クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
58てぇてぇ『年末特別配信・ワルナイ2nd・16~17時』
58てぇてぇ『年末特別配信・ワルナイ2nd・16~17時』
「ワカナさん!?」
ワカナさんの声にゲーム大会時から嫌な感じを受けていた。
俺は、すかさずワカナさんの背に腕を回し、支える。
「……っぶね」
ほっと胸をなでおろし、ワカナさんを見ると、ワカナさんは顔を真っ青にして、焦点が合わない視線を宙に漂わせている。
「あ、あれ……? 私……」
「天堂君、何があったの!?」
騒ぎを聞きつけて浦井さんやスタッフさん達がやってくる。
「ワカナさんが、倒れかけて……」
「え? どうする? 救急車?」
「やめてください! このあと……ライブが……」
ワカナさんが必死に俺の腕を掴み、浦井さんに向かって声を絞り出す。
「でも、そんな状態だと……!」
「これ以上、みんなに迷惑を掛ける訳には……! お願いです……! 私はクビになってもいいから……今回だけ我儘を聞いてください……!」
「なんで、そんなこと……」
浦井さんがワカナさんに尋ねると顔を伏せぽつぽつと話し出す。
「すごいですよね……みんな、4期は二人も200万人を突破するし、5期はどんどん登録者を増やしてる。恨んでるわけじゃないんです。でも、2期だと、ノエだけが一人今頑張ってる……。いや、みんな頑張ってるんです。私が支えなきゃいけないのに。私がちゃんと出来ていれば……これ以上迷惑を……」
あー、俺は本当に……まったくもう。
俺は自分の頭を乱暴に掻き、両手で頬を叩く。
「ワカナさん、男性に髪や頭を触られるのいやじゃないですか? よければ触らせていただきたいんですけど」
「は?」
「天堂君、何言って……」
「ワカナ先輩! せんぱ……天堂さんの言う事聞いてください。その人ならきっとなんとかしてくれますから」
全員が呆気にとられる中、ガガはなんとなく読み取ってくれたみたいで、一緒に説得してくれる。
決めたら、あとはやれることをやるだけだ。
「浦井さん……社長呼んできてもらうか、説得してきてもらえませんか? この後のライブでワカナさん達2期の出番をちょっと遅らせること出来ないか」
「……ふう、説得してくる。だから、頼んだわよ」
そう言って浦井さんは駆け出していく。
浦井さんなら社長も説得してきてくれるだろう。ほんとあの人には前の事務所の頃からお世話になりっぱなしだ。
「そーだ、俺のバッグをとってきてくれないか。さなぎちゃん、温かいタオルを。マリネとガガでノエさん達に説明を」
「はい」「は、はひ!」
「わかった。先輩、お願い」「ルイジ、がんばって」
「おう」
俺はワカナさんを長椅子に寝かせ、そーだとさなぎちゃんから諸々受け取り準備を整える。
「ワカナさん、これ、目薬です。先に差してください。それでその後にこの温かいタオルを目に当ててゆっくり吐く息多めで呼吸してください」
「え? あ、うん……」
ワカナさんは言われたままに目薬をさし何度か瞬きをすると閉じた瞼にタオルをあてほうっと息を吐く。
「多分ですが、ワカナさんのは眼精疲労です」
「眼精疲労……」
「眼精疲労は、良く聞くし、目薬で治療すればいいと思われがちですが、ただ休むだけでは治らないものですし、場合によっては、軽度の鬱や吐き気や目眩などが起き、そのままメンブレして悪化すると大変なことになり得ますので、必ずお医者さんに診てもらってください。ただ、症状を軽くするために出来ることはありますので」
「ちょ、ちょっと! ……なんでそんなに詳しいの?」
「え? いや、Vtuberはパソコンやスマホを見ますから目に関する知識は念のために準備しておいたんです」
「念の為って……」
姉さんが一人暮らしを始める時に伝えておいた話をそのまましてるだけだ。
目の疲れは脳や神経、心に大分影響を与えそうだから、目を休ませてねと温めることのできるアイマスクをあげた。泣いて喜ばれた。
「ワカナさんは良く見えている人だと配信を見てても思ってました。なまじ見えちゃうし気になるから酷使してるんじゃないかと。あと、シンプルにストレスも影響します。だから、今、吐く息深めの深呼吸をしてもらっています。呼吸は吸う息が長ければ緊張を、吐く息が長ければ緩和になります。今はとにかくながくゆっくり吐いて身体をリラックスさせてください。呼吸さえコントロールできれば、心もある程度コントロール出来ますから。そしたら、あとは、俺が何とかしてみせます」
俺は、ワカナさんの頭を手に取り、ゆっくりともみほぐしていく。
「え、ひゃあ!」
「頭皮マッサージとつぼを。男に触られるの抵抗あるかもですが、許してください。そんで、緊張しても息はゆっくり吐いてください。俺は、Vtuber鉄輪ワカナをあのステージ立たせたい」
「……なん、で。そこまで……?」
「え? 普通に、ただ、俺はVtuber鉄輪ワカナを応援したいだけですよ。それ以外にあります? ……大体、ワカナさんは自分なんかって言いますけどね、その自分なんかっていう人に救われている人間だって山ほどいるんですよ。それに……調子に乗らないでくださいよ」
「え?」
「あの人たちは貴方にただ支えてもらいたいと思っているわけじゃないですよ」
「ワカナ!」
声がする。良く通る声で、聴く人の心をくすぐるような声。
「その声、は……」
「いい! あたし達はあんたと一緒に、あんたと肩並べてステージに立ちたいのよ! 勝手に後方保護者面してんじゃないわよ!」
「そーそー。クレアだって、迷惑かけるために支えてほしいわけじゃないし。それが私達だと思ってるから、出来るんだよ」
「難しい事はホノカはわからん! けどね、ワカナがいればもっともっと熱いステージが出来ると信じてる!」
「勝手に終わらせないでよ? あたし達の物語はまだまだこっからでしょう! 絶対来いよ! ばか!」
そう言ってノエさん達は準備のために去って行く。
そっか、浦井さんなんとかしてくれたんだな……。
震えるワカナさんの瞼から手を離し、頭皮に切り替える。
「ワカナさん。ゆっくり息を吐いて。そしたら、涙もきっとゆっくり流れてくれますから。ワカナさん、ファンにとっては、貴方がヒロインなんですよ。そして、ノエさん達にとっては貴方がかけがえのない仲間なんです。主人公やヒロインを決めるのは数字や価値じゃないと思います。貴方だから。ファンはそう思ってます。だから、自分を決めつけないで。貴方の物語の主人公にしてあげてください」
「う、ん……あだし、あせっ、てた……! 若い、子と……比べてたっ……嫉妬、して、疲、れて……自分は、主人公じゃ、ない、んだって……」
身体が強張り震える。俺はそっとほぐすように頭を包み、
「ワカナさん、深呼吸っすよ」
「うんっ……すぅー、はぁーー。ごめん。でも、そうだよね。ヒーローもヒロインもいっぱいいていいんだよね。凄いだけが主人公じゃないもんね」
そう思う。俺は、本当にそう思う。
何処かの登録者一桁のVtuberに救われる人もいれば、たった一人のファンのコメントに救われるVtuberもいる。そして、それはVtuberじゃなくても、変わった仕事や才能ある人じゃなくても、誰かのヒーローやヒロインになれる。
俺は、そう信じてる。
そんなヒーローを輝かせるのが俺の仕事だ。
俺はその思いが伝わるようにと心を込めてワカナさんの頭をもみほぐす。
「そうです。少なくともあなたが大好きなファンはいっぱいいますよ。だから、貴方は貴方でガチで、本気で貴方を楽しめるよう生きればいいんです」
「ふぅー……うん、そうだね。ありがとう。……なんか、楽しくなってきた」
そう言ってワカナさんはもみほぐす俺の手を止め、何度か深呼吸をする。身体を起こし、タオルで何度か目のあたりを拭うと、
「はは、Vtuberでよかったよ。こんな腫れた目でもステージには立てるんだから」
そう言って立ち上がった。立ったなら俺は背中を押すだけだ。
「行ってらっしゃい、ヒーロー」
「行って来ます、ありがと。私のヒーロー」
……誰だってヒーローになれる。
俺だって。きっと。
俺はそう信じてる。
だから、俺は本気で生きる。本気で応援する。
誰かの閉じた世界をぶち壊し、誰かの暗い世界に明かりをともし、誰かの壊れかけた世界に優しさを教えてくれるそんなヒーロー達を支えるんだ。
これまでも、これからも。
だから、
「画面の向こうから声送らないとな!」
俺は本気で生きる、俺を。これまでも、これからも。
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