十二月三十一日(土曜)こくに

 ガラス戸をかりかりして、ニンゲンを呼ぶ。

 ねえ、早く来てー 今日ぼく、すごく疲れちゃったのー すっごくお腹も空いているんだ。白いおうちには今日はごはんがなかったんだよ。お腹空いたー

「あー、こくに! ちょっと待っててね」

 ニンゲンが現れて、ごはんをくれる。ぼくはがつがつ食べる。

「ねえ、缶詰食べる?」

 絶対欲しい! ぼくはニンゲンをじっと見つめた。

「持ってくるね!」

 カンヅメ! あのおいしいやつ!

 わくわくして、食べようとした、そのとき――あれ?

 ぼくは首を後ろへ向けた――誰か、来る。

「どうしたの? こくに?」

 あ、くろ父さんだ。やだやだ、待って! ぼく、今日はすごくお腹が空いているんだ。それに特別にカンヅメもらったばかりなんだよ、ぼくに先に食べさせて!

 望みもむなしく、くろ父さんは止まらずに、のっしのっしと近づいてくる。

 ねえ、父さん、今日だけお願い!

 いや、父さんが先だ。

 ねえ、父さん、今日だけだから!

 くろ父さんはそれに応えず、さっさと餌場へ向かう。

 ――ぼくのカンヅメ!

 ぼくは思わず、くろ父さんに猫パンチをした。

 しかし、くろ父さんは少しも動じることなく、のっしのっしと歩いていく。

 うわぁあああん、くろ父さんのばかばかばか!

 ぼくは、ウッドデッキの隅にうずくまった。――ニンゲンと目が合う。

「こくに、あとでまたあげるから」

 ぼくはいま食べたかったんだい!

 うわぁあああああん‼

 ぼくは悔しくて悔しくて、ダッシュで走り去った。

 泣きながら、走る。

 順番はちゃんと分かってる。くろ父さんが怪我しているから、エイヨウのあるものを食べなくちゃいけないのも、分かってる。でもでもでも、今日はぼくが先に食べたかったんだい!

 落ち葉を踏んだら、かさかさと音がした。落ち葉すら、もう冷たい。

 くろ父さんのばかばか!

 花畑のお庭で、みけと会う。みけに「カンヅメもらえたのに、くろ父さんが食べちゃったんだっ」と言うと、みけは「くろ父さん、怪我してるから」と言う。まるでぼくがすごいワガママを言っているみたいだ。ふんだ!

 ぼくはみけにサヨナラも言わずに、花畑を駆け抜けた。




☆☆☆☆☆

「金色の鳩」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651418101263

「銀色の鳩 ――金色の鳩②」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651542989552

「イロハモミジ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651245970163

よかったら、こちらも見てくださいね。

カクヨム短編賞に応募中です。


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