関係性を少しでもよくしようとVtuberとコラボした昼のニュース番組を始めるらしい。
― ♪やっと会えたね、本当のキミ、本当のワタシ ―
「クソ! クソ! クソがああああああ!」
コンビニで騒ぎ出した俺は警察に連れて行かれニュースになった。一瞬だけ。
【天堂累児視点】
〈浦井望:ごめんね、ウチの旦那が暴走しちゃって〉
〈天堂累児:いえ、俺は俺で勝手にやった暴走ですし。正論パンチだったと思いますし〉
〈浦井望:でね、邦彦さんが、ウテウトさんに『うてめ様おめでとうございます』って伝えてほしいって〉
〈天堂累児:ありがとうございます、とお伝えください。あと、『ウィズ Vtuber』面白かったですとも〉
〈浦井望:読んでくれたのね。ありがとう。じゃあ、マリネ大変だと思うけど引き続きお世話ヨロシク。あと、『所属Vtuberの心身保護に関する提案書』協力ありがとう。社長のオーケー出たからこれで進んでいくと思う〉
浦井さんとのやりとりを終える。
これでひとまず、区切りとなるだろう。
俺はほっと息を零し、画面を見る。
少しの間目を離していたと言ったら怒られるだろうか。
俺はその怒った顔を思い浮かべ少し笑ってしまう。
でも、これできっと彼女たちの明日が少しでも良くなると信じたい。
― ♪次の夢の種はキミの元に ―
画面の向こうのうてめ様が歌い終える。
にっこりと笑う彼女は、本当に女神のようで。
傷つき倒れても立ち上がった彼女は、
辿り着いた200万人からのてぇてぇ愛を受け取った。
200万分の一であることが嬉しくて、俺はコメントを送る。
〈てぇてぇ。ありがとう、これからも応援し続けます〉
俺のコメントは何十万を超える人たちからのてぇてぇコメントに流されていく。
それでいい。
その流れが、それそのものが、彼女への愛で、彼女をまた明るい未来へと押してくれるのだから。
『ありがとう。一緒にがんばろうね』
愛が溢れ、てぇてぇ日々が続いてく。今日も明日もずっとずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます